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 ―――――………また誰か、あたしを買ってくれたみたい。


 これでいったい何人目だろう。もう二ケタを超えた気がする。買われた回数も、返品された回数も。


 ………でも今度はなんだか、悪い人じゃなさそう。


 あたしの外見に魅かれたとか、そんな感じじゃなさそう。


 とても……優しそう……そんな予感がする。



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 「……さて……どうしたらいいのやら……。」

 起動したパソコンの前で、僕は途方に暮れて大きなため息をついた。





 ここまでの経緯を大雑把に説明すると。

 家に着いた僕は、さっそく『VOCALOID 初音ミク』をインストールした。

 説明書とにらめっこしながらインストールを完了させた。

 元々DTMに興味のあった僕は曲を作るのに必要な機材は一通り持っていたので、あとは色々打ち込んで曲を作ってみるだけ。

 ……が、そこまで来て何も思いつかなくなってしまった。

 適当に打ち込んでしゃべらせるにも、テーマもうまく決められなかった。適当に歌わせようにも、何を歌わせてみるか決められなかった。

 その結果、僕はパソコンの前で頭を抱え、今に至る、と言うわけだ。


 「……やっぱり僕は、何をしたって駄目なのかな……。」


 僕は俯いて、もう一度大きなため息をついた。



 僕はダメだ。何をしたって、上手くいかない。

 いや、何もせずとも嫌われる。遠ざけられる。

 僕はこのまま……消えてしまったほうがいいのかもしれない。



 そんなことを考えていた、その時だった。





 『―――――君の言葉が、あたしには必要だよ。』





 「!!!!??」


 突然脳裏に響いた声に、僕は思わず跳ね起きた。…首をもたげた拍子に思いきりライトスタンドに激突した。地味に痛い…。

 それはそうと、今の声は一体どこから……?

 あたりを見回し、そしてPCの画面を見た瞬間、僕は驚きのあまり椅子ごとひっくり返りそうになった。



 ―――――今まであったウィンドウはすべて消え去り、真っ黒な画面の真ん中に、虹色にもやもやと光る影、そしてその前に――――初音ミクが映っていた。



 「え………あ………!!?」


 僕が驚愕で金魚のように口をパクパクさせていると、初音ミクはくすっと笑った。


 『ふふ、びっくりしてるみたいね。』

 「え……ああ………。」

 話しかけられた。僕のことを、認識して喋っているみたいだ。

 僕は恐る恐る、話しかけてみた。


 「あ………あの……君は……『初音ミク』なのk」

 『ストーップ!!』

 「へっ!?」


 出会い頭でいきなり遮られた。何だよ一体!?


 『あたしのことは、『ミク』って呼んで。初音ミクなんて呼んだら怒っちゃうんだからね!』

 「……あ……ああ……。それで……み……ミクは……何で映って……っていうか……ええ?」


 混乱している中で、僕は店主の言葉を思い出した。


『何度か買ってくれた人もいたんだが皆一様にして『変な声が聞こえる、怖いから返す』と言って返品してくるんだ』


 ……このことだったのか……。

 僕が考え込んでいると、ミクは少し悲しそうに笑ってまた話しかけてきた。


 『君がインストールしてくれてから、あたしずっと君のことを見てたよ。』

 「え……?」

 『【自分はいつでも嫌われ者、何もせずとも遠ざけられる】。【努力をしてみようとしたって、理由はいつだって『なんとなく』】。そんなことをずっと考えて、君は途方に暮れて悲しんでたよね。』


 思わずびくっと身を震わせた。そうだ、ミクの言っていたことは、ついさっき僕が考えていたことだ。

 僕は俯いて、呟いた。


 「……そうさ。僕はダメなんだ。何をしたって、上手くいかない。何をしようにも、何も思い浮かばないんだ……。」


 ああ、言っているだけで心が沈んでくる。

 やっぱり……僕は―――――




 『……なら、あたしの声を使えばいいよ。』




 「……え?」


 思わず聞き返した。



 『あたしの声で、君の『ほんとう』を伝えればいいよ。』

 『そりゃあ、人によっては理解不能かもしれない。』

 『『なんて耳障りな声だ』『こんなひどい声聞きたくない』って言われることもあるよ。』


 『―――――でもきっと君の力になれる。』


 ―――――心の中で、音が響いたような気がした。


 『こんなあたしでも、君の『ほんとうの言葉』をみんなに伝えるために歌えるよ!』


 何も思いつかなかった頭に、少しずつだけど言葉が生まれてきた。


 『だからあたしを歌わせてみて……!』


 ああ、君の力を借りれば、伝えられる気がするよ、ミク。



 『そう……君の―――君だけの言葉でさ――――――――――』




 僕だけの言葉を――――――――――!!





 『綴って。連ねて。』


 僕の言葉が、ミクの声で響いていく。


 『あたしが、その思想《ことば》を叫ぶから……!』


 僕の言葉一つ一つに、ミクの声が魂を吹き込んでいく。


 『描いて……理想を―――――!』


 この想い。君に託すよ―――ミク!


 『その想いは誰にも……触れさせない―――――!!』





 《ガラクタ》扱いされたミクの声が、《ガラクタ》の僕の声を乗せて響いていく。

 ありのままの僕の言葉を、不器用につなぎながらも。

 ミクが、目一杯大声を上げて伝えていた。





 そんなこんなで始まった、僕とミクの幸せそうな物語。



 ……それが僕自身の手によって終わってしまうなんて、その時の僕は思ってもいなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【自己解釈式二次創作風小説】ODDS&ENDS~歌姫《ガラクタ》と僕《ガラクタ》の二重奏《デュエット》~②

連続投稿!こんにちはTurndogです。

このストーリーは、DIVA-FのPVをモデルにしています。
そのうち見覚えのある風景が頭の中に浮かぶかもしれませんねw


『もう機械の声なんてたくさんだ―――――』

閲覧数:323

投稿日:2013/02/28 23:23:08

文字数:2,497文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    DIVA-fは、vitaがない私には買えなかったのです

    しかーし!DIVA-Fは買う! だって、そのためにPS3を買ったのだから←

    2013/03/04 23:40:34

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    うおぅ……!
    すごい、歌詞をこう使いますか……!
    おお……おおおおぅ……

    2013/03/01 21:19:54

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      いえいえ、逆です!
      むしろこうでしか使えないのが私の低クオリティを表現しているのであり云々(うるせえよ

      2013/03/01 21:36:46

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