ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、
なんとコラボで書けることになった。「野良犬疾走日和」をモチーフにしていますが、
ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてP本人とはまったく関係ございません。
パラレル設定・カイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手はかの心情描写の魔術師、+KKさんです!

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【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#19】



 机に突っ伏したまま、だらしのない姿勢で本をぱらぱらとめくる。本を読むつもりなんて毛頭ないみたいに――いや、実際本を読むつもりなんてないのだ。ただ、手持ち無沙汰の慰みに、こうして本をぱらぱらとめくっているだけなのだ(その証拠に、目に留まるページは挿絵や写真のあるページだけだ)。
 こうしていてもなにもはじまらない、というのは、わかっていても、なにをする気力もわかなかった。久しぶりに外に出て、家に帰ってきたらかいとと再会して、話して――今日は全体的に見れば素敵な一日だったといえるかもしれないが、たった一点、かいとを突き放してしまったことで、人生最悪の一日になってしまった。俗には「終わりよければすべてよし」と言うけれども、終わりが悪ければすべてぶちこわしなのだという典型例だ。まさかこの身に沁みて実感することがあるとは思わなかった。身から出た錆とはいえ、あんまりにも可哀そうなことをしてしまった。かいとにも、かいとに会わせてくれた(のだろう、たぶん。なにをどうして知り合ったのかはわからないけれど)るかさんにも、合わせる顔がない。彼はるかさんの家で使用人をしているという。もうるかさんの家に行くのも控えるべきだろう。……というか、このまま嫁入りしてしまえば、迂闊に外を歩くことも叶わなくなるし、だいいち、もう少し遠くの神威の家に行かなくてはならなくなるから、今までのように気軽にるかさんの家に行くなんてこともできなくなるのだろう。そうだとしたら、るかさんとももう少し話をしておくべきだったかもしれない。
 ――やめよう。考えれば考えるほど、後悔とそれに類するできごとしか思い出せないわ。
 今日はいろんなことがありすぎて、自分でもそれとわかるほどに疲弊しているのだ。そう自分にいいきかせて、今夜はもう眠ってしまおうか、と、机の上を片づけた。

 雨足が強くなってきているのが、屋根をたたく雨の音でわかった。半開きにしたままの窓を閉めようとして、窓際に寄る。街灯がぽつぽつと灯りをともしはじめていて、自分の家の門にも、灯りがついているのが見えた。雨がカーテンのように薄く視界を覆っている。そのカーテンの向こうに、門に向ってくるなにかが見えた。
 人通りのすくなくなった大通りに見えた「なにか」は、よくよく見れば人のようだった。傘をさしていないところをみると、この雨にやられて、急いで家に帰るところなのだろうか。そうして目で追っていると、その人影は家の門の前でぴたりと止まった。
 あら、うちに用事の方かしら。誰だろう、こんな時間に――そうして、その身なりと体つきをきちんと見ようと目を凝らしたところで、私は思わず窓から離れた。
「めいこっ!」
 ――かいとだ。
 咄嗟に時計を見遣る。もうるかさんの家に帰っていていい時間だ。普通の家なら夕餉の時間、よほど急ぎの用でなければ他の家への訪問も控える時間。
 なぜ? なにか忘れ物? でも、何かあれば誰かが気づくだろう。それじゃあ父母に用事かしら。ううん、彼はいまはっきりと、私の名前を呼んだじゃないか。それならなにか私にかかわることだろう。
 なんだ、なにを――傘もささずに走ってきて、そこまでして私に用事なんて、あるはずないのに!
 混乱しながらも、窓から聞こえてくるのは、雨音を切り裂くようなかいとの声だった。
「俺、本当はっ・・・約束を守りにきたんだ!」
 約束。そのひとことで、一番に思い出されたのは、幼いころのちいさな指きりだった。

 ねえ、めーちゃん。おおきくなったら、けっこんしようね。
 うん、やくそくよ。ずうっといっしょよ。

 まさか。でも。
 混乱する私の耳に、窓の外からかいとの声が続けて聞こえた。背にした廊下の向こうで、走り回る使用人たちの足音が聞こえたけれど、かいとの声よりずっと遠く聞こえる。
「もう忘れてるかもしれないけど! ずっと、ずっと心の支えにして生きてきた!」
 忘れてない。忘れてなんかいない。ずっと心の支えにしてきた。それは私も同じだ。かいとも、そうだったの? 私が、あなたの支えになれていた? それはなんて嬉しいことだろう。
「手紙が届くたびに幸せな気持ちになったのは、俺だけじゃないはずだ!」
 思わず窓に近づく。私の方こそ、ずっと手紙のやりとりが生き甲斐で、心の支えで、なにより、かいとが元気でいることが嬉しくて、それがわかったから今まで生きてくることができたようなものなのに――そう叫びかえしてやりたかった。けれど、窓から門を見下ろすと、使用人たちが門を目指して走っていくのが見えた。
 咄嗟に開いている窓側の壁に背をつける。ここから叫ぶことはできる、かいとの言葉に応えることもできる。でも、ここで私がなにかしたら、きっとかいとの立場がわるくなるだろう。私はどうなってもいい、けれど、かいとが、家の者に何をされるかわかったものではない。今出てくことはできない。声をかけることは得策ではない。
 ああ、そこにいるのに、声を交わすことができない。彼を押さえ込みにかかっていく使用人たちを諌めることもできない。なんて、なんて歯がゆいことだろう。思わずくちびるを噛みしめる。
「手紙の内容が真実なんて言わせない! しぐれが持ってきた手紙が俺が知ってるめいこだった!!」
 わあわあと喚く使用人たちの声に負けない、鋭い声が耳に届いた。けれど一瞬、その言葉に違和感を覚える。手紙? しぐれが持ってきた?
「めいこの気持ちはっ、わかってるんだからな・・・!」
 切羽詰まったような、絞り出したような声で紡がれたそのひとことで、はっと息をのんだ。
 一筆箋に手紙を書いて、出すあてもない長い手紙を書いた次の日に、しぐれがいなくなったことを思い出す。しぐれのいなくなった日は、つまり天袋の掃除をした日でもある。掃除をしていて、なぜ不思議に思わなかったのだろう。
 屑籠の中に、その前日に書いたはずの長い手紙は、入っていたかしら?
 思い出すかぎりでは、黴の生えた財布を屑籠に放ったとき、紙の音は、しなかったはずだ。
「――――!」
 心臓が、胸を突き破りそうな勢いで鳴り始めた。
 私が部屋の外に出ている間、使用人たちが部屋に入ってくることはない(とてもよくできたひとたちだと思う)。父母も同様だ(こちらは、たんに私に対する興味がないだけだろうけれど)。だから、私のいない間に、屑籠の中身ですら、勝手に捨てられることはないのだ。それなのになくなっていたあの長い手紙。あれだけの分量を書いたのだ、いくら封筒に入れたとはいえ、あのちいさな屑籠の底にあって、革の財布が投げ入れられれば音くらいするはずだ。
 あの日、私の部屋からなくなったのは、しぐれだけではなかったのだ。
「しぐれ……!」
 口もとに手を当てて呟くと、指が湿った。視界がぼやけて、嗚咽が漏れそうになるのを必死にこらえる。立っていられなくて、窓際に寄りながら膝をおとした。髪の毛に雨が降りかかるけれど、かまわずに、窓の外に耳をそばだてながら、まだなにか聞こえないかと思って、袖を噛んで、荒くなる呼吸を抑える。
 ――泣いちゃだめ。ただでさえ雨で声が通りにくいのに、私の泣き声でかいとの声が聞こえないなんて、そんなのいやだ。
 窓の外の喧騒は、先ほどよりおおきくなっている。かいとの声だけは聴き洩らさないように、注意深く聴き耳をたてる。
「めいこっ!」
 聴こえているよ、かいと。そう叫び出したい衝動に駆られながら、涙もぬぐわずにその言葉の続きを待つ。

「絶対に迎えに行く!」

 はっきり聴こえた彼の声。
「返事を……」
 その先は、いっそう強くなった雨足と、自分の喉から洩れてしまった、こらえきれなかった嗚咽でかき消されてしまった。
 ぼたぼたと床に沁みをつくるのは、雨だけではなくて。耳に聞こえる湿った音は、雨音だけではなくて。
 しぐれが、手紙を届けてくれたという。それをかいとが読んだといった。あの長い手紙が、かいとの手に渡っているだけでも素敵なことなのに、そのうえで、あんなふうに叫んでくれていたのなら。
 それはなんと嬉しいことで、なんとむなしいことか、と、思った。

 あの手紙が読まれているなんて、思いもしなかった。
 でも、それなら、最初からお互い遠慮なんてしてはいけなかったのだ。会って最初に、会いたかったと、懐かしいねと、手を取り合ってもよかったのだ。この家から逃げ出したいと弱音をはいても、かいとは困惑したかもしれないけれど、私のきもちを否定することはなかったはずだ。結婚したくなんかないのだと、親にきめられた相手と一生添い遂げるなんてごめんなのだと――かいとと一緒になりたいのだ、と、言ってしまっても、ほんとうは、よかったのかもしれない。
 かいとは、約束を守りにきた、と言った。私を絶対迎えに来る、と。
 でも、何もかもが、あと一歩ぶんだけ、遅かった。それを恨み言として口に出すには憚られる。かいとのせいじゃない。手遅れにしたのは私なのだ。だから、
「もうじゅうぶんよ……」
 来てくれただけでじゅうぶんだ。ううん、約束を覚えていてくれただけでももうじゅうぶん。
「かいと……!」

 あなたに会えただけでもうじゅうぶんだから、これ以上、期待をもたせるようなことをしないで。
 せっかくあなたのことをあきらめかけていたのに、決心が鈍ってしまう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【独自解釈】 野良犬疾走日和 【紅猫編#19】

ボス走らず急いで歩いてきて僕らを助けてPの「野良犬疾走日和」を、書こうとおもったら、
なんとコラボで書けることになった。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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めいこさん、窓越しにかいとくんの声を聴くの巻。

このめいこさんはものわかりがよすぎると思います。
しかしながら、めいこさんのこういう迂遠なところはマイナス面だと思うのですよ。
年月とともにひとが変わっていくのはよくある話。めいこさんは天真爛漫さがなくなって、
あたまでっかちになってしまった「ものわかりのいいひと」の典型だと思って書いてます。
それでも好きでいてくれるかいとくんは、なんて懐のでかい男なんでしょう……!

いやあ、しかしかいとくんカッコイイわー。ぷけさんGJと言わざるを得ない。

青犬編では、ぷけさん基準ではヘタレのかいとくんみたいなので、こちらも是非!
あれでヘタレ……だと……!? ぷけさんの男前の基準がわからない……!

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かいと視点の【青犬編】はぷけさんこと+KKさんが担当してらっしゃいます!
+KKさんのページはこちら⇒http://piapro.jp/slow_story

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つづくよ!

閲覧数:352

投稿日:2009/11/03 12:43:52

文字数:4,059文字

カテゴリ:小説

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