…正直な話。
 バレンタインデーなんてやってられない。
 …と、思う。
「チョコなんてつくれるかぁぁあああああ!!!」
 そういって、リンはそこにあった材料を全て投げ出すようにして、姉のメイコに泣きついた。
「メイコ姉、無理だよぉ…」
「そりゃあ、いたチョコをまるまんま鍋に放り込んだアンタには到底出来ないと思うわ」
「じゃあ教えてよーっ」
「やぁよ。私だってチョコ、作ってる途中なんだもの」
「メイコ姉の意地悪ーっ!!」
 チョコレート…何それ、美味しいの。…そう言ってすっとぼけてやろうかと思うくらい、チョコレートってのは作りにくいと思う。それならカツカレーを作っていたほうが数倍簡単だ。
 …作ったことはないが。
 兎に角、世は今、バレンタインデーと浮かれている。それは、作れるような女の子にはいいかもしれないが、作れない側のリンとしては、作らなければ友達との話題に困るし、作ろうと意気込んでみても不器用なリンには、メイコが言うように作るのは『到底無理』だ。
 そういえば以前、何かで見たが、バレンタインデーに女の子がチョコレートを渡すのは日本だけで、外国では主に男の子の方が女の子に花やお菓子などの贈り物をするのが普通らしい。不運な星の下に生まれてしまったのだ。
 何故、日本だけこんな妙なことをするのだろう?まったく、外国に生まれていれば良かった!
 大体、女子のリンは不器用なのに対し、その彼氏――と、レンが思っているかは別として――は器用で家庭的で、こういうことに困ることはないのだろうな、と思う。どうせなら、逆チョコとか言ってチョコレートを要求してやろうか、と腹黒い考えがリンの脳裏をよぎったことは、おそらく言うまでもないだろう。
「…もうやんない!レンから貰う!」
「一体、どっちが女の子なんだか、分かったもんじゃないわ」

「…なるほど」
 納得したようなしていないような、不思議な表情でレンが腕を組んだのを見て、リンはすっと手を差し出した。
「…なんだ、この手は?」
「チョコ」
「…結局作れなかったんだ?」
 呆れたようにレンが言う。
「だって、チョコって作るの大変なんだよ?板チョコを鍋に入れただけじゃ出来ないんだから!」
「…当たり前じゃん。湯煎しなきゃ」
 呆れもここまでくると寧ろ驚きに変わるようだ。
「…やっぱりレンのほうが得意――っ!なんか負けた気分!」
「不器用なんだ、リンは」
 言って、レンはぽけっとから可愛らしくラッピングされた、小さなクッキーとチョコレートを差し出した。そして、
「…貰ったから、手本に作れ」
「レン、誰に貰ったの、こんな可愛いの!しかも上手!!」
 そういいながらしっかりと受け取り、しかもパクパクと美味そうにクッキーやらチョコやらを頬張っている。随分嬉しそうだ。
 …誰から貰ったなんて、いえるわけがない。
 実際はレンが作ってリンにやるために持ってきたなどと、そんなことを言うのは恥ずかしいにもほどがある。世に言う『ツンデレ』だ。
 綺麗に整えられた小さなチョコレートが、リンの胃袋に消えて行く度、レンは嬉しいような虚しいような、不思議な感覚がした。
「ホワイトデーは三倍な」
 少し笑う。
「…レン?」
「ん?」
「寒い!」
 そう言って身を縮める。それもそうだ。何せ、真冬の夜中の公園だ。
「そんな短いスカートで来るからだろ」
「暖めて!」
 ぎゅっとレンに抱きついて、それでも寒いのかぐりぐりと頭を押し付けてくるリンは、まるで子猫のようである。もしもリンが子猫であるというなら、レンは飼い主だろうか。
「あ、レン、コートのチャック開けて」
「やだ。寒い」
「いいからっ」
 そう言って、嫌がるレンのコートのチャックを無理やり開き、そこに自分の身体を押し込んだ。
「あったかーい♪」
「きつい!」
「我慢して。寒いの!」
「分かった、どっか入ろう。ココアでも飲んで」
「レンのおごりだーっ♪」
「ちゃっかりしてんだな」
「要領がいいの」
 こちらも少し笑った。

 温かい飲み物を飲んで、リンはすっかり店を出たくなくなっていた。
「レン、もう少しゆっくりしていこうよ」
「だめ。そろそろ帰らないと、皆心配するだろ」
「…もういっそ、このままホテルにでも」
「思春期なのは分かるが、それは十四歳の少女の台詞ではない。けっして。」
「…わかった。仕方ないなぁ」
 名残惜しそうにリンが席を立ち、レンが会計を済ませると、リンが後ろから出てきてまた寒そうに両手に息を吹きかけている。
 やはり寒いのか、と思いつつ、レンはさりげなくリンの近くによって行って、マフラーを貸してやった。
「ありがとう」
 嬉しそうにマフラーを首に巻いて、それから柔らかく微笑んだ。
 まるで人形…と、いうよりか、やはり子猫のような笑顔だ。
「…まだ寒い」
「一体何を要求する気だ」
 軽く身構えたレンの不意をつくようにリンはレンの頬にキスをした。
「…馬鹿か」
 そう言って頬に白い手を当てながら顔を真っ赤にして、そっぽを向いて目を伏せた。可愛らしい反応だな、と思いながら、リンは笑った。不服そうなレンも、リンの笑顔につられて笑っていた。

『The turning over one of white snow and blue pupil』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

双子番外、

こんばんは、リオンです。
一昨日、一週間は来ないといっていたばかりなのに申し訳ございませぬ。
前から案としてあったので、この話は書きたかったのです。
思ったほどくっつかなかったのが思い残りですが(汗
恐らくこの後、カイトはめーちゃんとチョコレートの交換をします。
カイトもメイコもチョコとか作るの得意そうなので。
あ、ちなみに、最後の一文は某英語翻訳サイトで翻訳した結果、
『白い雪と青い瞳のおくりもの』という意味です。
イメージでは粉雪がちらほらと舞っている状況なので。
それでは、また今度!

閲覧数:766

投稿日:2010/02/12 22:45:22

文字数:2,194文字

カテゴリ:小説

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