たまに思う。特撮では市民がピンチになると、ピチッとしたカラフルな格好のヒーローが駆け付けて、敵をやっつける。ドラマだと、都合良く知り合いや通り掛った警察官なんかが、助けてくれたりする。…それって所詮脚本だよなぁ…。
「お嬢ちゃん…可愛いねぇ…。」
ハァハァと息が荒いこいつは『怪人』と呼んで置こう。見た所身の丈2m位、手足のそれは人間の物だが首から上は如何せん人類の原型を留めてなかった。しかし服装と俺を『お嬢ちゃん』と呼ぶ辺りから多分男。そして何より…腕にデカデカと書かれた『倒錯』の文字!意味が判らないにも程がある!
「…帰ろ…。」
びっくりはしたが特に何もして来ない様だし、只の愉快犯の変態…。
「グヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ヒャ―――ヒャヒャヒャヒャッ!!!」
「危ねっ…!な訳無いよなぁ!」
ひょろ長い見た目に反して辺りのゴミ箱やら小さな看板やらを紙くず同然に持ち上げると、笑う様な叫ぶ様な声を張り上げながら、これまた機敏な動きで持ち上げた物を振り回して来る。辺りの人も悲鳴を上げたり逃げたりしているが誰一人助けてくれる勇敢な人間など現れなかった。
「面倒臭…って…!危ねぇ!!」
「きゃっ?!」
丁度道路に面した出入り口から目の前に人が出て来た。怪人から全力逃走中にそれを華麗に避けろと言うのも今の俺には無理な相談だった訳で…。ぶつかった勢いそのまま店の脇の積まれたダンボールに突っ込んだ。
「いっ…てぇ…。」
「芽結?!芽結!!おい、大丈夫か?!」
低い声で我に返る。ダンボールに埋まっていて暗かったが、自分が何か柔らかい物を下敷きにしてるのは判った。
「…って人ぉ?!」
「芽結!!」
びっくりして飛びのくと同時にダンボールがどけられて視界が開けた。と強い力で猫の様に引っ張られるとポイと脇に投げられた。
「芽結!芽結!しっかりしろ!おい!」
「ん…。」
「めゆ?」
「何してくれんだ?!このクソアマ!!芽結が怪我でもしたらどうしてくれんだ?!」
俺を投げた男は崩れたダンボールの山から女の子を抱き上げた。長身に銀髪が異様に目立つ。
「す…すいません…って!そ、そうじゃなくて!変な怪人が!」
「あ?怪人?」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
「ホラ!あれですよ!腕に『倒錯』とか書いてある奴!」
「何…?」
目の前に看板が投げ落とされる。走って来たせいもあってもつれかかった足で避けるのがやっとだった。
「おい、お前!名前は?」
「はぁ?!」
「名前だ、名前!」
「か、蕕音流船ですけど…?」
「…コトダマ『蕕音流船』『身体強化』『敵影攻撃』『敵影』『理性』『平静』
『現実直視』…ロード…。」
「あのー…?」
「蕕音流船、お前は運が良い。いや…悪いのかな?」
『装填完了。』
銀髪男は笑いながら俺の眉間に青く光る銃を向けた。え?何これ?もしかして、もしかしなくても俺死亡フラグ?と言うか銃刀法違反…。
「アクセス!」
ガラスが割れる様な音と、真っ白な光が見えて、俺の意識はそこで途切れた。
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