【二次創作】僕の君の心臓(第3章)

投稿日:2014/12/20 12:13:08 | 文字数:2,308文字 | 閲覧数:63 | カテゴリ:小説

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人工モノクローム(詩:八白 曲:でっち)さんの同名楽曲をモチーフにした短編小説の第3章です。

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TEXT
 

パンを買うお金を無くしてしまった少年は、それでも引き返すことをせずにパン屋の前までやって来ました。
無駄かも知れないと分かっていても、そうするしか無かったのです。

しばらく店の前をうろうろしていると、その様子に気付いた店主が出てきて少年に話しかけます。
「よう坊主、今日は遅かったじゃないか。」
「あ・・・うん・・・こんばんは。」
「どうした、パンを買いに来たんだろう? いつものでいいのか?」
「あ・・・あの・・・それが・・・」

ボソボソとしか話さない少年に苛立ちを覚えた店主は、少し声を荒げて言いました。
「おい、もう少しはっきり喋りな! いつものでいいのか?」
「それが・・・その・・・お金・・・」
「あん? 金がどうしたって?」
「お金・・・無いんだ・・・落としちゃって・・・」
「何ぃ?」
店主は顔に手を当て、空を仰ぐような仕草をしました。
「ああなんてこった、金が無いだと? それじゃパンは売れないじゃないか。」

少年は、勇気を振り絞って店主に頼みました。
「お願いだ、パンを売ってくれよ! お金は明日必ず持って来るからさ!」
しかし店主は、必死に懇願する少年に冷たく言い放ちます。
「駄目だな、うちは味も値段も街一番のお買い得が自慢だが、そのために掛け売りは一切やらないんだ。
 さあ帰った帰った。」

「そんな・・・このまま帰ったら俺、親方に殺されちまうよ・・・」
「そりゃあ気の毒だがな、うちもギリギリの商売してんだ、勘弁してくれよ。」
店主は申し訳なさそうに言いましたが、本心でないのは子供でも判ります。

少年は仕方なく、もと来た道を引き返すしかありませんでした。
足取りは重く、ただでさえ長い帰り道が余計に長く感じられます。
狭い路地を抜けて大通りに出た瞬間、冷たい風に煽られて少年は思わず身震いし、
歩きながらふと空を見上げました。
そこには、これまで見たこともないような大きな満月が浮かんでいて、
それを見たとき、今まで親方への言い訳ばかり考えていた彼の脳裏に、
あの少女のことが甦ってきたのでした。
「あの子、大丈夫かな・・・」少年は心の中で呟きます。
いつしか彼は、少女のいる病院の近くまで来ていました。

いくつかの窓からは光が洩れていましたが、南端の病室に相変わらず明かりは無く、
病院全体がひっそりと静まり返っていました。
もしかして、病状が悪くなって別の部屋に移されたのか?
あるいは、もう・・・
気持ちが沈んでいると、悪い考えばかり浮かんでくるものです。

その時でした。
少年は、少女のいた部屋の窓が開いていることに気付きました。
見間違いかと思い目を凝らしてみたけれど、間違いなく窓は開いています。
しかし辺りはもうすっかり暗く、その先に少女の姿は見えません。

少年はもう、いてもたってもいられなくなって、柵を乗り越えて病院の庭を駆け抜け、
窓の下までやって来ました。
靴を脱ぎ、窓枠に手をかけ、両腕に力を込めて身体を持ち上げます。

そこには、ベッドに横たわり静かに寝息をたてている少女の姿がありました。
「よかった・・・まだ生きてたんだ。」
少年はなるべく音をたてないように、そっと窓枠に足をかけ、病室の中へと入りこみました。
しかし次の瞬間、床がギシッと音を立てたのです。

「誰?」
気配に目を覚ました少女は、月明かりを背にして窓際に立つ人影を見ました。
暗くて顔は見えなかったけれど、その背格好から彼女にはすぐに察しがつきました。
「あなた・・・いつも柵の向こうから見ていた子ね?」
「・・・」
黙っている侵入者に、少女は続けて話しかけます。
「私ね、一度でいいからあなたとお話がしてみたかったの。」

「・・・あんた、俺が怖くないのかよ?」
「どうして? あんなに優しそうに笑いかけてくれる人を怖がる理由なんて、私にはないわ。」

「そっか・・・」
少年は少し声のトーンを高めて言いました。
「僕もね、君と話がしたかったんだ。 でも・・・君ともうすぐ会えなくなるような気がして・・・
たまらなくなって、こんなとこまで来てしまった。」

その言葉を聞いて、少女はくすっと笑うと、
「さっきは”俺が怖くないのか”だなんて、強がってたのね、かわいい。」
「かっ・・・からかうなよ!」
「ふふ、ごめんなさい。 でも嬉しいわ。 私、あなたにお別れを言おうと思ってたから・・・」

「え?」

「私ね、心臓が悪いの。 今はお薬が効いてるから、こうしてお話もできるけど、
 それもたぶん、もうすぐ効かなくなるわ。 そうしたらもう・・・ 」
「そんな・・・」
少年は言葉を詰まらせました。
そしてしばしの沈黙の後、言いました。

「僕と君の心臓を取り替えることができたら、どんなにいいだろうに。」

少年の突飛な申し出に、少女は苦笑しながら答えます。
「それじゃあなたが死んでしまうじゃない、ダメよ、そんなの。」
少年は、自分なんて死んでも構わないんだ、と言いかけましたが、その言葉を飲み込み、
少し考えてこう言いました。
「それじゃ、せめてあの満月にお祈りしよう。 君の心臓が少しでも長く動き続けるように。」

「ええ、ありがとう。」
2人は窓の外に浮かぶ銀色の月に向かって、しばし祈りを捧げました。

「それじゃ、僕はもう帰るよ。 あまり長く起きていると体に毒だから。」
「さようなら、もしできたら、また来てね。」
「うん・・・」
少年は頷くと。窓から外に飛び出しました。
遠ざかっていく足音を聞きながら、少女は同じ言葉を呟くのでした。

「さようなら・・・。」

名乗るほどの者ではありません。

絵も描けない、曲も作れないくせに登録してしまった物好き。
たまに小説とか書くことがありますw

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