「……え」

 そこにいたのは、一人の少女だった。目で感じるまでもなく、小さな暖かさが胸に広がる。会ったことなんてただの一度もないけれど、どこか懐かしい小さな少女。
 朝、この布団の中にある小さなぬくもりと、かすかな息遣い。私が起きても、彼女はまだ起きないだろうけど、起きてしまったとき一人だとさびしいんじゃないか? って思ってしまう。まだ、彼女のことを何も知らないのに。

「……ほんと、この子誰なんだろう?」

 その呟きは、虚空へと吸い込まれて消えていった。まだ、5歳くらいだろう体と、胸に抱えられる暖かさ。長い髪は二つに纏められていて、まるで鏡か写真でも見ているような感覚に苛まれる。一瞬だけ、時間跳躍したとかも思ったけれど、そんなわけもなく。

「ん……」
「あ、起こしちゃった? ごめんね」
「うーん」

 小さく目をこすって、涙目なままの瞳でこちらを見つめてくる。ただ一言「誰?」って言葉をこの純粋な瞳に向けることができない。こういう状況なのに、どこか心は落ち着いていて。

「お姉ちゃん、誰?」
「んっとね、お姉ちゃんはミクって言うの。君は?」
「おー。ミクもね、ミクっていう名前なんだ! お揃い」

 私とよく似た容姿で、私と同じ名前。クリプトンが差し向けたのかな? V3とかのひとつ? 私の元に来るなんて聞いてないけど、マスターが何かしたのかもしれない。

「トイレー」
「あぁ、ごめんね。トイレはこっちだよ」
「んー」

 手を引いて歩く。

「……ど、どうしたのです? この子。か、隠し子ですか? ミク」
「マ、マスター?! え、マスターがつれてきたとかじゃないんですか?」
「馬鹿いわないでください。知らない子を連れてくるなんて非常識な真似しませんよ。それにしても、よく似ていますね。隠し子ですか?」
「ち、違いますよ」

「マーマー。トイレー!」

「ち、違いますよ?」

 あの、この子、私に向かってママって言ったんだけど。え、知らないうちに産んでたの? 私。気づかないうちに……。生命の神秘って凄い……。

「……あの、ミク。このモノローグは突っ込み待ちというわけではないんですよね?」
「でも、マスターじゃないなら」
「隠し子なんでしょう? 生命の神秘って凄いですねぇ」

 あ、マスターもうこれで通す気だ。

「ほら、ミク。トイレに連れて行くんでしょう?」

 目で、後で話は聞きますからと、マスターがそういっている気がした。この、小さな手を連れて、歩いて。それまではよかったんだけど……。

「さて、どういうことです? ミク」
「私にもわかりませんよ~」
「何です? わからない人との間に子を作ったのですか? そういうのは一生にかかわるのですよ? 子を産むというのは大変ですが、それ以上に子育てということを考えていない。ミク、あなたはまだ若いのです。そういう負担をわかっ」
「りませんけど! 私産んでません! 朝、目が覚めたら、隣で寝ていたんですよ!」
「子育てにどれだけの資金がかかると思っているのですか? それに、このくらいの子ですと、学費などもかかってきますし……」
「聞いて! マスター聞いてください! だから、産んでません!」
「自分の娘を他人呼ばわりする母親になるように育てた覚えはありません!」

 ど、どうしよう……。マスター、勘違いしてるよねぇ。いや、なんか仕方ない気もするんだけどさ……。私とそっくりの子で、私のことママって呼んでいて。

「ママ。私、ママの子供じゃないの?」
「え……」
「大丈夫よ。貴方はちゃんとミクの子だから、ね?」

 反論を許さない目で見る。でも、ここで認めたら終わりな気もす……るん…………。

「う、うん。貴方は、私の子だよ」

 あぁ、もう。

「あ、そういえば大事なこと聞いてませんでした。この子、なんて名前なんです?」
「ミクだよ」
「あら、同じ名前なの? ママと同じ名前でよかったわねー、ミクちゃん」

 あ、ここに突っ込まないんだ。って、わかっていてやっていたのかな、マスター。とりあえず、私どうすればいいんだろう? 子供って?
 身近な小さい子はいたけど、いざ自分の子ってなるといまいち実感がわかないし、理解もできない。どうsればいいんだろう? 親ってなんだろう?

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part1

ちびミクと思った? プチミクよりも小さいぜ。

閲覧数:68

投稿日:2013/10/01 03:12:18

文字数:1,782文字

カテゴリ:小説

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