「うん、なかなか似合うよ。兄さん」
「そうか?」
背中に天使の羽根をつけた白いベストを、羽織って振り返るカイくん。
ミクちゃんが、ニコニコ笑いながら、見守っている。
天使の小道具の他に、ハロウィンの黒いコウモリの羽根の衣装や、怪しげなハットが、そばに置いてある。
キディディ・ランドの、売り場の奥のスタッフ・ルームで、
ミクちゃんに指図されながら、カイくんはそれらを“試着”しているのだ。
「...カイ店長。な、何やってんの?あなた」
ふいに、部屋に入ってきたのは、メイ社長。
目を丸くして、天使の格好をしている彼を見つめている。
「あ、社長、いや、これ...」
あわてて羽根のついたベストを脱いで、店のユニフォームに戻った。
「すいません、メイさん。ちょっと、仕事のために。ハロウィンのディスプレイのためなんです」
真顔で、答えるミクちゃん。
2人を、あきれ顔で見つめる、メイ社長だった。
●ミク・ドールと、テト・ドール!
翌日。
カフェ・ギャラリー「ゆうひ」で、ミクちゃんは、自分の描いたデッサンを机に広げた。
「じゃあ、悪魔のドールを作ること、ミクさんは賛成なんだね?」
テトさんが、その絵をのぞいて、聞く。
「うん。テトさんが、新しいドールを作るなら、応援したいの」
ミクちゃんは言った。
「ミク・ドールの悪魔バージョンだね。ほのぼの路線からイメ・チェンね」
テトさんはつぶやいた。
「でも、ここに描かれてる悪魔の絵。素敵だけど、これ、私の髪型だね」
ミクちゃんが広げている、デザイン画の女の子には、ドリルのようなツインの巻き髪が、ふたつ、垂れていた。
「これはね、テト・ドールよ」
「え?テト・ドール?」
テトさんは、目を見張った。
「ミク・ドールに、“相棒”を作ったらどうかな、と思ってネ」
ミクちゃんは、楽しそうに言った。
「緑色の悪魔のミク・ドールと、赤い悪魔のテト・ドール」
テトさんは、目を見開いた。
「これまでのほのぼのミク・ドールとは、違う路線ね」
「うん。これまでのは、今までどおり、ハミングスさんで売ってもらうの」
彼女は、片目をつぶった。
「かわいいだけじゃなく、“アヤシイ”路線もしてみたいの。今度の、りりィさんのオファー(申し出)、願ってもないチャンスだよ」
●天使を加えよう...
テトさんは、身を乗り出した。
「緑と赤の、悪魔のコンビのドール...楽しそうだね」
「うん、それに、もう1つ別のキャラも、考えてるんだ」
「別の?」
「うん。天使をひとり。実は、モデルも考えてるの」
ミクちゃんは、カバンからケータイを出して、写真の画像を見せた。
「あ!」
それを見たテトさんは、目を丸くした。
純白の天使の羽根をつけた、カイくんが、しとやかに振り向いている。
どことなく、怪しい雰囲気の天使だ。でも、男性には見えない。
ちょっと不思議な、女性に見える。
「これ、こんど、りりィさんという人に見せて、反応を見たいの」
彼女は、はつらつとして言った。
「2人の悪魔にいじられる、お間抜けな天使を加えてみようかな、と思って」
ちょうど料理を運んできた、店長のモモちゃんも加わって、3人の女性は天使の画像をのぞき込んだ。
人気玩具店の店長に、また新たな試練が、加えられようとしている。 (;'o')m
(part3に続く)
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