この物語は、カップリング要素が含まれます。
ぽルカ、ところによりカイメイです。
苦手な方はご注意ください。


大丈夫な方はどうぞ。



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 二人が去って静寂が戻った店で、がくぽは振り返ってルカを見た。
「ルカさん、ありがとうございます。……貴女のおかげで、あの二人の前で歌うことができた。」
 がくぽにとって二人は、いつかその前で胸を張って歌えるようになりたいと思っていた存在だった。音楽をやる者として、見守ってくれる兄や姉のような存在として。
「私ができたことはほんの僅かです。」
 ルカはやはり微笑み首を振って答えた。
「そんなことは決してありません。貴女がいたからできたことだ。メイコさんも言った通り。」
 がくぽはルカに近付いて言った。
「……がくぽさんがどれだけ頑張ってきたかを私は見てきました。私の背を押してくれて、がくぽさん自身が一生懸命に音楽に打ち込む姿に私の方こそ励まされたんです。」
「ルカさん?」
「私も自信が無くなることがあったんです。でもがくぽさんが居るから頑張ろうって思えたんです……がくぽさんの方こそ、私の恩人です。本当に。」
「……恩人だなんて、言わないでください。」
 苦しげに声を搾り出した。
「……がくぽさん?」
 ルカの戸惑う声が聞こえた。それが引き鉄だった。がくぽはルカを抱きしめた。

「俺は善人じゃない、貴女の恩人になりたかった訳じゃない。確かに貴女の歌声は素晴らしかった、だから多くの人の前で歌って欲しいと思った、それは真実だ。でもそれだけじゃない。俺は貴女が歌う姿を見てからどうしようもなく貴女に惹かれて、他の誰かが貴女と話しているだけで胸が焼けるようだった。貴女の歌う姿を見るたびに自分も歌いたいと思ったことも嘘じゃない。でも別にそれに貴女を付き合わせる必要は何も無かった。……ただの我侭なんだ、ルカさん。俺は貴女が好きだ。だから貴女と一緒に過ごす時間が欲しかった。貴女を独り占めしていたかった。」

 がくぽは強くルカを抱きしめた。がくぽに比べれば壊れそうに柔らかく小さな身体。桜色の髪に顔を寄せるとふわりといい香りが鼻孔を擽った。心臓が早鐘を打ち続けた。
「貴女が好きだ。」
「……がくぽ……さん……?」
 がくぽはそれに答えずそのまま彼女を抱きしめ続けた。
「……がくぽ……さん…………苦し……。」
 がくぽは我に返り腕を緩めて顔を赤くした。
「ごめんなさい。」
 彼女は大きく息を吐くと、そのまま黙ってがくぽの肩に頭をもたせかけた。
「……ルカさん?」
「……私もです……」
 小さな声がした。
「ルカ、さん?」
「……私も、他の女の人とがくぽさんが話してるのを見て、ヤキモチを妬いてたんです……がくぽさんと一緒に居られるときは本当に楽しくて、ずっとこのまま一緒に居られたらって…………だから私も。」
「私も?」
「…………好きです………。」
 消え入りそうな声でルカは言った。

 がくぽは彼女の右耳の下から首へと手のひらを滑らせ支えて、彼女の顔を上げさせた。ルカの頬は上気し眼は潤み、泣きそうな顔でがくぽを見た。
 がくぽは微笑み、ゆっくりと顔を寄せて彼女に口付けた。軽く、ついばむ様なキスを幾度か重ね、そして深く口付けた。彼女の体が竦んだ。がくぽは構わず続けた。ルカの手ががくぽの服をしがみ付く様に掴んだ。時折彼女から小さく漏れる息と声に、服を引っ張る感覚にがくぽは熱い衝動を覚えた。長い口付けの中、されるがままだった彼女も少しずつぎこちなく応え、がくぽは彼女から唇を離した。
 彼女の体が糸の切れた繰り人形のように傾いだ。

「ルカさん!」
 咄嗟にがくぽは彼女を抱きかかえた。
 彼女はそれで止まらず、足の力がなえたかのようにそのまま床にへたり込んでしまった。がくぽもそれに合わせて座り込んだ。
「ルカさん?」
 顔を覗き込もうとすると、彼女の顔は熱に浮かされているように真っ赤だった。彼女は顔を覆って消え入りそうな声で言った。
「……お願い……見ないで。」
「どうして。」
「……だって……真っ赤なんです……恥ずかしい……。」
 愛おしさに思わずがくぽは彼女を抱き寄せ、髪と指の間から見えていた額にキスをした。

 一瞬間を置き、抱き寄せた腕に彼女の重さがずしりと掛かる。
「ルカさん?」
 応えはない。彼女の頭はがくぽの肩にもたれかかり、軽く彼女の身体を揺すっても反応がなかった。
「え? ちょっと、ルカさん?!」
 そうっと彼女の顔が見えるように身体をずらすと、彼女は気を失っていた。
「え……え、ええ?! …………嘘だろ……?! ルカさん? ルカさん!?」


 結局彼女は目を覚ます気配は無く、かと言って店には横になって休めるような場所は無かった。がくぽの車はあるが、ずっと彼女が気が付くまでそこに寝かせたままでは無用心だし、かといって一緒にがくぽも車に篭りきりになるのではどうしようもない。

 がくぽは仕方なく自分の家へ彼女を連れて行くことにした。店の事は後でやることにし、とりあえず鍵だけかけて彼女を家まで運んだ。自業自得とはいえ重労働だった。
 彼女を自分のベッドに運び込んで一息吐き、ずるずると座り込みベッドの横へ背をもたれて髪をかき上げ、がくぽは溜息混じりに呟いた。
「キス程度でこうなるとはな……。」
 奥手だろうとは思っていたがここまでだったとは。正直なところ前途多難だ。

 がくぽはもう一度彼女の顔を見た。顔の赤みはだいぶ引いて、今は穏やかな寝息を立てている。綺麗な顔は安らかで無防備だった。思わず手を出したくなる。
 このまま見てると理性が持たない。
 さすがに気を失っている女性に手を出せるほど鬼畜ではない。ましてやここまで奥手なルカに。
 がくぽは立ち上がって彼女に掛け布団を掛け、隣の部屋のテーブルの上へメモ書きと合鍵を置き小さなライトを付け、鍵を掛けて家を出た。途中で起きても大丈夫なように、メモには店の電話番号と自分がそこに居ることを記した。がくぽはそのまま店へ車で戻った。

 休みの日なので店の片付けはそこそこで終わってしまった。
 しかし家に戻っても休む場所は無い。メモを残した手前車の中で長時間は休めない。
 がくぽは店の暖房を付け、電気は店内が薄く見える程度に消し、荷物を手近なテーブルへ一まとめにして、椅子を幾つか横に並べその上へ横になる。朝の五時頃に携帯電話のタイマーをセットし近くのテーブルの上に置くと、腕を組んで瞼を閉じた。

 浅い眠りを繰り返し、タイマーの電子音に目が覚めた。
 流石に背中だけでなく身体中が痛い。雨の音がする。
 がくぽは起き上がり店の電気を点けた。ぼんやりとした頭を覚ます為に、厨房へ行って軽く顔を洗い、水を飲んだ。

 ルカは会社勤めだが、何時にいつも起きて出勤しているか、店からここまでどれくらいかかるかはがくぽは知らない。
 ……一応、六時頃に起こせば大丈夫だろう。
 がくぽは店の電気を全て消し、鍵を掛けて車に乗った。小雨がぱらついていた。

 店から家までは車で十分程度。がくぽは家の鍵を開けるとドアをそっと開けた。中から物音はしなかった。まだルカは休んでいるようだ。
 体中が痛くてだるい。
 がくぽはキッチンへ行き朝食の下準備をし、その後着替えの置いてある寝室へ行った。彼女はまだ休んでいた。起こさないようにそっと着替えを一通り手に持って部屋を出た。シャワーを軽く浴びて服を着替え、朝食の支度を終えると六時を少し回っていた。
 がくぽはルカを起こしに寝室へ向かった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Music Bar  -第6話-

読みづらい点等あるかと思います……申し訳ありません。

この回は迷った挙句、結局載せることにしたという状態です(根がチキンなんです;)
問題等ありましたら削除いたします。

閲覧数:1,065

投稿日:2010/05/09 17:45:25

文字数:3,155文字

カテゴリ:小説

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