生徒自治会会議室にて。
目の前に熱い緑茶を出されるが、動くことができなかった。
静寂がちくちく肌を刺す。
そんな状況なのに、飛び級の子は鼻歌なんて歌っていた。

本音デルが、机を挟んで座る。
タバコを灰皿に押しつけると、飛び級の子は鼻歌をやめた。

「ようこそ、生徒自治会会議室へ。
 さて、そろそろ話をしよう。
 てめぇらは、ここに来た理由を微塵も理解してないだろ?」

こくりとうなずく。
そのとき、隣に座る飛び級の子が、体育座りをしながら話し出す。

「ねえ、それってもしかして、もしかすると俺が原因だったりする?」

「ああ、そうなる。
 知っての通り、生徒自治会は生徒達が勝手に行動しないように
 監視し、時には阻止するために行動しなければならないところだ。
 今回のような勝手な奴らを取り締まらなければならない。
 鏡音リンやレンの件は、以前から天才として有名だったから、
 生徒も何となく察しは付いていた、という反応をしていた。
 でもなあ、おまえは無名すぎた。
 その分、生徒達の反応もでかくなる。
 そうなると、こっちの仕事も増えることになる」

「たいへんッスねえ」とへらへら笑う。

本音デルはため息をついた。

「この騒動は当分続くだろう。
 ましてや、おまえは先輩の挑発に乗っちまって、事を大きくする。
 今や教室内のエンターテイナーだ。
 全く……仕事が増える一方なんだよ」

「まあ、そこでだ!」デルはズンッと帯人を指さす。

「……?」

「おまえ、騒動鎮圧に回れ」

「……??」

「ちょ、ちょっと! なんでそうなるのよ! 生徒自治会じゃないのよ?」

「人が足らねえんだ。
 今日の身のこなしには、正直驚いた。
 おまえには十分すぎるほど、生徒自治会として働けるだけの素質がある。
 というわけで、強制」

「というわけで! じゃないですよ!!」

「あー、そう? 俺に反抗するつもり?」

本音デルはタバコに火をつけると、
フーと天井に向かって吹いた。
白い煙が天井に広がり、部屋がひどく煙たくなる。

デルはタバコを帯人に突き出す。

「俺がわからなかったとでも、思ってんのか?」

「……」

「場合によっては目をつむるけど、あのときのおまえはヤバかった。
 生徒指導室送りにしてやりたいぐらいな」

「……」

「どうする?」

「……了解」

「えええ!? 帯人、いいの!?」

その返事にデルは満足そうにタバコを吹かし、足を組んだ。

「ってことはマスターの増田ぁ。てめえも入るよなぁ?」

蛇のようにぎろぎろと目を光らせて、口元を三日月型につり上げる。
魔王と対面している気分だ。
私は小さく「……はぃ……」と答えた。

「よし、そういうこった。うんじゃあ、解散」

ようやく会議室から解放された雪子は、部屋の前で大きくため息をついた。
帯人はポケットの中をいじっている。

そんな二人を見て、飛び級の子はへらへら笑った。

「大丈夫だよ。もう、今日みたいなことはしないからさ」

「入ったからには責任もって活動したいけど、
 大騒ぎになったらさすがに無理だから、そこをよく理解して行動してよ?」

「りょーっかい♪
 あ、そういえば自己紹介してないや」

彼女はスッと手を出す。

「俺、欲音ルコって言います。よろしく」

「私は増田雪子。彼は帯人。こっちこそよろしくね」

雪子はその手を握り、握手を交わした。

     ◇

次の日、事はより大きくなっていた。
隠れファンの多いミステリアス美男子帯人君が、
飛び級してきた運動神経抜群のあの子の見張り役になったと言う噂が
校内を駆けめぐっていた。

それはそれでよかったんだけどね、
よりいっそう、騒動を大きくしました。

それはね。

「ルコぉおお!」

「おはようございます。雪子セーンパイ♪」

ルコは、首にはにんにく、手には十字架と聖書を持ってさわやかに笑う。
目立つ行動は避けてとよく言っておいたのに!

ルコは運動部の勧誘を全て断り、
なんと、学園である意味一番目立つ「オカルト部」に入ったのだ。
しかもその噂には、尾ビレにさらに背ビレまで付いていて、
「ルコは雪子のことが好き」とか、「どうなる三角関係」とか、
在りもしないことがやたらと含まれていた。

「苦労が絶えないねえ」と笑うネル。

その隣で、ハクがおろおろしている。
当の本人はと言うと、鼻歌交じりで何やらよくわからない呪文を唱えていた。
帯人はポケットの中をいじっている。

あー!もう!どうにでもなれ!!><

こうして、私の意思とは裏腹に
生徒自治会としての日々が始まってしまったのである。

     ◇

「フー」

部屋の窓を開け、煙を外に逃がす。
デルは遙か遠くを眺めながら、あのときのことを思い出していた。

「あいつ…」

バスケの野郎の手を、ケガをしない程度に捻る。
それならよかった。
でも、次の瞬間、あいつ……
目つきが変わりやがる。

ポケットの中から取り出しかけたそれは、人を十分に殺せる凶器だった。

「おっかねえ…」

こぼれた言葉は煙となって、部屋の外に逃げていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡-君のために僕がいる- 第03話「よくねるこ!」

【登場人物】
増田雪子
 帯人のマスター
 欲音ルコ騒動に巻き込まれてしまう苦労人

帯人
 雪子のボーカロイド
 隠れファンがいる

欲音ルコ
 中等部から飛び級してきた子
 運動神経抜群なのに、なぜかオカルト部に

本音デル
 生徒自治会会長
 元不良
 先生も彼にはかなわないらしい

亜北ネル
弱音ハク
 同級生であり親友

【コメント】
欲音ルコ、大好きです!
スーツなんてかっこよすぎやしませんか。

またまた大好きな絵を紹介させてもらいます。
 ↓
http://piapro.jp/content/cdkzyzkcih2rgmk0

ルコさんマジぱねぇッス!>ワ<

閲覧数:898

投稿日:2009/05/06 11:33:58

文字数:2,145文字

カテゴリ:小説

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  • アイクル

    アイクル

    ご意見・ご感想

    こんばんは!
    そんな、ほめすぎですよ!≧□≦
    私なんてまだまだ未熟です。
    デル兄さんは、時期に大活躍してくれますよ♪
    謎の回収は、また5月下旬になるでしょうから、気長に待っていてもらえると嬉しいです。
    よろしくお願いします^^

    2009/05/08 00:05:52

  • FOX2

    FOX2

    ご意見・ご感想

    FOX2です。夜分失礼します。
    凄い・・・・・・と、声が出ました。
    前々から読ませていただいておりましたが、文章力や表現力が豊かになり、小説としてかなりレベルが高いですよ。
    豊富な亜種ボーカロイドに、前作から続く壮大なストーリーが物語を盛り上げていますね。
    改めて、この小説の存在感を思い知らされた気分です。
    僕はデル兄さんの性格と設定が気に入りました。あと、アカイトが残した「ノイズ」が気になってしょうがない!!です。
    更新楽しみにしています。

    2009/05/06 21:57:47

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