【応募小説】デュアル・スピリッツ

投稿日:2018/09/16 10:25:43 | 文字数:5,306文字 | 閲覧数:105 | カテゴリ:小説

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こちら、公式コラボの応募作品です。

小説は初めて執筆しました。5000字超えは草

黄のクロアテュールからの派生、アレンの二面性を描いてみました。
ぜひ感想などお待ちしております。

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「君を守る そのためならば
 僕は 悪にだってなってやる」

そんなフレーズが頭をよぎった。確か前にも同じ言葉を呟いたような気がする。僕の養父であり『三英雄』の一傑、レオンハルト=アヴァドニアの命を奪った、あの時だ。
十四歳の召使、アレンは養父を殺さなければならなかった。それは僕自身のせいでもあり、王女リリアンヌのせいでもあった。
また別の言葉が頭の中を駆け抜ける。今度はエルルカが王女を守ることは不可能だと言っていたのを思い出した。魔導師の権威ともあるエルルカにそう言われると、自分がいかに小さな存在か、いかに無謀な行いをしているかが痛いようにわかる。
ただそれでも、王女を全力で守り、『悪ノ召使』としての責務を遂行すると決めたからには、道を後戻りすることなどできなかった。たとえ森羅万象を敵に回したとしても、全てはリリアンヌのために―――。


古井戸には今まで何度か足を運んでいる。だが今回は事情が違う。リリアンヌの命令により、エルフェゴート国内の緑髪の人間が、ルシフェニアの親衛隊によって片っ端から殺されている。ミカエラも抹殺対象の一人だ。いや、親衛隊にとっては対象の一人にすぎないが、リリアンヌにとってはまさしく真のターゲットだ。ミカエラを殺せばリリアンヌの気も晴れ、事態は収束に向かうだろう。もっぱらその可能性は十分に考えられる。

しかし、だ。

果たして僕が、あの華奢な身体と眩しい笑顔に刃を突き刺し、死に至らせることが出来るのだろうか。
一度経験があるとはいえ、人の命を奪うという行為そのものが容易くできることではない。ましてや僕は十四の少年だ。成長の過程におかれ、身体も精神もこれから大人になっていくというのに、無益な殺戮をする意義がどこにあろう。
それに、僕がミカエラを殺せない理由のもう一つが、彼女の人間としての純粋さだ。狭苦しいルシフェニアの王宮の中でしか育ったことがない――正確に言えば、王宮での記憶しか残っていない――僕にとって、ミカエラの明るい性格は何か胸を打つものがある。なにより表情がとても豊かで、笑顔にいたっては一晩中見ていられそうな優しさがあふれている。キール=フリージスとの商談の中でも少し話題にのぼったが、あれだけの美貌を備えている彼女に結婚を申し出ることなど、至極普通のことだろう。それだけミカエラは魅力的な女性だ。



あれこれと考えを巡らせているうちに、古井戸の入り口に着いていた。この下の、鉄の扉をくぐった先に、ターゲットはいる。不思議と鼓動は早くなっていた。当たり前だ。これから僕は『悪ノ召使』として二人目の命を奪いに行くのだから。
扉の前まで来たところで、鞘にしまってあるナイフの柄を右手で触った。何かを語りかけるかのように冷たく、同時に僕の心も次第に落ち着きを取り戻し、冷酷さを増していった。
――『悪ノ召使』は意を決し、扉を蹴破った。


ミカエラは前よりも少しやつれているように見えたが、鮮やかなブルーグリーンの髪は健在だった。突然やってきたからなのか、現れたのが僕だったからなのか、ミカエラは驚いてしばらくその場を動かなかった。が、すぐに取り繕って、
「あ、アレン。どうしたの。」
邪気を鎮めてくれそうな、透き通った可憐な声だ。
「何か大事な話? 急ぎの連絡とか? ……ねえアレン、どうしてそんなに焦ってるの?」

僕の計画では、部屋に押し入ったらすぐミカエラの首を絞めて気道を塞ぎ、息絶えてからナイフで刺すことにしていた。ミカエラが血を流して助けを乞う姿を見たくないという、自身への配慮のためだ。自らの施した傷でミカエラが苦しみ悶える姿を、考えたくなかった。絶対君主リリアンヌの勅令であっても、僕の理性はそれを拒んでいた。それでもメンタルが辛うじて持ちこたえるように、僕はミカエラの血をなるべく見ず、声を聞かないで済む方法をとった。
計画はいとも簡単に実行できるように思っていた。ただ一つの必要条件、「ミカエラの声を聞く前に」を満たせれば、だ。

しかし僕は、ミカエラの優しい声を聞いてしまった。ナイフに伸ばしていた右手が止まり、『悪ノ召使』の冷酷さが薄れていく。―――なぜ。どうして僕は、ミカエラの前では素顔のままでしかいられないのだ? どうして仮面を被ることができないのだ? キールの言葉を思い出す。「――もしかして惚れちゃった?」あのときは口に出さずに否定したが、もしかしたら僕は彼女に惚れてしまっていたのだろうか。否、そんなはずはない。そんなはずはないが、そう考えると余計にミカエラを殺せなくなってしまうじゃないか。このままでは確実に僕の精神が持たない。最悪の誤算、計画は完全に頓挫した。膝の力がガクッと抜け、半ば朦朧としながらそのまま丸机にもたれかかった。――視界がだんだんと霞んでいく。遠くでミカエラが何か叫んでいる。――ああ、頭が痛い―――。




………………。



「………アレン?」
目を覚ました僕は固いベッドの上に寝かされていた。よく見ると寝具らしきものは備えておらず、大きい布が一枚、木の骨組みに被せてあるだけだった。ミカエラは僕の顔を覗き見るようにして身を乗り出してきた。天井に吊るした電球の逆光で顔はよく見えないが、声のトーンからして僕を心配していることは感じられた。

いや待て。僕がなぜこんなところに寝ているんだ?
ここは古井戸の隠し部屋で、ミカエラがここに匿われている。僕はリリアンヌの命令でミカエラを殺すよう仕向けられ、扉を蹴破って入って、ミカエラの声が聞こえて、……そこから先が思い出せない。何があったんだ?

「アレン、あたしね、…………。」
おもむろにミカエラが話を始める。状況が呑み込めてないがとりあえず体を起こそうとして、鎖骨のあたりが痛むことに気づいた。打撲したようだ。こんなところ、いつ怪我したんだろう?
「なんとなくだけど、前から思ってたの。………」
ミカエラはひどく落ち着いた口調で話し続けた。上半身を起こした僕は、膝の擦り傷と左のポケットに穴が開いているのを見つけた。
「カイル王が来る前に、」
ミカエラの話を半分聞きながら、僕は失った記憶を呼び戻そうと、あらゆる情報をさがしていた。
「ルシフェニアの追っ手が来ちゃうんじゃないかな、って……」
あれ、鞘にナイフが刺さってない? 部屋に入ってからは………抜いてないはず? だとすればなぜ?
「緑の髪のひとたちが何人も殺されていって………」
僕はポケットの中に何かが光っているのを見つけた。これは……ガラス、だろうか。ポケットの中で砕け、破片になっている。そういえば王宮を出る前に、リリアンヌから受け取った小瓶をここに……入れた……
―――まさか。
「それは本当は関係のない人たちで、本当の目的は………」
僕はとっさに丸机に目を向けた。ランタンの隣に置いてあるのは……ナイフ。
ミカエラが立ち上がり、僕に向き直った。
「………あたし、なんだよね。」
彼女の目からは涙が流れていた。左手に持っているものは……羊皮紙。


僕は凍りついた。

背中に稲妻を落とされたような衝撃とともに記憶が繋がる。どうしようもなく只々茫然とするしかなかった。誰も予想だにしない、最悪の事態が起こってしまった。
身体の傷は僕が倒れた時にあちこち打ってできたものだ。鎖骨は机かなんかにぶつけたのだろう。きっとその時にポケットの小瓶が割れ、穴が開いたんだ。倒れた僕をミカエラはベッドに運んでくれたけど、体を抱えたときに腰のナイフに気がついたんだろう。さらに運悪く、ミカエラはリリアンヌの命令が書かれた羊皮紙も拾ってしまった。小瓶のメッセージでリリアンヌが使う羊皮紙は割と小さいので、ポケットの穴から落ちたのかもしれない。だとすればミカエラはさすがに理解したのだろう。ルシフェニアの追っ手が、僕であることを。

重苦しい静寂が部屋を満たしている。ミカエラは羊皮紙を小刻みに震わせながら、涙を溜めてこちらを見ていた。僕は上半身を起こしたまま動けず、顔すらも上げられなかった。計画のすべてをミカエラが知っている中、僕は彼女にどういった言葉をかければいいのだろう。彼女はこれから、目の前の人間に殺されるのだ。それはひたすらに恐怖でしかないはずであり、彼女は勿論、僕もそんな結末は望んでいない。こんな心理状態の僕に、『悪ノ召使』の務めが果たせるだろうか。いうまでもなく、答えはNOだ。初めから分かっていたんだ、自分にできるわけがないんだ、こんなこと。僕は君に特別な思いを抱いているに違いない、確信した。僕はミカエラを救い出したい。でも僕は召使だ。女王直属の召使、何があってもリリアンヌを守ると心に決めた。そしたら僕は誰を守る人なんだ、僕は誰のためなんだ。どうすればいいんだ僕は。僕は―――。



解は出せなかった。
しかし、僕の右手の横にはナイフが置かれていた。

ミカエラがゆっくりと机に手を伸ばし、ナイフを取るとアレンの側に置いた。
それは彼女からの願いであり、メッセージであり、決意でもあった。
ミカエラはミカエラなりの解を導き、最終的に自らを犠牲にすることを選択した。それは自身の故郷「緑ノ国」のためでもあるが、それ以上に大きな理由があった。


「アレン、一つだけ聞きたいことがあるの。」
ミカエラは丸机に腰掛け、壁のほうを向いていた。
「アレンは……あたしのこと、どう思ってた?」
僕はじっくり考えた末に、一つの結論を出した。
ベッドから立ち上がり、まっすぐにミカエラの瞳を見つめながら。

「本当のことを言うよ。その、僕は……、ミカエラは、とっても美しいお嬢さんで、心が澄み切ってて、皆を勇気づけてくれる。ほんとに頼もしくて、魅力的だよ。」
「…………………。」
「僕はその、恋心? とかは分からないけど、ミカエラの前にいると……自分に嘘がつけないっていうか、素直な気持ちになれる感じがするんだ。」
だから部屋に入ってきたときも、『悪ノ召使』になりきれなかった。
「僕は君を守りたいって思ってたし、こんな命令だって受けたくなかったんだ。」
「…………………。」
「でも、僕にはもっと大切にしなければならないものがある。それが………リリアンヌなんだ。」

「君を守る そのためならば
 僕は 悪にだってなってやる」

僕はもう迷わない。リリアンヌを守るためならば偽善をも施し続けよう。

「…………そうよね、アレン。アレン=アヴァドニア。」
ミカエラの声は掠れ、どこか苦しそうだった。
しかしミカエラは嬉しかった。アレンに気に入ってもらえたこと、彼はうまく言葉にできなかったものの、特別な気持ちは十分にミカエラに伝わっていた。
アレンは正直で仕事熱心で、自分の信念を強く持っている。二、三回しか会ったことのないミカエラだが、その人柄は鮮明に分かった。彼は如何なるプライドにも動じず、捻じ曲げない芯を携えている。それが恐らく王国への忠誠、つまるところの、リリアンヌを守ることなのだろう。アレンにとってミカエラの存在は、どんなに魅力的であっても女性的であっても、雑念でしかないのだ。アレンがもし王宮勤めの召使でなければ、ミカエラはもっと気に入ってもらえたのかもしれない。でも、それは叶うことのない御伽噺だ。女王から直接命令を下され、それほどまでに女王の信頼を得ているアレンが、女王のために尽くす。考えてみれば至って当然だった。
だからこそミカエラは、初志を貫徹するアレンの意志を尊重し、犠牲という選択をとった。
「…………ありがとう………」
その場に泣き崩れたミカエラを背に、僕は一度深呼吸をした。そして――。

ナイフが右手に握られる。その手は今まで経験したことのないくらいに汗をかき、震えていた。

一歩、また一歩、ミカエラの前に歩み寄っていく。

目頭が熱くなる。鼻の奥にツーンと刺激が走った。
――どうして。どうして泣いている?
――僕が守るのはリリアンヌ。さっきそう決心したはずなのに、どうして。



鋼鉄の刃が―――ミカエラの心臓を、貫いた――――。



徐々に彼女の顔から血の気が引いていき、床一面が赤黒く染まる。


抱きかかえたその体は脱力し、麗しい瞳も輝きを失っていた。

気づけば僕はナイフではなく、彼女の手を強く握っていた。嗚咽をこらえ、唇を固く結んでいても涙はとめどなくあふれてきた。しかし、心を満たしていたのは他でもない、達成感であった。そこには、ミカエラの前では正体を見せなかった『悪ノ召使』が確かに存在していた。

ミカエラの手が一瞬、ピクッと動いて手を握り返した。
そしてかすかな微笑みを浮かべ、そのまま目を閉じた。

罪もない人の命をまた一つ。
僕はミカエラを殺した。

――リリアンヌ。僕は君を守ったよ。


暫くの間、『悪ノ召使』は自らの残酷さに陶酔した。
同時に、十四歳の少年の肩には重すぎる十字架がのしかかった。

作詞を担当させていただいております。英語も日本語も問わず。

↓Twitter垢です。気軽にフォローしていただいて構いませんよ。
https://twitter.com/Hareno_Flash724


学生なので、勉強の傍らで。
少しずつ、自分のペースで作詞やらせていただきます。

選考漏れした作品や、とりあえず歌詞だけ考えたという作品には▼を付けているので、作曲家さま絶賛大募集中です。使いたい際は御一報ください。

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