オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボで書けることになった。
オリジナルマスターがメイン、というか、マスター(♂)×マスター(♀)です、新ジャンル!
そして、ところによりカイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手は、かの純情物語師(つんばる命名)、桜宮小春さんです!
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)



******



「アキラは可愛いなあ」
「かわいくないもん。かわいいとか言われても嬉しくない」
「素直じゃないのも可愛いぞ?」
「悠サンに女を見る目がないってのは、よくわかった! だからちょっと黙れ!」
「俺はこんなに可愛い生き物はじめて見たけどなあ」
「こっち見んなアホ! かわいいかわいい連呼すんな!」
「なんで? こんなに可愛いのに?」
「とうとう人語も理解できなくなったのか、あんたは!」
「そうか、アキラは可愛いって言われるのは恥ずかしいのか」
「い、いい加減に……!」
「俺は恥ずかしがってるアキラも可愛いと思うんだがなあー?」
「にやにやすんな、変態!」

 調子に乗るな、と、言ってやりたいところだが、この状態では火に油を注ぐだけだと判断して、ふいと顔を逸らす。わざと足を鳴らして台所に向かう。

「おい、アキラ?」
「お茶淹れるだけ!」

 まるい急須にぱっぱと紅茶の茶葉を入れ、ポットのお湯を注いで部屋に戻る。
 相変わらず呆けた面で、悠サンは座っている。さて、葉を蒸らすまでの間、どうしていようか。私は所在無げにパソコンデスクのイスに座って、悠サンに対してすこし斜めに身体を構える。つくえひとつ分、距離が開いた。



―Grasp―
アキラ編 第十五話



「……なんだろうな……こういうのを、幸せって言うのかな」
「い……っ、いきなりなにを言いだすんだい、あんたって人は」

 また妄言が始まったか、それともさっきの延長で弄るつもりだろうか。そんな手には乗らないぞ、という牽制の意味も込めて睨みつけてやると、悠サンにはきょとんとされた。
 なんだ、なんなんだ。ぷいとそっぽを向くと、ふっと溜め息の漏れる音が聞こえた。

「いや……なんか、ほっとしたっていうか……俺、今、すごく安心できてる」

 言葉の意味を計りあぐねて、思わず眉根を寄せた。ちらりとそちらを向くと、悠サンは、視線に気付いているのかいないのか、すこしだけ天井を仰いで、ひとりごとのように呟いた。

「すごいな、恋って」

 ちょっとまて、いまなんて言った。

「悠サン……そういうこっぱずかしい事を平気で言うの、どうにかしてくれないかな」
「そんな変な事言ったか?」

 私にとっては、小中学生女子でもあるまいに、恋、なんて言葉を、臆面もなく口に出せてしまうことは、よっぽど恥ずかしいことだと思うのだけれど、あまりに邪気のない顔で見返されるものだから、私の感覚がずれているのかと思ってしまう(じっさい、私はすこし考え方が古風だといわれるし、自覚もしているけれど)。
 すこしだけ目を伏せてから、イスを降りて、紅茶をカップに注ぐ準備をする。

「ほんとに……はずかしい人だね、悠サンは」
「え、ちょ、どういう意味だよ?」
「もういいよ、忘れて」

 はずかしいことをしているのに、それに気づいていないなんて、余計にはずかしいと思うのだけれど……。私より4つも年上なのに、この青臭い感じといったら、もう盛大に溜め息をついてもゆるされるだろう。
 カップに、少し色の濃い紅茶が注がれる(しまった、蒸らしすぎた)。

「……そういえば」
「今度は何」
「お前……さっきからずっと、俺の事見てないよな」

 ――ああもう、このひとは!

「ど、うだっていいだろう」

 たしかに意識して目線はあわせていない。それどころか、まともに悠サンの方を見ていない。
 だって、今の悠サンを見てみろ。鼻の下伸びまくりで、いい歳してへらへら笑いが漏れていて、みっともないったらなくて。
 ……それでいて、すごく幸せそうで、思わずこちらまで微笑んでしまいそうになるから、はずかしくて見ていられないのだというのに。

「……アキラ?」

 悠サンが、ベッドから腰を上げて、こちらに寄ってくる。思わず立ち上がって一歩引いた。正面に立った悠サンは、善人とはいいがたい笑みでこちらを見下ろして、私の名前を呼んだ。

「アキラ、ちゃんとこっち見ろよ」
「なんでわざわざ、あんたのこと見てやらなきゃいけないのさ」
「俺がちゃんとアキラの事を見ていたいから」
「っ、またそういう……!」

 思わず顔をあげてしまったけれど、すぐに視線を下に逸らす。
 見ていられない。なんだこのはずかしい生き物。百歩譲って、悠サンの中の私が可愛い生き物だったとしよう、でも、私にとって悠サンは、私がみてきた中でもっともはずかしい生き物だよ!
 言ってやりたいけれど、胸につかえて言葉がでてこない。ああもう、なんで私は泣きそうになっているんだ! 人間追いつめられると涙が出てきそうになるというのはほんとうだった、もう何に追いつめられているのかすらわからないくらい、私は切羽詰まっている。
 それでもなんとか顔をあげて、その双眸に照準を合わせる。

「……まだ文句ある」

 私が睨んでいるはずの悠サンは、ちょっとびっくりしたような表情の後、満足げに笑んだ。
 なにがそんなにたのしい、と、口に出そうとしたけれど、それを音にする前に、顔全体が布に覆われる感触がして、私はぐっと息をのんだ。

「な」

 口に出すつもりで脳の中に用意しておいた「なにがそんなにたのしい」という問いは、あっさりと書きかえられて、「なにしてんだあんた」という問いになり、しかし、あまりのことに舌がじょうずに動かない。
 顔が布に覆われたんじゃない。私が悠サンに抱きしめられているんだ、と、気付いた時には、もう口からだそうと思っていた疑問もかき消えるくらいの混乱に落ちていた。

「な、な……!」
「すまん、我慢できなかった」

 ふだんなら、辛抱が足りない男はモテないよ、とでも言っているところだったろうけれど、耳にかかる吐息がくすぐったくてそれどころじゃない。無遠慮に抱きしめてくる腕に対して、身体をこわばらせるので精いっぱいだ。

「好きだ」
「っ、しつこいよっ」
「付き合って、くれるか」

 もう我慢も限界だ。頭に血がのぼるのがわかる。ああ、なんて、なんてはずかしいんだろう!
 こわばる両腕をなんとか伸ばして、渾身の力で前に押しだす(それでも、ふだんの半分の力もだせていない感じがする)。

「そ、いう、はずかしいこと言ってるうちは、へへ返答をっ、拒否する! い、いいい一生待ちぼうけくらってろ!」
「……そうか、待たせてはくれるのか、そりゃ良かった」
「なに勘違いしてるんだばかおとこ! 頭わいてるんじゃないのか!」

 ああもうこのままでは、私の方が参ってしまう! 誰かたすけてくれ!

 ――ぴんぽーん。

 ちょうどよく、ドアチャイムが鳴る。
 はっと時計を見る。たぶん、この時間に来るということは、十中八九この来客は美憂先輩だ。いや、美憂先輩でなくても、逃避できると言う意味では、誰だってありがたいのだけれど。
 慌てて玄関の戸を開けると、ラフなかっこうの美憂先輩が立っていた(たすかった、ほんとうに)。

「や、アキラちゃん。悠は……案外元気そうね」
「まぁ、なんとかな」
「すみません美憂先輩、急に来てもらって……」
「ううん、私も悠の過呼吸の事、教えておけばよかった」

 眉尻を下げた美憂先輩に、笑いかけてみる。美憂先輩は、悠サンにたいしてお母さんみたいな態度をとることがある。悠サンのかかえる疾患のことまで、他人の私に教えていなくてもいいのだし、それを申し訳なく思わなくてもいいのに、今の美憂先輩の顔は、まるで子どもの失敗を謝罪するお母さんのそれのようだ。

「いえ、私も過呼吸の対処法は心得てますから」
「ほんとにありがとうね、アキラちゃん。じゃあ、長居するのも悪いし、行こっか、悠」
「おう」

 玄関への道を悠サンにゆずる。悠サンが靴を履いている間に、美憂先輩は、先に車に行ってるよ、と言って、玄関から離れて行く。悠サンが後を追うように玄関を出ようとしたところで、ふとこちらを振り向いた。

「っと、今週末、空いてるか?」
「はい?」
「曲。もうあとは修正して、あいつらの調声するだけだろ」

 ああ、そうか。初音さんがUSBを置いていった時点で、もう調声からは私だけの仕事だと思って心づもりしていたから、なんだか日時の打ち合わせも新鮮なきもちだ。コラボの初期と同じような感覚になる。
 もっとも、始めた頃と今とでは、かなり状況が変わってきているけれども。

「まさか、今さらやらないとか言わないよな」
「そんなわけないでしょう」

 まさかここで辞めるなんて言ったら、ここまで作ってきた音楽に失礼だ。なんて軽率なことを言うんだ、と、とがめてやりたい気もちで、無意識のうちに不機嫌な顔になる。

「よし。それじゃ週末に……俺の家で、だよな」
「そう、だね。その方がいい」
「じゃあまたな、アキラ。楽しみにしてる」
「……わかったから、とっとと帰っておとなしくしてなよ」


 手を振る悠サンを一瞥してから扉を閉めると、部屋の中に静寂が落ちた。


「……台風一過、か」

 なんだかどっと疲れた気がする。部屋に戻り、紅茶を片付ける。ひとくち口をつけたが、生ぬるくなってしまった紅茶は、その渋みも相まって、とても美味しいとは言い難かった。不味くなってしまった紅茶を遠慮なく流しに捨てて、再び部屋に入る。
 ふとパソコンの方を見ると、電源ランプがチカチカと点滅しているのに気がついた。そういえば、悠サンが来てからも、ずっと電源を落としていなかったのだった。くるりとマウスを動かして、画面を起こす――そうしたところで、違和感を覚えた。
 このパソコン、なぜこの長い間放置していたのにスリープになっていない?

「マスター……」
「……盗み見も盗み聞きも、たいがい良い趣味とはいえないね。めーこさん」
「すみません」

 ずっと画面上で待機していたのか。……ということは、すくなくとも今ここにいるめーこさんには、全てだだ漏れだったということか。画面の中のめーこさんは、すこしうつ向き気味に、手をもじもじさせながら立っている。

「かいとくんは」
「ショックのあまりフォルダに帰ったと言えば、信じます?」
「なくはないかな……って程度に理解しておく」

 なんともばつのわるい話だ。かいとくんには、なんというか……今は申し訳ないとしか思えない。めーこさんには話してあるけれど、かいとくんには話していない事情も多い。だいいち、先までの行動は、以前に私が彼に語った論とかけはなれている。
 これで、かいとくんの私に対する信頼が揺らがなければいいのだが。

「……聞いていたんならわかるだろうけど、最終調声は今週末。それまで色々準備するとおもうから準備しておいて、と、かいとくんにも言っておいて」
「はい。……マスター、よかった、ですね?」

 遠慮がちに、それでも目線はまっすぐにこちらを見るめーこさんと、視線を合わせられなかった。よかった、というには、あまりに困惑げな表情だ。きっと、私も似たような顔をしているのだろう。

「よかったと思うかい」
「私個人としては、喜ばしいことだと思います」
「そうか」

 ありがとう、と、言うと、いいえ、と、答えが返ってくる。
 めーこさんは、察しのいい子だ。それに、私のことをよく理解してくれている。気を遣われている、とすら感じてしまうほど。

「……ごめん、めーこさん。キミには要らない気を遣わせたかもしれない」
「大丈夫です。白瀬さんなら、わかってくれますよ」
「……そうだね。でも、やっぱりこういうときは、きれいじゃない身体が憎いよ」
「マスター……」
「あと3年早く出逢っていたら、と、思うのは、きっと不毛だろうね」

 悠サン。あなたの言った言葉は、私も間違いではないと思う。恋とはときにすばらしい。
 でも、それが、常にすばらしいかといえば、一概にそうではないのだ、と、私は身をもって知っている。それをすばらしいものとし続けるには、きっと多大な労力が必要に違いない。
 いつかあなたは、あなたの恋のすばらしい状態を維持するのに、疲れてしまうかもしれない。そうして、私と一緒にいることを、後悔する時が来るのかもしれない。
 ――それでも、私がそれをさせない。後悔も、悲しい思いも、しないしさせない。私も、最大限の努力を払おう。昔の自分にできなかったことが、今の私には、できるはずだ。
 どうか、彼のひとにも、私が傍にいてここちよい存在であるように。

「大丈夫さ。もう、さみしい歌は歌わせないよ」
「そうならないように、願っていますよ」
「ああ。もし、そうなったとしても、今度は前向きな曲作りをするさ」
「マスター……私の言いたいのはそういうことじゃなくて……」

 呆れ顔のめーこさんに、わかっているよ、と微笑みかけて、私はパソコンの電源を落とした。

 「本当に愛する人ができたら、絶対にその手を離してはいけない」と言ったのは、誰だったか。
 その意味をやっと噛みしめられるくらいに落ち着いたこころを抱えて、私は、既に暗くなったパソコンのディスプレイから離れた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第十五話 【アキラ編】

マスターの設定で異様に盛り上がり、自作マスターの人気に作者が嫉妬し出す頃、
なんとコラボで書きませんかとお誘いが。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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アキラ、かなりデレが出るの巻。

今回のアキラも、読んでて誰だコイツとか思ったのは私だけじゃないはず!
ほんとにほんとに誰コイツ! 誰、コイツ!? なにこの恥ずかしい生き物(たち)!
悠の本気おいしいです^p^ とか言ってたらこはさんの本気もそうとうおいしかったです。
おいしすぎて砂糖が吐けそうなんだぜ……!

ちなみに、最終段落の括弧内は、金城一紀の「対話篇」という本の煽り文句です。
オススメです、読んだことない方は是非一度読んでみるといいと思いますー!

悠編では、先輩が本気出して更にメラリされているようなので、こちらも是非!

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白瀬悠さんの生みの親で、悠編を担当している桜宮小春さんのページはこちら!
http://piapro.jp/haru_nemu_202

閲覧数:357

投稿日:2010/03/04 02:25:15

文字数:5,553文字

カテゴリ:小説

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