【二次創作】僕の君の心臓(第2章)

投稿日:2014/12/19 14:35:58 | 文字数:3,738文字 | 閲覧数:73 | カテゴリ:小説

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人工モノクローム(詩:八白 曲:でっち)さんの同名楽曲をモチーフにした短編小説の第2章です。

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TEXT
 

その少女は、孤独でした。
生まれつき心臓が弱かった彼女は、普通の子どものように友達と遊ぶことも、
学校に通うこともできず、一日の大半をベッドの上で過ごさなければなりませんでした。
もし彼女の両親が”お屋敷”と呼ばれる大きな家に住めるような身分でなかったら、
とっくの昔に天に召されていたことでしょう。
実際、「この歳まで生きてこられただけでも奇跡に近い」と医者が父親に話しているのを
こっそり聞いてしまったこともありました。

彼女の世話をするメイドと、日替わりでやってくる家庭教師、それに主治医と両親が
彼女の知る人間の全てで、1時間もあれば隅から隅まで見て回れる小さなお屋敷が
彼女の知る世界の全てでした。

夏も終わりが近づき、彼女が13歳の誕生日を迎えた翌日のことです。
その日は週に一度の診察日でしたが、いつもなら診察を終えるとすぐに帰ってしまう主治医が、
今日に限ってなかなか帰りません。
部屋から出られない少女がそのことに気付いたのは、主治医の車がいつまでもお屋敷の前に
停まっていたからでした。

「お父様たちと話し込んでいらっしゃるのかしら?」
彼女がそう考えるのはいたって自然なことでしたが、気になるのは話の内容です。
医者が自分のいないところで両親と長話をしているなんて、自分の身体に関することで、
それもろくでもないことに決まっています。

少女は、そっと部屋を抜け出して話を盗み聞きしてやろうと考えました。
そっとベッドから降りてドアに近づき、ノブに手をやろうとした、その時。
『コン、コン!』
突然ノックの音がして、少女はビクッと全身を強張らせました。
心臓が普段の5割増しで脈打ち、呼吸が荒くなります。

「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
ドアの向こうから、お付きのメイドの声がしました。
「どっ、どうぞ。」
胸に手を当て、深呼吸しながら少女はやっと返事をすると、2,3歩後ずさりします。

「失礼します。」
ドアが開き、少女より少し年上の、しかしまだあどけなさの残る顔立ちで黒いお下げ髪の
メイドが入ってきました。
彼女は、立っている少女を見ると少し驚いたように言いました。
「まあ! お嬢様、診察の後はお休みにならないと、お身体に障りますよ。」

「わかっているわ、ごめんなさい。」
冒険の失敗を少し残念に思いながら、少女がベッドに戻ろうとすると、メイドは更にこう続けます。
「いえ、実は旦那様が、お話があるのでお嬢様をお呼びするようにと・・・。」

「お父様が?」
少女にとっては願ったり叶ったりのことでしたが、さっき感じた嫌な予感が当たったような
気もして複雑な心境、それでも何とか心を落ちつかせると、メイドに手伝ってもらって
着替えを済ませ、応接間へと向かいます。

「お前を隣町の病院に入れることにしたよ」
それが父親の第一声でした。

「え?」
少女は一瞬戸惑いました。 ここ最近は発作も起きていなかったし、
薬も毎日きちんと飲んでいるのに何故? という思いでした。
「イヤ! 私、お家から離れたくない。」
思わずそんな言葉が口を突いて出てしまいました。

「お願いだから我儘を言わないでくれ、仕方のないことなんだ。」
「わかってるわ・・・私の病気、悪くなってるんでしょ?」
うなだれる少女に、主治医が語りかけます。
「いや、今日診察した限りでは、そこまで危険な状態ではないんだ。
 しかし心音に乱れがあるのは確かだし、ここにいては何かあってから連絡を受けても、
 私が駆けつけるまでに手遅れになりかねないからね。」

続けて父親も言います。
「先生の病院は私の職場からも近い。 仕事で遅くなった日でも、
 お前が眠ってしまう前に会いに来ることだってできる。」

少女はしばらく考え込むようにして、やがて黙って頷きました。

そして翌日、彼女は住み慣れたお屋敷を後にして隣町の病院へとやって来たのでした。
病室は白を基調とした清潔感のある内装で、少女が想像していたのよりずっと
居心地が良さそうでした。
建物の南の端にある角部屋で、東側にある大きな窓からは広い庭が見え、
その向こうには通りを行きかう人々の姿も見えました。

ここなら、病気が治るまで頑張れるかも知れない。
一度はそう考えた少女でしたが、一人になると突然寂しさがこみ上げてきました。
周囲を森に囲まれていた元のお屋敷に比べると、聞こえてくる音も、空気の匂いも、
何もかもが違っていて、知らない世界に取り残されたような感じがするのです。
少女は眠ることもできず、ベッドの端に背をもたれてぼんやりと外を眺めていました。

どのくらいの時間が過ぎたのか、辺りが少し暗くなり、窓を超えてくる風も涼しくなり始めた頃。
少女はふと、病院の庭と通りを隔てる柵の一角に立つ人影に気がつきました。
よく見ると、それは彼女と同じくらいの年頃の少年のようでした。

「この街の子かな? あんなところに立って、誰かと待ち合わせでもしているのかしら・・・」
少女はそんなことを考えながら一瞬、少年と目線が合ったような気がしました。
しかしその直後、少年はすぐに目線を逸らすと、
俯き加減にスタスタと歩いていってしまったのでした。

それから間もなく、夕食が運ばれてきて窓は閉じられ、翌日は天気が良くなかったせいもあって
丸一日、窓が開くことはありませんでした。

昨日この病院に来たばかりだというのに、少女はそれより遥かに長い時間、
ここにいるような気がしていました。
夜眠れなくならないように、昼間はなるべく目を覚ましていようとすると、
一日が本当に長く感じられるのです。
朝、昼、夕方、日に3回の診察と、その後に運ばれてくる食事の時間以外は、
少女は一人ぽっちで病室で過ごさなければなりません。
時おり庭を散歩する他の入院患者の姿も見えましたが、
病状が安定するまでは外に出ることも禁じられていました。

その日の夕食を終えた少女は、ナースが食器を片付けて部屋を出て行くと、
そっと窓を開けてみました。
空は曇っていて今にも泣き出しそうな天気でしたが、湿った風が肌に心地よく感じられます。

その時です、昨日見かけたあの少年が、柵の向こうを通るのが見えたのは。
少年は少女の視線に気付いたのか、あるいは偶然か、ふと立ち止まってちらりとこちらを見ました。
少女はどきりとしましたが、精一杯の笑顔を少年に向けて送ってみました。
夕暮れの中、彼の表情はよくわからなかったけれど、彼も少し微笑んだように見えました。
それから立ち去っていく少年が見えなくなるまで、少女は彼の後ろ姿を見つめていました。

翌日は朝から雨が降っていました。
湿気は身体に障るからと、またずっと窓は閉じられたままでしたが、
主治医が夕方の診察を終えて夕食が運ばれてくるまでのわずかな時間、
少女が閉じた窓ごしに外を見ると、少年がやって来るのが見えたのです。

少女は急いで窓を開けました。

それに気付いたのか、少年はまた立ち止まってこちらを見ると、
一瞬ためらうように動きを止め、こちらに向けて手を振ってきたのです。
少女も嬉しくなって、手を振り返したのでした。

少年が立ち去った後、夕食を運んできたナースから窓を開けたことを叱られてしまいましたが、
その夜、少女は心がぽかぽかする感じがして、ぐっすり眠ることができました。

それからというもの、毎日ほぼ決まって同じ時間に病院の前を通る少年との
ささやかな触れ合いの時間が、少女の唯一の楽しみになりました。
たまに天気が悪くて窓が開けられない日もありましたが、そんな日は柵の向こうで
少年が黒いコウモリ傘をくるくる回すのが少女への合図でした。

やがて季節は移り、秋も終わりに近づいたある日のこと。
昼食を終えた直後の少女の身体を異変が襲いました。
息も満足にできない程の胸の痛み、それは彼女にとって数ヶ月ぶりの、
この病院に来て初めての大きな発作でした。
病院からの連絡を受けてすぐに父親が、少し遅れて母親も駆け付けました。
発作は断続的に起こり、その度に少女の顔は苦痛に歪みます。
両親は苦しみに耐える娘の手を握り、励まし続けることしかできません。

翌日になってようやく薬が効いてきたのか発作は治まりましたが、
病状は依然として予断を許さないものでした。
父親はどうしても外せない仕事があり、母親も心身ともに疲れ果てていたので
主治医の勧めで近くに宿を取って休むことにしました。

一時的にせよ、なんとか苦しみから解放された少女が最初に思ったのは、
あの少年のことでした。
「あの子に会いたいな・・・」
少女は呟きます。 窓越しに眺めるのではなく、直接会って言葉を交わしたい・・・
少女は心からそう願いました。

午後の診察を終えて、少女は少し眠り、ふと目を覚ますと辺りは薄暗くなっていました。
もしかしたら、彼に会えるかも知れない・・・
少女は小さな望みをかけて、窓を開け放ちます。

空には、彼女がこれまで見た中で一番大きな満月が輝いていました。

名乗るほどの者ではありません。

絵も描けない、曲も作れないくせに登録してしまった物好き。
たまに小説とか書くことがありますw

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