一体どの位時間が経ったのかもう解らなかった。ただひたすらに集中して守っていた。イベントのステージを、はしゃぐ観客を、通り過ぎるだけの人を、文字化けと戦う皆を、大好きなあの人を…。
「本部!こちらイコです!武器が…!」
「『Cancer』と『Scorpio』も破壊!残り7です!」
「思ったより早いな…幎の発生は?」
「まだです…ウィルス発生も見られません。」
私は皆みたいに戦う事は出来ない…だけど守る事は出来る…傷付かない様に、失わない様に…。
「うわっ?!…何だ…?!おい本部!!純が…!!」
「どうした?!」
「――っ!大容量データ発生確認!幾徒様!」
「来たか…。」
辺りの空気が張り詰めたのが解った。高い耳鳴りに似た音と共にモニターごしに真っ黒な翼が見える。あの時と同じ、飲み込まれそうな翼だった。どうしてだろう?あんなに怖かったのに、あんなに酷い目に遭ったのに、今はとても哀しく見える。
「――聖螺…っ!」
「え…?」
気が付くと目の前に翼が広がっていた。血の様に真っ赤な目からはポロポロと涙が零れてる。苦しいんだろうか…?
「タ…ケテ…!…苦シ…イ…タイ…!」
「痛い…?」
「聖螺危ない!」
大きな音と光に思わず顔を伏せた。恐る恐る目を開けると黒い翼はもう無くて、真っ白な背中が私を守ってくれていた。不謹慎だって解ってる、端から見たら馬鹿みたいだって、子供じみてるって、本当は恥ずかしがってる事も、全部全部解ってるつもりだけど…。
「…王子様。」
「…はい…。」
「大好きです…。」
一緒に居たい、守りたいって思った…ううん、思ってる。
「ステージ進行を!くれぐれもパニックにならない様に!」
「MC入って、武器が割れた適合者はレッド以外無理せず退避!」
無線から聞こえる声に浅い溜息を吐いて向き直ると、ゼロさんはそっと私の頬に手を置いた。
「行って来る。きっともう少しだから。」
「はい…。」
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