#「かなりあ荘の幽霊・前編」



やかましい蝉の声が裏の神社から鳴り響く季節

近頃、軍人さんやお金持ちの人には、西洋のハイカラな洋服というものがある

この街の街並みも、昔とはずいぶん変わったと呉服屋を営む父親が言っていた気がする

もしかしたら、時代は変革の時なのかもしれない


けれど、一般庶民の私には、あまり関係ない

趣味は読書と裁縫だし、洋服とかいうハイカラなものにも興味はない

私はいつものように風呂敷に教科書を入れ、袴姿で女学校へと向かう


……私は幸せなほうだ

なぜなら、今の時代、女でありながら、教育を受けることができる人がどれだけいようか

ましてや、ただの庶民が、高いお金を出してまで教育を受けることができるなんて……


学校では主に裁縫を習う

そのほかにお茶やお花、家事など、個人個人が選択する


私の家は呉服屋であるため、必須の裁縫は小さいときから大得意

先生からも褒められる

けれど、それでも新しく教わることは多く、毎日が楽しい

まぁ……裁縫以外のことに関しては、からっきしで、家柄のすごいお嬢様な友人にいつも助けてもらっている




教育を受けられて、頼れる友人もいて、両親も元気、夢はいい旦那さんをもらって一緒に呉服屋を継ぐ

そんな何一つ不自由のない私が……

あと一年後には、ここにいないなんて……誰も思っていなかった

……もちろん、私自身も

















私は学校帰り、辺りが一面真っ白になった道を、白い息を吐きながら一人で歩いていた

友人たちは家から迎えが来るので、帰りは私一人

そんな私には最近、悩みがある


なんとなく……体が重く、少し熱っぽさも感じる

そのせいか、今一つ食欲もない

まぁ、そのおかげで、今日、友人から「あれ?痩せました?何か運動でもなさっているの?」と言われ、少しうれしかったが……

どうもやる気が出せず、得意の裁縫でさえ、失敗をする


まぁ、でも、一時的なものだろう……そんなふうに私は考えていた





ところが……雪が解け、梅の花が咲き誇るころになっても、いまだに体が重い

そして、さらに咳が頻繁に出る

授業中に咳をして、何度も周りに迷惑をかける

あまりに長引く風邪に、ついに母親が医師を家に呼んだ


私は布団に入りながら、医師に言われるがままに診察を受けた

それが終わると医師は母親と共に別の部屋に行ってしまった

なぜ、私に直接いわないのだろうかと不思議に思った


しばらくして、母親がマスクをしてやってくる
そして、一言……「あなたはもう学校に行ってはいけません」

私は驚いた

当然、私は首を振って「どうして!」と叫ぶ

けれど、それと同時に咳が出る

苦しい……

母親が背中をさすってくれる



そして、悲しそうな顔で私をみる

「……あなたは……」

そこで言葉が詰まる母親

「なに?言って?」

私はこの時……母親の目に浮かぶものを見て、すでに察していたのかもしれない


「あなたは病気なの……それも…………末期の結核らしいの……」






私は辺りのすべての音が聞こえなくなった

頭の中で「結核」という言葉だけがループする

結核は不治の病として、世に知れ渡っている恐ろしい病気

空気感染もする……

だから、目の前の母親はマスクをしているのだ……

あぁ……そうなると、学校の友人たちは大丈夫だろうか……

あぁ……そういえば、来週、裁縫の試験があるんだった……練習しようかな……

あぁ……そっか……もう、学校はいけないのか……

自分の中で、現実からの逃避をしてみるが、手の震えが止まらない


「うぅ…………ごめんなさい。私がもっと早くに気づいていたら……ごめんなさい」


泣いている母親の一言が私を現実に引き戻す


「いやぁああぁぁぁぁああぁぁぁ!!!」


私は叫び、せき込みながら、枕に顔をうずめる


「だって、私は……私はまだ……14で……これから、たくさん勉強して、たくさん恋して……幸せな家庭を……」


この時、私の流れ出る涙と共に、将来に対する希望も流れ出てしまっているようだった

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【前編】かなりあ荘の幽霊【byしるる】

かなりあ荘には、お化けがいるという、なんとなく設定をしたので書いてみました

彼女はこの後、どうなるか……いや、まあ、確定事項はあるのだが……

後編へ続く!!
http://piapro.jp/t/jqfv

閲覧数:164

投稿日:2013/06/18 22:11:35

文字数:1,744文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました