夏が終わりかけ、風が心地良い季節になっていた。

 もうあの日から、四年が経っていた。

 彼は、ギターを背負って自分の家まで歩いていた。いくら涼しくなったとはいえ、背中には汗をかき、つい息が上がってしまう。

 家の前の自転車が見えて、やっと一息。あと少し。

 ギターが自転車に当たらないように避けて通ろうとすると、自転車のカゴに何か貼り付けてあるのを見つけた。

 メモ用紙が、半分に折られてセロハンテープで貼られている。はがして開くと、かわいらしい字で何か書いてある。

 彼はそれを読み終えると、手を震わせてまた読み直す。何度も、何度も読み返す。

 さっきまでのしっかりした足つきはどこかに消え、ふらふらと重心がわからなくなってしまったかのように、家の扉を開いた。




 あの日と同じ、六時半。あの日と同じ、塾の屋上。

 彼女は貼り付けたメモ用紙の内容を思い出しながら、金網に触れた。イヤホンからは、ある歌が流れている。

 一曲リピートに設定されているプレーヤーは、彼女のカーディガンの中に入っていた。

 彼女は、これから何を話そうかと想像していた。



 これ、君の曲だよね?

「なんで、なんで知ってんの」

 見つけちゃったから。君が書きそうな歌だなって。

「そんな、わかるわけない」

 うん。わからなかったから、聞きに来たの。正直、違っても良かった。ただ、これを逃したら、やっぱり二度と会えない気がしたから。

「嘘みたいだ」

 そうだね。でも、こうやって君のだって思っちゃう程度には、ずっと想ってたよ。待ってたんだよ。

「待ってたって、なんで」

 待ってたから、届いたんだよ。



「そうだよ まだ届くかな
あの客席の奥 君の元まで
あぁ どうにも 聞こえないままの
そこに 響く
一人きりロックショーを……」


 嬉しそうに歌う彼女の後ろで、階段を上る足音と、金属製の扉を開く音が聞こえた。

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ダイアローグ ― 一人きりロックショー〈さよなら曲・Ⅳ〉

「モノローグ ― 透明エレジー」の続きです。これにておしまいです。

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投稿日:2013/06/11 16:54:59

文字数:821文字

カテゴリ:小説

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