痛い痛い、痛いって言ってるじゃない、なんでそんなに見てるのよ。
譜面の内容なんて、全然頭に入ってこない。だって、彼がさっきからめちゃくちゃ見てくるんだもん。
目を合わせたら負ける気がして──何に負けるのかというのは、自分でもよく分からないんだけど──気を紛らわそうと努めると、どうしても楽譜をめくる手が早くなった。
(ああ、もうだめだわ)
じっくり読んでるふりをすればよかったのかもなんて、今更思ってもあとの祭り。
逃げ場をなくしたわたしは諦めて──声をかける。
「リント。譜読みしなくてもいいの?」
「……俺、ちょっと気になることがあるんだけど」
まさか「だろうね」とは言えなかったので黙って聞いていると、よっぽど触れてほしかったのか、冷静ぶったその奥に、きらきらと、期待のようなものがちらつく。こういうときって厄介なんだ、うん。
身構える私など意にも介さず、彼は右手に持っていただけの楽譜をテーブルに置いて、ずいと身を乗り出してきた。
「レンカさ、前髪邪魔じゃない?」
「は?」
「俺のヘアピン貸してやるから、ちょっと付けてみろよ」
「ええ……いいよ別に、これがわたしだし……」
「うるさい。可愛い顔してんだから、見せなきゃ損だぞ。いいか、顔は武器だ」
「ちょ、ちょっと」
いいと言っているのに、彼はどこからか櫛まで取り出す。見慣れた白のヘアピンが、いくつか銜えられている。
「ねえ……前髪留めるだけにしては、なんか」
「やっぱ、ちょっと髪いじらせて」
記憶によると、当初は三人掛けのソファに、一定の距離を置いた状態で座っていたはずなのだけれど──いつの間にか右側にはたっぷり余裕があって、わたしはこれ以上どうにもならないところまで追い詰められていた。
いや、追い詰められている。今もなお。
「リント、狭いって」
「んー、やっぱ隣に座ってちゃやりにくいなあ」
「せま……」
「レンカ、向かい合う方がいい? なんなら俺の膝の上でもいいよ」
「ちょ、おま」
「せっかく長い髪なんだから、色々やってみればいいんだよ」
「聞けやあああ」
これは参った、他ならぬ「鏡音」同士の会話が噛み合わないなんて由々しき事態だ。
「……リント」
「なに?」
「わたし、まだ「いい」とも言ってないんだけど……」
「なんだよ、今日はやけに細かいな。どーせ拒否なんてできないくせに」
そんなに自信たっぷりに微笑まれてしまったら、どうしても打ち砕きたくなってしまう。
けど、彼の言うことは正しい。わたしが彼を本気で拒んだことなど──少なくとも今のところは、ゼロだ。
「はいはい、どうぞ好きにしてください、リント様」
「だからレンカってスキ」
「ああ、そうですか」
「……んー、ツインテールは初音ミクとかぶるか……やっぱポニテ……なあ、どっちがいい?」
「──リントが似合うと思う方」
「……なんだよ、いきなり可愛いなお前」
「……やっぱなんでもない忘れて」
「照れるな照れるな……これ終わったらぎゅーしてやるからっ」
「いい! いいです遠慮します!」
「素直じゃないなー……お、やべえレンカ髪さらさら! うおお」
「……うるさいよ……」
自分じゃない誰かに髪を触られるのが、こんなに落ち着かないことだったとは知らなかった。
現在のわたしは、さっきよりも、更に機嫌良さそうに、鼻歌まで歌っている──そんな彼の、膝の上、だ。
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あ、どーもどーも。鏡音リンです。
名前だけで分かるかなぁ? え、分かる? わー、どうもありがとう! 私も最近になってようやく、ミク姉ぇに負けないくらい認知されるようになってきたかなー、なんて……わーウソウソ、今のなし!
チョーシこいてると思われるのもアレなんで、一応説明しとくと。
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wanita
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うおお膝の上、だ!ごちそうさまでしたッ^^*
2011/02/06 18:08:20