「カイト、これあげる」
そう言って、マスターから手渡されたのは飴の入った袋。
「要らないんですか?」
思わず聞くと、マスターは頷いてベットに倒れ込んだ。
「だって、それ甘すぎだもん」
「どれどれ・・・」
僕は結構甘くても大丈夫なので、1つ、試しに食べてみる。
「普通に、おいしいですよ??」
しっくりきておいしいので、マスターに言う。
「・・・連続でずーっと食べてりゃ甘ったるくなるよー」
そう言うマスターの声に力がない。
「・・・・・・そうですかね?」
僕は2つ目を食べながら、首をひねる。
「もしや、カイトって」
力なく倒れていたマスターは、むくっと起き上がって、
「・・・甘党??」
と、聞いてきた。
「今更ですか?」
そう言うと、若干目を丸くさせて目を逸らすマスター。そして、
「だ、だって、カイトが食べてるアイス程度だったら私も食べれるし、それに去年のホワイトデーにあげたチョコ甘すぎてその後甘いもの食べなかったでしょ? だから、カイトが甘党だってこと、よく分かんなくて・・・」
ずいぶん長い言い訳だ。普段のマスターからは想像できない。僕は自然と笑みを浮かべながら、
「確かに、僕は甘党です。でも、マスターの言う通り、そこそこの甘党なんですよ」
3つ目を食べながら、僕は言う。
「そっか・・・」
マスターは、何かを考え込むように頷く。
「カイト、それ全部あげる。はぁ・・・ここの世界と現実世界が連動できればいいのになー」
「そうですね」
「そうすれば、その飴の袋、ぜーんぶカイトに食べてもらえるのになー・・・」
「大丈夫です。ここの飴は全部僕が食べますので。現実世界の飴は食べれませんけど」
苦笑いして言う僕。
「そうだね。ありがと、カイト」
その時に見せたマスターの笑顔が無駄に可愛いと思ってしまった。動作が止まる。
「どうしたの?」
そんな僕を不思議そうに見つめるマスター。僕は慌てて首を横に振る。
「何でもないです、マスター」
「うそだー、絶対、何かあった。顔にそう書いてあるもん!」
「書いてなんかないですよ」
「もう引っかからないの? 前はよく引っかかってたけどねーw」
にこにことしてマスターは言う。僕はため息をつく。
「そういえばカイトって、結構昔と比べれば、ものすごく大人になったって感じだよねー」
「・・・そうですか?」
マスターに言われても、いまいちぴんと来ない。僕的には、あんまり変わってないような気がする。僕は4つ目を食べながら、軽く首を傾げる。
「そうだよ。にゃはははははー」
再び寝転ぶマスター。
「そう言うマスターだって・・・」
僕は飴の袋を手に持って、マスターが寝そべるベッドの端に腰を下ろす。
「んー?」
マスターは僕を振り返り、
「私の半径10cm以内に近づかないでよね!」
ばしっと言う。
「10cm・・・」
僕はどう返そうか少し迷って、
「別にいいじゃないですか。僕なんですから」
そう言って、5つ目の飴が入った袋をマスターに手渡す。
「全部食べるって、言ったのに・・・?」
「さっきの半径10cmの件は、反論なしですか」
マスターを攻めるのは、さすがの僕でも難しい。強く攻めると泣いて他の人に走ってしまいそうだし、かといって全く攻めないというのは僕的にどうかと思うし・・・。でも、基本的に優しくしてればある程度力加減が分からなくても受け入れてもらえるかもしれないけど、僕みたいに信頼関係が成り立ってないと、多分無理だと思うよ、と、僕は誰かに向けて言ってみる。・・・その誰かは、僕の立ち位置にはなれないけど。
「だって・・・、」
くだらないことを考えるのはやめて、僕は反論する言葉を一生懸命に考えているマスターを見る。大人っぽいところもあって、でも時々子どもっぽくなるところも好きだな・・・。
「・・・・・・カイトが、そんな風に言うとか、意外だったから」
そう言って、マスターは僕の鼻の先に飴の袋を突きつける。
「全部食べるって、言ったよね?」
口調が普段通りになる。僕は頷く。
「言いましたよ」
次の一言でマスターがどうなるか楽しみにしながら、僕は言う。
「マスターから食べさせてくれれば、僕は何でも食べます」
「・・・飴ぐらい、じ、自分で食べてよ」
予想通り、マスターは僕の目から逸らして顔を赤らめた。
「いやです」
「で、でもさ・・・」
マスターの赤いほっぺたを見ながら、僕はしばらく黙った。
「・・・しょうがないなぁ、もういいよ」
マスターは急に不敵な表情で笑った。
「え?」
何のことかさっぱり分からず、僕は首をひねる。
「リンちゃんと一緒に食べるから」
「えっ!? で、でも・・・」
「でも、何?」
にっこりとした笑顔で、僕を見るマスター。・・・もう、顔は赤に染まってなかった。
「・・・何でもないです、マスター」
すごすごと引き下がると、
「にゃはは、私に勝つなんて、まだまだ早いよー♪」
そう言って、マスターから5つ目の飴を渡される。
「まだまだ飴はあるからさw」
楽しそうにマスターが言う。
「・・・マスターがそばにいてくれるのなら、飴全部食べます」
「分かった。飴全部食べきるまで、終わらなーい! やったー!」
僕はそんなマスターを見ながら、5つ目の飴を食べた。・・・ほんとは、こんなに引き延ばすつもりはなかったんだけど、たまにはいいかと思った。どうせ、時間は無限にあるんだ。少しくらい、引き延ばしたってよさそうだ。
「思えば、もう夜になってたんだよね・・・」
「そうですね」
僕が頷くと、マスターは僕に言った。
「久しぶりに、外歩こうか」
「えっ・・・」
普段は、作品を作っているか、投稿するか、だらだらするかのどれかなのに珍しい。
「私と行くの、いや?」
先程までの不敵な表情はどこへやら、そんな笑顔で言われると、
「いやじゃないです」
素直に頷かざるを得ない。
「じゃあ、着替えて来るから外で待っててよ」
「え? 別にその格好で行っても大丈夫ですよ?」
「そうかな・・・」
少し恥ずかしそうな表情になるのを見逃さずに、
「そうですよ」
僕はマスターの右手を手に取って、その目を見つめる。
「・・・この服、カイトにしか見せたくないんだけどな」
頬に、だんだん赤みが増していく。
「でも、カイトがいいんだったら、このままで出かけてもいいけど・・・?」
顔が赤く染まったまま、にこりと笑うマスター。
「大丈夫です。普段、マスターをたくさん見てるので」
にっこりして言うと、
「・・・そっか」
とても嬉しそうに笑みをこぼして、頷いてくれたのだった。
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