小噺:街が消える日(後編)

投稿日:2013/10/23 20:41:08 | 文字数:5,091文字 | 閲覧数:40 | カテゴリ:小説

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自作曲「実験都市区画モラトリアムの憂鬱な午後」及び関連楽曲群のバックストーリー的な何か。
後半の手抜きっぷりが見どころ。

Q.何故に二部編成です・ワ・?
A.一作品6000文字までしか入らないのよ

前編→http://piapro.jp/t/Os0U

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TEXT
 

「……とまあ、そういう昔話。」
彼の眼は依然として空を仰いでいた。
「…どう思う?」
目線だけが二人に向けられる。
「どうって……この街は、200年前に突然現れたって事?」
「じゃあ、私たちの知ってる歴史は…。」
少年は鉄骨に座りなおして二人の方を向いた。
「歴史と事実は時に異なる。
しかも驚くべきことに、街の住人は最初から歴史を刷り込まれていた。
千年前からずっと続いてきたかのようにね。」
「そんな……。」
「神様かそれに類する何かだろうな、こんな真似ができるのは。」

「その時俺は、逃げ切ったと思った。
団の他のメンバーとはそれ以来会うことができなかった。
賊どもにやられたのかと、あのときは思った。
でも時が経つにつれて、気付いたんだ。
あれはきっと、賊なんかじゃなかったんだ。
それと俺も逃げ切った訳じゃない、生かされていたんだ。」
「生かされて、いた…?」
少女は少年の手に自らの手を重ねた。
温かみを感じる力は、まだ残っている。
「賊の事件から数年後だろうか、俺はゴロツキにナイフで刺された。
ところがな、ナイフが抜けると同時に傷がみるみる無くなり、消えた。
この体は、死ななくなっていたんだ。」
少年はガラクタから釘をつかみ取ると、2、3本纏めて手甲に突き立てた。
少女は目を覆ったが、次の瞬間刺し傷がみるみる引いて行くのを見た。
「どういうことだろうな。」
横の女性も口を開いた。
「一度、崖から落ちて足を折った事があるわ。
痛くて痛くてたまらなかったけど辺りに人はいない。
どうにかして人を呼ばないとと思って足に手を掛けた瞬間、足はもう治っていた。」
「神様…かどうかは分からないがこの街を生み出した誰かは、俺たちを必要とした。
沙漠にわざわざ建てられたこの街には、何か目的があったんだろう。
それを、この街の行く末を観測するために観測者が求められた。
そんなところじゃないかな。」
「じゃあ、私たちは…」
「手駒だったんだよ。
ナイフ事件のせいでこの街にいられなくなった手駒一号が逃げると、次を。」
「それが私…そして私もこの街から疎遠になると新たな観測者を…」
「待って、でも私は不死身じゃないわ、この通り…」
「相手さんだって馬鹿じゃないさ。
民衆の目の前で死なない人間なんて見せて騒ぎを起こした苦い経験がある。
だから一見、死んだように見せかけた。
観測者としては存在したままに、な。」

「そんな…そんな……。」
少女は目を見開き、震えあがっていた。
「となると、君に見えていたのはきっと未来ではなく、この街の運行計画か何かだろうな。
観測者に能力を付加したつもりが、結果的に仇になったようだが。」
「二重の意味でね。」
女性が割って入った。
「もしこれが本当なら、大変な事になるわ。
あと半日、今日の日没から先が見えない。
それはつまり、そこでこの街は使命を終えるという事よ。」
「すると…この街は…。」
「元々存在しなかったものだ、沙漠の砂に戻るだろうな。
壮大な砂遊びが終わり、元の姿へと…。」
「そして人々の記憶からも、無かった事に…」

「どうにか、ならないの……?」
半泣きになった少女がすがりついた。
「正直言って、わからん。
そもそも日没に何が起こるのか、どうすればそれを止められるか。
それで街が終末を回避できるのか、文字通り神のみぞ知る話だ。」
「そんな……。」
「だが、一つだけ可能性がある。
妨害というか、抗う事くらいは出来る可能性が。
ただ、そのための武器がある場所が、少々厄介だ。」

「街ができた直後、賊から逃げる途中で俺は見た。
何名かの市民が、憲兵に引かれていく姿を。
拿捕された中に一人、見慣れない民族衣装をまとった男がいたんだ。
その男を取り押さえた憲兵の一人がこう言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
『幻盤を弾かせるな、何があってもだ。』
その男が持っていた小さな竪琴のような物、あれが恐らく幻盤という代物だ。
あれはこの街にとって、相当に不都合な存在らしい。
決められた通りに動く街が、終末へ向かっている。
ならば計画外な存在にこそ、結末を変える可能性がある。」
一呼吸を置いて、女性は答えた。
「でも、それって二百年前の事じゃ…。」
「そう。でも他に対抗できる手段を俺は知らない。
それに、俺たちの事を考えると、彼が死んでいる保証もない。
残り時間は半日を切った、賭けるとしたらそこじゃないか?」
沈黙と静寂が、消極的な賛意を示した。

「3,2,1でいくぞ…」
町の北西、鉄の壁で覆われた区域。
囚人を閉じ込める牢獄だ、少なくとも表向きは。
その一角で、平和な真昼の静寂を破る、爆発音。
轟音と共に壁には大穴があき、内側に向かって大きくささくれ立った。
駆けつける警備兵に向かって、砂煙の中から伸びた手が小刀を突き立てる。
「さあ、あんたはどっちだ?」
狂気に満ちた少年の口元が三日月形に開く。
しかし、どちらでもない答えが目の前に示された。
「…!?」
警備兵の体がみるみる砂に変わり、崩れ落ちてゆく。
砂山と化した残骸を掬って少年は悟ったように呟く。
「どうやら、そういう事らしいな。」
夢幻の街は、予想以上に根深く制御されていた。
あの日の憲兵もきっとそう、砂人形だったのだろう。
200年間に渡って"何者か"はこの人形で住民を制御してきたのだ。
もっともその事実は、彼ら自体知らないのかもしれない。

地下牢へと続く道を塞ぐ巨大な扉に爆弾を縛りつけて、一気に吹き飛ばす。
地下に向かって日が差し込み、勢いよく風が吹き抜けてゆく。
凍りついた世界が時を取り戻したかのように、あるいは実際にそうなのか。
先の見えない地下道はまるで巨大な怪物の胃袋。
あの日、街は不都合な存在を捕らえては次々と呑みこんで行ったのだ。
はたして彼は、そこにいるのか。幻盤は。
だがそんな事を考えている時間はもう無い。
カンテラを手に、長く暗い地下牢を突き進んだ、その先。

2時間近く歩いただろうか。
外の光を失ったはるか先、地下牢の最も深い所。
俯いた、しかし200年前と変わらない姿で彼はいた。
足音に気付くと民族服の青年はゆっくりとこちらに顔を上げた。
「ここは……。」
「ここはって、あんたがいた街の地下牢だよ。
あんたが憲兵に連れさらわれて、200年が経つ。」
「200年間、ずっとここで眠っていたのね…」
「眠ってというか、この場所の時自体が止まっていたんだろうな。
きっとこの街が終わるまで止めておくつもりだったんだろう。」
「待って、どういう事です? 200年? 街が…終わる…?」
「恐らく、すぐに嫌でも理解することになる。
そしてその時、君の力が必要になる。 …来てほしい。」
少年は座り込んだ青年の腕をつかんで、強引に立ち上がらせる。
「…何を言っているのかよくわかりませんがいいでしょう、行きます。
何かよくない事が起ころうとしている、それは確かなんですね。」

4人は監獄を飛び出した。
随分と派手にやってしまった、新たな警備兵がすぐに送り込まれる。
なにしろ、沙漠の砂から無尽蔵に作ることさえできるのだから。
急いでここを離れなければ、全てが水泡と帰してしまうだろう。
太陽はもう大分傾いて、影を長くのばしていた。
「それで、どうすればいいの?
もう時間はほとんどないよ…ってこれは…!」
前方、市街地へ続く道を見て少女は絶句した。
街のあちこちで、淡い玉響が漂い始めていたのだ。
初めて見る奇妙な光景に、人々はパニックに陥っている。
「街を稼働させる魔法か何かが解けかかっているんだ、急ぐぞ!」
「急ぐってどこへ!?」
「天郭前に大きな広場がある、あそこだ!
あの場所、街の中心で幻盤を鳴らすんだ!」
現れては消えるオーブにおびえ、ざわめく人々の群れを強引にかき分け、4人は広場を目指した。
太陽はもう半分以上天境線の向こうにある。

大通りを全力疾走する中、少女は不意に身震いした。
「ねぇ…まさか…私たちがこういう行動をとる所までが、街の計画って事は…ない…よね?
必死で抗ってる私たちを、その”誰か”は面白がって見てるって事は…」
「もしそうならここでやめるのか!」
少年は、昼間見せたアンニュイな表情からは想像もつかない怒号を発した。
「あなただってとっくに知っているでしょ、私たちがここにいる、本当の意味を!
この街に…消えてほしくないでしょ!?」
反対側で女性が、息を切らしながら呼応する。
「みせてやりましょう、僕たちの『答え』を!」
青年が背後で叫んだ。
「うん!!」
少女は、改めて前を向く。
その視界に、もうすぐあの忌まわしくも愛おしい風景が…
あの日、血で染まった天郭前、そして中央広場。

広場は何故か、不自然なくらい人の気配がなかった。
皆何処かへ立てこもったのか、あるいはどこかへ逃げてしまったのか。
玉響はなおも数を増し、街を満たしてゆく。
同時に視界が時折乱れ、感覚が狂い始めた。
「さあ、いきますよ……」
「もう時間が無い、急いでくれ…!」
青年が広場のちょうど真ん中、石の上に立って幻盤の弦を弾く。
次の瞬間、

幻盤は竪琴のような見た目からは想像もつかない音色を吐き出した。
それは金属的で、それでいて温かく、どんな楽器にも似ていない音。
同時に弓体がみるみる伸びて2mを軽く超える巨大な姿に変貌した。
重みで傾いた幻盤を二人が慌てて両端から支える。

幻盤が音を奏でる度、見えない何かが街全体に向かって広がって行くように感じた。
「存在してはいけない物」として封印されていた物が、終了間際になって解かれたのだ。
予定通りの調和でできた世界が、不正な音色によってかき乱されてゆく。
この街の作り手の目論見は、もろくも崩れ去った。

「やったか!?」
「いや、まだだ、演奏を続けろ!」
背後で何かが壊れる音がした。
天郭の壁面を飾る天走儀が、続いて天郭そのものが。
崩れ落ちた瓦礫が地面に激突し、潰した角砂糖のように砂に帰ってゆく。
秩序を失い、軋み崩れてゆく街の中で、幻盤の演奏は続く。
そして・・・

崩れ落ち、砂の塊に変わり果てた天郭。
その大時計の長針が、日没の時刻を超えて再び、一度だけ動いた。
同時に街の崩壊は止まり、玉響も波が引くように消えてゆく。
来るべき終末は乱され、回避された。
少なくとも見る限りでは。
しかし、それは別の終わりを意味していた。
天郭の残骸をなでる少女の手を、再び光が…
振り返ると、3人も光に包まれていた。

「どうやら、終わりの時が来たようだな。」
「私たちは元々、街の魔法で命を引き伸ばされてきた存在。
街が魔法仕掛けでなくなった今、生き続けることはできないのよ。」
「ひと泡吹かせたと言えば、上出来だがね…」
さびしげな表情の少女に、青年が諭すように語りかける。
「消えてしまうのはさびしい事です。
でも、見てください。」

青年の指差した先、街の人々がそこにいた。
みんなもう自分たちのことは見えていない。
崩壊した天郭にあっけにとられながらも、早くも砂を掻き出し始めていた。
「この街の人々は強い。
きっと、この先もずっと生きて行ける。
あなたが、この街を守ったのです。
他の誰も知らないかもしれない、でも僕たちは知っている。」
光はなおも強くなってゆき、体が薄く淡くなっていく。

4人は消えゆく手を重ね、静かに目を瞑った。
実際、彼らはもう視界がぶれてほとんど何も見えなくなっていた。
「さようなら・・・」

あれから一年、天郭跡は見世物となっていた。
天郭のような建築物を建てる技術はこの街にはなかったし、
誰も作ろうという気にならなかった。
雲ひとつない青空を見上げ、昼下がりの旅人が大きく伸びをする。

広場では、商人が饒舌な語り口と共に怪しい商品を広げている。。
これだけ人がいれば、誰か物好きが買ってくれるだろうという算段だ。
「あの光り輝くオーブが次々と現れた事件の日、天郭が崩落した。
その時のこと、3人の若者が巨大な竪琴を奏でるやオーブが消え去ったという!」
ベンチから遠巻きにそれを聞いていた一人の老人が、誰にも聞こえないようそっと呟いた。
「3人…いや、4人じゃったような…気のせいか。」
老人はパンの欠片を千切ると、近づいてくる小鳥に与えていた。
太陽は、今日も空を駆ける。

ひっそりと暗めの曲を書いております、お見苦しい代物も多いとは思いますがご容赦を。
……そろそろ整理しないと…w
また、写真素材の提供を行っております。
加工は自由なのでお気軽にご利用ください。
Twitter:@natsukazeholon
Vocalodon:@ItsukaP
HP:http://natsukazeholon25.wix.com/cometdiver

ニコニコ投下物一覧。
http://www.nicovideo.jp/mylist/25038231

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