昼間は人で賑わう博物館も、夜は人の気配が消え去り、暗闇と静寂に空間が満たされる。

 しかし、本来なら人のいない、ものが静かに佇んでいるだけの時間に、二人組の子供の姿があった。




「ねぇ、今日は何する?」
 
 女の子は、明るい声で隣にいる男の子に話しかける。どうやらこれから何をして遊ぶか
を決めるようだ。

「そうだなぁ。・・・ゴメン。あらかた遊びつくしちゃったからすぐには思いつきそうにない」
 
 話しかけられた男の子は少し考えてから、大げさにジェスチャーをしてそう答えた。
 
 女の子はリン、男の子はレンといい、双子なのか金色の髪に青い瞳、身長に顔立ちと、微妙な違いはあるものの非常に似通っていた。

「え~思いつかないの? ダメだなぁレンは」

 何も思いつかなかったレンに、リンは小馬鹿にした態度で言う。

「これだけ長くいたら遊ぶ方法も尽きてくるよ。そういうリンはなんかないの?」

 そのリンの態度に少しムッとしたが堪え、リンに質問を投げ返す。

「う~ん・・・。あ! じゃあ無限縛りかくれんぼやろ!」

 無限縛りかくれんぼとは二人が作った遊びで、普通は見つかった人が次に鬼をやるが、これは最初に鬼になったものは最後までずっと鬼をやり続けなければならず、また終了条件を決めて、それを満たさない限り延々とやり続けなければならないという拷問のような遊びだ。

「やることないし、仕方ないか」

 本当はやる気など全く無いが、ほかの案も浮かばないので仕方なく乗ることにした。

「決定ね! ジャーンケーン」

「ちょ・・・!」

「ポン!」

リン:グー

レン:パー

「負けたレンが鬼ね! おめでとう! 果たして、私を見つけられるかな? 」

 前ふりなしに始められてしまい、慌てて出した結果レンは見事に負けてしまい、鬼になってしまう。

「全然めでたくないし、なんでそんな挑発的なんだよ。言っとくけど、モノの中に入り込むのは無しだからな」

「わかってるって! あ、終了条件は人が来るまでね。ではスタート!」

 言うや否や、ものすごいスピードで走って行ってしまった。レンはそれをうんざりした顔で見つめていた。

「ホントにわかってるのか? それに人が来るまでって、あと何時間あると思ってるんだよ・・・」

 正直参加したくはなかったが、参加しなかったら後でネチネチと長いこと言われるであろうことが安易に想像できてしまい、レンには、もはややる以外に道は残されていなかった。





「・・・あれで隠れているつもりなのか?」

無限縛りかくれんぼが始まってしばらくたち、場所は近代日本の展示場。ギリギリ参加してると言える程度の捜索をしているうちにブラリと立ち寄ったこの場所で、リンを発見した。
 当時の街並みを再現している展示のようで、建物や小道具とともに数体のマネキンが置かれている。リンはそのマネキンのふりをしているようだった。本人はいたって真面目に隠れているつもりだろうが、無機質なマネキンとはあまりにも違い過ぎてかなり目立っている。もはやギャグだった。

(まぁ、見つけたんだし声は掛けるか)

「リン、見っけ」

「・・・・・」

 反応が無い。反応を返さなければばれないとでも思っているのだろう。おそらく話しかけるだけではこの状況は変化しないと判断したレンは、強硬策に出ることにした。

 こちょこちょ。

 わき腹に手を伸ばしくすぐる。リンはこれにめっぽう弱かった。

「・・・!」

 一瞬ビクッとなったが、それ以外は大きな反応を見せてこない。ただ、細かくプルプルと震えており、顔を除くと唇を噛みしめているあたり必死に我慢しているのだろう。

(頑張るなぁ、苦手なくせに)

 仕方ないので、くすぐりを継続することにした。

 こちょこちょ。

「っ・・・!」

 こちょこちょ。

「ぷっ・・・! くっ・・・!」

 こちょこちょ。

「・・・あっはははは! も、むり、やめ! あはははははははははは!」

 遂に我慢の限界が訪れたようだ。口を大きく開けて声高らかに笑い出した。

「リン、見っけ」

 反応を示したリンをくすぐるのをやめ、静かにそう告げる。

「あはは、はぁ・・・。もう、ひどいよレン! 私がくすぐり弱いこと知ってるのに!」

 レンの行った行動に、非難の声を上げるリン。

「知ってるからやったんだよ。どうせ普通に話しかけても反応する気無かっただろ? なら自業自得だ」

「そ、それは・・・そうだけど」

 非難したら正論で返され、目を逸らして気まずそうに肯定する。

「っていうか正論過ぎて何も言い返せないんだけど! どうしてくれるの!」

 非難したのに自分が言いくるめられたのが気に入らなかったのか、レンに明らかな八つ当たりをぶつけるリン。

「正論を言われて黙り込むしかない罪を犯したリンが悪い」

「罪って! そんなに重大な過ちを犯したの私?」

 まさかの言葉に驚愕するしかないリン。

「それより、これからどうするんだ? もう終わりにするか?」

 レンの言葉にショックを受けているリンに、終わりの提案をする。

「・・・は? おわりにするわけないじゃん! もちろん続けるよ! 終了条件満たしてないし」

 終わりにするという言葉を聞いた瞬間、ショック状態から戻ってきたリンは機敏な反応を示してそれを否定する。

「それに一度決めたルールはしっかり守らないといけないんだよ」

 リンはルール(遊び限定)をしっかり守る子であり、自分が決めようが人が決めようが一度決めたルールを破ろうとはしない。良いことのように聞こえるが、何が何でも定められたルールを押し通すため、非常に勝手が悪い。訳の分からないルールを決めてしまった日には、それは悲惨な目に合ってしまうのだ。そして、ルールの途中変更をリンは認めない。それはレンも十分理解している。

「わかったよ。続けよう」

 元々否定されることを念頭にダメ元で言った程度の提案であり、潔く引き下がる。

「じゃあ私また隠れるから、ここで待っててね!」

 そう言うと、先程と同じようにどこかへ走り去っていく。レンはそれをみて大きなため息をついて、呟いた。

「従業員の人、今日は早出してきてくれないかな・・・」

 空が明るくなってきた。どれくらい続けたのか、かなりの時間が過ぎていた。

「いい加減飽きてきた・・・。さすがにもう終わりにしたい」

 リンを探しながら心からそう思う。元々乗り気じゃなかったから尚更だった。

「それに・・・、リンのやつ隠れるの下手すぎるんだよな。そりゃあ内側に隠れるなとは言ったけどさ」

 何度かこの遊びをやっているが、毎回とても簡単に見つけられてしまう。非常に探しがいが無いのだ。もし上手に隠れることができていたら、もう少しやる気になっていることだろう。

「ほら、まただよ・・・」

 場所は戦国時代の展示エリア。今回は馬のはく製にまたがって、ご丁寧に鎧まで着けて武将のふりをしていた。もはや隠れる気は無いのではないかとさえ思えてくる。

「リン、かくれんぼって言葉の意味知ってる?」

 隠れているつもりなのであろうリンの傍まで来たレンは、堂々とコスプレをしているリンに聞いてみる。どうも意味をはき違えている気がしてならなかった。

「貴様、わしがその程度のことを知らないと思っておるのか! この無礼者め!」

 どうやら武将になりきっているらしかった。腰に差している刀(偽物)を抜いてレンに向けてくる。叩き切ってくれると言わんばかりだ。

「なら、言ってみなよ」

「ばれないようにする」

「なんでなんだ・・・」

 やはり意味をはき違えていたリンに、そして今までその疑惑に気づけなかった自分のことを考え頭を抱えてしまう。

「? どうしたのじゃ?」

 リンは自分の思い違いに気づいていそうになかった。

「いや、なんでもない」

 本当のことを言いたかったが、どうせ言っても無駄だろうと判断し、もうこれ以上突っ込むことはやめにした。

「とりあえずばれちゃったし、また隠れるからここで待っててね」

 いつの間にか鎧を脱いでいたリンがレンの前に立って言う。

(まだやるつもりなのか・・・)

 そう思ったがどうせ言ってもさっきみたいになるだろうと思い、流れに身を任せようとしていた。そのとき、

 ガチャ。

そんな音が聞こえた。レンはこの音を聞き逃さなかった。

「それじゃ」

「ちょっとまった」

 走り出そうとしていたリンを止め、耳を澄ませる。

 キィ。ガチャン。

 扉の開け閉めの音が聞こえてきた。従業員が出勤してきたのだろう。

「この音・・・」

「ああ。誰か来たみたいだな」

「あ~あ。終わりかぁ」

 リンはとても残念そうにしているが、この瞬間は無限縛りかくれんぼが始まって以来レンが待ち望んだものだ。

「残念だけど、そうみたいだね」

 笑顔になりそうだったが、もし笑顔をリンに見られてしまったらへそを曲げられて後々面倒なので必死に我慢して極力残念そうに言う。

「まだ遊び足りないけど、ルールだし仕方ないよね」

「散々やったのにまだ足りないのか」

「当然! 丸一日でもいけるよ!」

「それは勘弁してくれ・・・」

 話しながら歩き出す。

「それじゃあ、次は何やろっか?」

「おいおい。まだなんかやるのか? もう疲れたんだけど」

「・・・ぷ。あはははっ! レンはおかしなことを言うね!」

 レンの言葉を聞いて、リンは心底おかしそうに笑い出した。

「はぁ・・・。疲れるなんてあるわけないじゃない」

 笑いが収まり、さも当然のことのように言う。そして、最後にこう続けた。

「私たち、死んでるのに」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

博物館の住人

投稿失礼します。

リンちゃんとレンくんを使って、博物館を舞台に二人が楽しく過ごしているところを書きたいと思い、作りました。

文章力が乏しいのでかなり見苦しい部分があるかと思いますが、ご容赦ください。

初投稿ということで自信なし&緊張しています。
あまり期待しないで読んでいただけると幸いですm(__)m

閲覧数:232

投稿日:2013/04/24 22:49:39

文字数:4,058文字

カテゴリ:小説

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