この物語は、カップリング要素が含まれます。
ぽルカ、ところによりカイメイです。
苦手な方はご注意ください。
大丈夫な方はどうぞ。
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その日の店はいつもより賑わっていた。ライブでルカともう一組がそれぞれ演奏するプログラムだったためだ。既にルカの演奏は終わり、今はもう一組が次の演奏までの間の休憩を取っているところだ。
彼女はいつもの席に居たが、その隣にそのもう一組の面子が座っている。がくぽの前のマスターの頃からこの店に顔を出しているカイトとメイコだった。
会話をしているのは主にメイコとルカで、音楽の話で盛り上がっていた。ルカは音楽の話題では饒舌になりやすい。がくぽもルカと一緒に活動をし始めて分かったことだった。カイトは二人の様子を笑顔で眺めている。
「メイコさん、次のステージの準備お願いしていい?」
カウンターの外側へ回りこんでリンがメイコの肩を軽く叩いた。
「あれ? もうそんな時間?」
リンが頷くと、カイトが席を立って苦笑した。
「めーちゃん音楽の話だと時間忘れるから。」
メイコはカイトを軽く睨み、
「何よ、いいじゃない。……ごめんね歌い終わったらまた続きよろしく!」
立ち上がり様にルカへ片目を瞑って微笑み、
「リンちゃんありがとう。」
優しく笑ってリンの背を軽く叩き、カイトと一緒にステージへ歩いて行った。
その二人の様子にリンが小さく笑い声を立てた。
「……メイコ姉さんてば相変わらずだね。」
他の人間には表情豊かに接するくせに、カイトと二人になると途端に愛想がなくなる。見ていると可笑しくなる程だ。がくぽが二人に初めて会った時からずっと変わっていない。
「ルカさん、グラスが空になってますけど何か飲まれます?」
リンがルカの目の前のグラスを見て声を掛ける。ルカは首を振って答えた。
「ありがとうございます。実はもう少しで帰らなければいけないので……お二人が歌い終わったらお会計いいですか?」
「畏まりました。」
にっこり笑ってリンが言い、他の客の注文を受けにその場から立ち去る。がくぽはルカへ訊ねた。
「もうお帰りになるんですか?」
「ええ、すみません……明日早いので。お二人によろしくお伝えください。」
ルカは済まなそうに微笑んだ。ステージから楽器の音色が流れ、二人の演奏が始まった。
がくぽが最後の客を見送り、カウンター裏へ入ってカイトとメイコの前に戻った。
「がくぽ、おかわりくれる?」
メイコが頬杖を付き空のグラスを揺らして笑った。客が居なくなった途端にマスターから昔の呼び方へ逆戻りだ。がくぽは苦笑して頷き、大人しくドリンクを用意し始める。
「めーちゃん、ちょっと飲みすぎじゃないか?」
「私の生きがいは音楽と酒なの。それを取らないでくれる?……あんただってアイスばかりじゃ体壊すわよ。」
「……はいはい。」
「お待たせ。」
メイコへは日本酒の入った小さなグラスを、カイトへはアイスを盛った皿を差し出した。カイトはそれを見て嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
「……どういたしまして。」
カイトが子どものような笑顔でアイスを口に運ぶ姿を、メイコとがくぽは苦笑交じりに見つめた。人前でここまで幸せそうな顔ができる男性も滅多に居ないだろう。客が多いときにはあまりカイトにアイスを出さないでくれとメイコが頼む理由は何となく分かる。
「……珍しいわね。これを出してくれるなんて。」
メイコがグラスを傾けて一口飲み、がくぽに不敵な笑みを向けた。
「……何でも聴くわよ。」
「いつも察しが良くて助かるよ。」
がくぽは苦笑して応えた。
この二人との付き合いは長く、メイコもカイトもざっくばらんに話をするので彼らが年上でも自然といつも口調は砕けたものになった。
がくぽが出したのはメイコが好きな日本酒の銘柄だ。以前のマスターの頃からの彼女のお気に入りだが高いのが玉に瑕で、がくぽは頼みごと――大抵は悩みの相談だが――をする時にしか出さない。酒を飲んでも下手に管を巻くことも無く、きちんと話を理解している辺り彼女の底が知れない。
がくぽはメイコに話し始めた。
「彼女と同じ日にライブのプログラム組んだのはそういう理由だったのね。」
悩みの中身はルカの事で、一通り話した。ただし彼女に自分の音楽の練習を見てもらっている事と、それを持ちかけた時の事は伏せて。
「がくぽが彼女からどんな風に見られてるか、ね。……確かにちょっと彼女判りにくい感じだわ。いい子なんだけど。」
腕組みをしながらメイコは溜息を吐いた。
彼女と二週間に一度過ごすようになってから、進展したことは彼女からの呼び方がその時間だけ「マスター」から「がくぽさん」に変わったくらいだ。それもがくぽが手助けをしてもらっていることと音楽活動をする時には個人でありたいからと説明をしてやっと可能になったという程度。進展と言えるかどうかも疑問だった。
彼女の音楽に対する姿勢は勉強になることが多く、それにつられるようにがくぽも真剣に練習をしている。今まで業務連絡用としてのみ機能していた携帯電話のメールでの遣り取りも、音楽の話題が増えて自然と回数が増えたのは喜ぶべきことだとは思う。ただし逆に恋愛など入り込む余地が全く無いのが悩みだった。
「僕はがくぽが彼女をそんな風に見てたことに全然気付かなかったよ。」
「……あんたに気付かれる程度じゃ終わりでしょ。一応がくぽはマスターとして店やってるんだし。」
カイトはかなり恋愛事には疎い方だった。がくぽは店を切り盛りする関係上、営業時間内はどの客もどの出演者もできるだけ同じように接するよう努めている。カイトもメイコもそれを分かっているから、他の客が居る時は「マスター」と呼んでくれている。
「まぁリンは気付いてるみたいだけど。レンにはまだ言ってないとは言ってたけどね。」
リンはメイコに懐いているから、自分が席を外しているときにメイコにはそれとなく言っているとは思っていた。
「……俺も多分そうだと思ってた。」
まだレンには伝わってないのは有難い。変に詮索されても困るからだ。
「彼女の話じゃ、自分の背中を押してくれたってがくぽのことすごく感謝してたわね。」
「それは知ってる。……彼女の歌を聴けば誰だってそうするだろう。」
「まぁ否定はしないけど。」
あっさりと言われ、横ではカイトも頷いている。軽く凹んだ。
「その話聴いて、私はあんたが歌うのを止めた時勿体ないと思ったのを思い出したわ。」
「めーちゃん。」
即座にカイトが嗜めた。
「……もう昔の事だよ。」
伏せていた事までバレたのかと流石にぎくりとしたが、別にそういう訳ではないらしい。メイコの鋭さにはたまに肝が冷える。
メイコは溜息を吐いた。
「多分彼女かなり鈍い方だと思うわ。あれだけの美人なのに彼女目当てに寄って来た男のあしらい方なんて全然慣れてないし、よっぽど奥手なのか内気なのが災いしたかよね。音楽の事だけは例外だから音楽が恋人ってとこかしら。あんたのことは恩人だと思ってるわね。……他の男に比べれば断然望みはあると思うわよ?」
かなり鈍い方で奥手で内気で音楽が恋人、と判断が下った彼女に対して望みがあると言われてもどう対処すればいいのだろう。
「だいぶ今までとタイプが違う子だよね、彼女。」
カイトが口を挟んだ。既にアイスの皿は空になっていた。
「見た目はがくぽの好みだろうとは思うけど、何だか意外だった。」
確かに今までがくぽが付き合ってきた女性とは性格的にだいぶ違う。
メイコは酒を軽く流し込みからかう様に言った。
「そういえば昔は女の子に不自由してなかったわよね。」
「……人聞きが悪いな。」
がくぽは思わず苦笑した。
これまで付き合ってきた女性はもっと積極的か、異性と付き合い慣れているタイプだった。相手から声を掛けてくることも多かったし、自分から好意を持って声を掛けることもあった。ただしこの店のマスターになってからは経営に専念するため女性と付き合うことはなくなった。自分目当てで店に来る客が居ることも把握はしているが、そ知らぬ顔をして普通の客と同じ接し方をしている。
「そんなあんたが彼女にはどうしたらいいのか分からない、なんてね。可愛いこと言うようになったじゃない。……それだけ本気で惚れたって訳ね。」
言葉に詰まったがくぽが二人を見ると、二人とも穏やかに笑って自分を見ていた。その表情はそっくりだった。
この二人に、というよりメイコに恋愛の相談ができるのも、この二人が互いを大切にし合っていることが分かるからだ。メイコは何だかんだ言ってもカイトにベタ惚れだし、カイトの方は駄々漏れなくらいに分かりやすい。変に気を使わなくていい二人だから安心して話せる。
「本気で人を好きになるのはいい事よ。ただ彼女が相手じゃ苦労するでしょうけど。いくら鈍感でも分かるくらいのこと、思い切ってしないと多分彼女気付かないんじゃない?……怖いかもしれないけど、あんたはもっと自分に自信持っていいと思うわ。あんたのことは私たちが保証する。……結果は保証できないけど。」
「……めーちゃん、一言余計。」
「うるさい。」
ぼそりと呟いたカイトへメイコが一瞥を送り、がくぽを見て微笑んだ。
「臆病になるのも分かるわ。私たちが見てもどう転ぶか分からないんだものね。……でも後悔だけはしないようになさい。」
ごちそうさま、とメイコが席を立った。
がくぽが出入り口の扉を開け、じゃあね、とメイコが楽器を持って出て行った。それに少し遅れたカイトが小声でがくぽに声を掛けた。
「いつもありがとう。根拠は無いんだけど、きっとがくぽは彼女とうまくいく気がする。……がんばれ。」
肩を叩いて手を振って出て行く後ろ姿を見送り、がくぽは自分の頭を掻きながら店へと入っていった。
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