僕は、知識量には自信がある。
当然といえば当然だ。8年前の「あの事件」まで、僕はこの国の王となるべく育てられたのだから。
さすがに王宮の大人たち──特に、数百年も生きてる某魔導師には敵わないけれど、同年代の中では知識がある方だと思う。
歴史、文学、語学、数学、政治学、地理、宗教──我ながら、よくもまあ幼い頃にこんなに勉強したものだ。
しかし、知識というのは、ときに豊かな発想の枷となるのかもしれない。
何故こんな話をしているかというと、目の前の姉──今となっては、姉ではなく主人だが──が、こんな突拍子もない話をし始めたからだ。
「アレン! あの天に輝く星々を集めてくるのじゃ!」
「……はい?」
夜。普段はこの時間になるとおねむモードになるリリアンヌが、今日は珍しくはしゃいでテラスに出ていた。
で、「また抜け出すつもりじゃないだろうな……」と僕が後ろで見守っていたところに、唐突なこの発言である。
「……どうしたのじゃ、アレン? そんなにぽかんとして」
と、リリアンヌは此方を覗きこむ。先程の発言を受けて、ぽかんとしないとでも思っていたのだろうか?
「星を集める……とは。いきなりどうしたのですか?」
「ふっふっふー……実は、素晴らしいことを思い付いてな……」
「素晴らしいこと?」
「そうじゃ。妾は、集めた星々でオルゴールを作ろうと思うのじゃ!」
オルゴール……? オルゴールって、あの綺麗な音色を奏でる楽器のオルゴール?
「そうじゃ。今朝、エルルカがオルゴールを組み立てておっての。たくさんの歯車を見て、妾は閃いたのじゃ。歯車の代わりに星を使えば、それはもう見事な音色のオルゴールができるのでは、と」
エルルカがオルゴール作り……珍しいこともあるものだ。
って、そうじゃなくて……歯車の代わりに星? 確かに規則正しく動くという意味では似ているかもしれないけれど……。
「リリアンヌ様、どうやって星を歯車の代わりにするのですか?」
わからないことは訊く。これが一番だ。
「どうやって、って……ほれ、歯車はあの"とげとげ"で動いているのじゃろう? そして、星には5つの"とげとげ"がある。同じように動くに違いあるまい」
……ああ、なんとなくわかってきた。
どうやらリリアンヌは、星というものがまさしくあの五芒星の形をしていると思い込んでいるらしい。
幼い頃、僕と一緒に基本的な天文学の勉強もしたはずなのだが……それはまあ、記憶喪失のせいということにしておこう。
「お言葉ですがリリアンヌ様、星はそういう形では──」
言いかけて、ふと、彼女の瞳と視線が合う。
きらきらと、それこそまさに星のような瞳。
『アレクシル、見て! あの双子のお星さま、私たちみたい!』
あの日と同じ輝きの、瞳。
「──ン、アレン!」
「! し、失礼しました」
「どうしたのじゃ、ぼーっとして」
いけない、つい──。
僕はもう戻れないんだ。もう、あの頃には。
……でも。
「ところでリリアンヌ様、どうやって星を集めるおつもりですか?」
「あっ……」
今、星のように瞬くこの刹那は。
「まあ、アレンなら集められるじゃろう!」
絶対に、手放さないから。
星と歯車とオモイデ
※この作品には、小説「悪ノ娘」のネタバレがちょっぴり含まれます。
真面目なアレンと、ぶっ飛んだリリアンヌのコンビっていいよねっておはなし。
ちょっとだけ小ネタを入れつつ、原作小説2巻以降を読んでなくてもわかる内容にしました。
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