花が散っていく森。
私はただ、道なき道を駆け抜けた。

木にぶつかりそうになった。
カラスにつつかれそうになった。
石につまずきそうになった。
それでも、私は走り続ける。
はやく、はやく、逃げないと。

これさえ持って帰れば、私と赤い二つの果実は、きっと幸せになれる。
この果実も、きっとそのほうがいいでしょう。あんな奴等に渡すものですか。
二つの果実を胸に抱いて、私はただ月に照らされた夜を走る。

花を踏んでしまった。
ごめんね。今、私はあなた達に構っている暇はないの。
今抱えているこれを、とられるわけにはいかないから。


嫌だ。

ごめんなさい。
お願いです、見逃してください。
許してください。

奪ったのは私のほうです。
だって、どうしてもほしかったから。
だから、また奪って逃げ続けるんです。



私に幸せなどありはしない。
だからもう期待していません。


だって、私は弱くて愚かな“逃亡者”ですから。







<<魔女ザルムホーファーの逃亡【自己解釈】>>








罪の多い人生を送ってきました。



生まれた時から孤独で、仲間なんて一人もいない。
自分の父を知らない。自分の母も知らない。
そのような存在は、私が物心つく前からいなかった。
ずっと一人ぼっちで育ってきた。

それなら、どうやって育ったのかって?
自分でも知らない。覚えてもいない。
他の子たちが、とても羨ましかった。


一つ目の罪は『嫉妬』でした。



自分で言うのもアレだけど、私はかなり美人に育ったと思う。
二十歳の時、私は初めて人を愛した。
でも彼は――…、人殺しをした犯罪者だった。
彼の名は、『ペイル・ノエル』。

許されるはずもない。悪でない人間が、悪の人間を愛するなど。
でも、私は悪に惹かれた。諦めるという選択肢はありもしなかった。
あの人の傍にいたい。だから、自らも悪に染まりました。

私は、『優しくてキレイな皆の人気者』から堕ちてしまった。
だからでしょうか。人は、私を『魔女』と呼ぶようになりました。
確かに、私は花が咲く悪の道を駆け抜けた。
あの人に会うために悪に染まり、赤いアカイ鮮血を浴びた。
私は、背徳の愛に逃げ込んでしまった、愚かな咎人。


二つ目の罪は『色欲』でした。



私は盗んだ。
あの女の大切なモノを盗んだ。
「子供たちが、どこにもいないの」
血まみれで泣き叫ぶ女。自分の命より子供の命を心配するなんて。
馬鹿ね、あの子たちならもういないわよ?
だから、あの子たちの次に染めてあげる。

仕方ないでしょ?
あなたは夫の愛にすがった。望みが叶うと思いあがっていた。
私にはそれができなかったんだもの。
そして、あなたはするべきことを怠けた。だから私が消してあげたのよ。
大丈夫、不慮の事故ってことにしておいてあげるから。
だから、あなたも消えてね?

私が裁きを下すと、人って簡単に転がっちゃう。
この女も転がった。もうちょっと骨のある奴はいないのかしら。
多分、こいつはもう意識ないかな。
赤くなって転がっているそれを見下ろす。
すると、私に突如鎖が巻きつけられた。
「ユルサナイ」誰かが呟いた気がした。


三つ目の罪は『傲慢』でした。



罪とは、いつかは裁かれるもの。
私が入れられた牢獄は、無機質で暗かった。
懺悔はしない。後悔もしない。
そして、私は処刑椅子に座らされた。
目の前にいるのは執行人ではなく、どこか彼に似ている科学者だった。
彼は、『セト・トワイライト』と名乗った。

この場所から出たい私。
実験台が欲しい科学者。
二人の利害が一致した。

科学者の手により牢獄を出た私は。冷たい石の道を駆け抜けた。
『罪人』の白い囚人服を脱ぎ、『魔女』である『メータ・ザルムホーファー』の姿で走った。
向かうその先は、救いの手を差し伸べてくれた彼等の研究所。
幸せになってやる。そのためには彼等の力を利用する必要があった。


四つ目の罪は『強欲』でした。



そううまくいくはずありませんでした。
私は、Project「Ma」の実験台になった。
私に埋め込まれた神の種。
それは、私の中で鼓動をたてた。

私は、いつしか可愛い双子を産んだ。
この子たちも私と同じ。父のいない実験体。
――父のいない実験体?

何かが割れる音がした。

ああ、思い出してしまった。
何故、私に両親がいないのかを。
私もかつてこんなふうに、この子たちと同じようにビーカーの中で作り出されたことを。
私は、人造体(ghoul child)だったことを。

管に繋がれた我が子たち。
私が考えているこの行為が、身勝手なのはわかっている。
私は彼等の手によって生まれ、彼等によって育てられ、彼等によって救われた。
だが今は激しい怒りが沸く――…この子たちを、彼等の玩具にはさせやしない!


五つ目の罪は『憤怒』でした。



思えば、逃げてばかりの人生でした。
彼等が怖くて逃げて、背徳の愛に逃げて、あの女の思いから逃げて、正義から逃げて、また再び彼等から逃げて。
私が得られなかったひとかけらの愛を、せめて大切なこの子たちには与えたい。

花が散る森の道なき道を駆け抜けた。
私が唯一愛する二人の赤子をしっかりと胸に抱いて、喰らいクライ夜を走る。

愛に飢えていた彼女は、自らの子供たちに愛を与えた。
彼女は『魔女』から『逃亡者』になった。


六つ目の罪は『悪食』でした。



隣の国に隠れ、私はこの子たちと暮らす。
私は多分犯罪者として探されている。
だから、人目は避けなきゃいけないの。

月夜の中で出かける、私と子供たち。
うまく人目を避けることができる、お気に入りのエルドの森。
楽しい散歩に、なるはずだったのにな。
「ちょっとミルクを用意するわね」
私がほんの少し目を離したすきに、あんなことが起きるなんて。



――思えば、逃げてばかりで、罪の多い人生でした。

  私の本当の罪は、『怠惰』だったのかもしれません。

  だから、バチがあたったのでしょうか?





「子供たちが、どこにもいないの」















「ザマアミロ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

魔女ザルムホーファーの逃亡【自己解釈】

悪ノP様の曲で初めてまともに書いた気が…←
本当はギャグでいこうと思ったのですが、ネタが思い付きませんでした。

「魔女ザルムホーファーの逃亡」本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm18483455


8/13 追記
「真面目な悪ノゆるりーデビュー作」www
多分これからも増えます

閲覧数:8,268

投稿日:2012/07/30 16:59:21

文字数:2,561文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    ふっふっふ、今更だがコメントさせてもらうよふっふっふ(((

    ゆる、あなた悪ノ真面目作「眠らせ姫からの贈り物」を書いたでしょう!
    私覚えてますよ。そして七つの大罪シリーズでマルガリータさんの番になって「自己解釈書いてたからないかと思った……」って私コメントしましたよ!
    私覚えt「マルガリータ)さぁ、黙りなさい……」……あれ!? マルガリータさん!?
    その手に持ってるのなn……きゃああああa(ゴクリ☆)……(幽体離脱~


    ……ハッ!
    危ない危ない。まだ感想書いてないのに……ここで……死、ぬわけ、にh(ry

    リアルで泣きそうでしたよはい。
    うぅ、曲でもなきそうなのに小説でもだなんて……!
    ゆるステキすぎるよ……

    私もこれの自己解釈書こうかな、って思ってるけど……あぁダメだ……もはや自信すら沸かない…


    報告遅いけど、ブクマもらいました(*`・ω・)ゞ

    2012/11/02 20:45:34

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ふっふっふ、今更だがコメント返させてもらうよふっふっh((
      すみませんすみませんコメ返遅れて本当にすみません…

      あ、本当だ…
      本人ですら忘れるという←
      …あれ、マルガリータさんその手に握ってるの何かな?
      「大根をぶっかけたgiftよ!」by マルガリータ
      え、ちょやめ…あああああ(バキッゴクッシュワ☆(最後の何

      曲は本当に泣いた人←
      そんなに素敵な文章を書いた覚えはなかったと思う…
      ステキすぎるのはりんごのほうです。

      そ、そうなのか…
      りんごの解釈も見たかったんだけど…←

      ブクマありがとうございました( `・ω・′)b

      2012/11/07 19:01:07

  • 有言

    有言

    ご意見・ご感想

    こんばんは。
    突然のメッセージすみません(;´・ω・`)
    ゆるりーさんの文章力に惚れた有言と申します。

    私は先日からピアプロの方でボカロPの曲を私なりに心情解釈して文章化させていただいている者なのですが、同じ様に解釈小説を書いている方はどんな作品なんだろうと思い、ゆるりーさんの作品を読ませていただきました。

    使用する言葉も分かり易く、曲そのままの情景が頭に浮かぶこの作品を読んで、思わず感嘆の溜め息を吐きました。
    文書構成並びに解釈の仕方が本当にお上手ですね。

    僭越ながら、ブクマとフォローをさせていただきましたので御挨拶申し上げた所存です。
    今後も陰ながら応援しておりますので、体調にはお気をつけて執筆に励んでくださいね!!

    2012/08/13 02:52:35

    • ゆるりー

      ゆるりー

      有言さん、こんばんは。
      メッセージありがとうございます。

      お褒めいただき光栄です。
      私は解釈をするとき、「ここはこうだったらいいかな」という想像をしながら即興で書いているので、後で見直して後悔することが多いです。
      でも今回は自分でもうまく書けたと思えるので、褒めていただけて本当に嬉しいです。

      メッセージをいただいた後で、有言さんの作品も読ませていただきました。
      読んでいると「アイロニ」の主人公の気持ちにとても共感できて、最後は泣いてしまいました。
      読む度に泣けてしまうのですが、それでもまた読みたくなりました。ブクマさせていただきました。

      ブクマとユーザーフォローありがとうございます。
      これからも読んでくださる方の心に残るような小説を書いていけるように頑張ります。

      2012/08/13 22:19:01

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    仕事が早い―――――――――――――――!!!!?
    しかも久々(というかむしろ初めて?)ゆるりーさんが悪ノ物語で強烈真面目ものになった!!!!!
    今私は猛烈に感動している!!!!!明日受験的一大勝負の日なのにもう止められない!!

    これ冒頭文が原罪ギャグと対比してるところでまず一つ目の感動。
    犯した罪を一つずつ並べるところで二つ目の感動。
    最後の「ザマアミロ」で三つ目の感動。
    そしてあのスーパーバーニングコメディな大罪ギャグと原罪ギャグと比べた時のこの神秘の文章に究極の感動!!
    いやもちろん大罪ギャグと原罪ギャグも最高に面白いですけどwww
    しかしこれはギャグのネタが思いつかなくて大正解!!
    まさしく怪我の功名が生んだ神秘!!
    ブクマいただきますb

    2012/07/31 00:07:08

    • ゆるりー

      ゆるりー

      やっほい←
      多分初めてだと思います。
      明日受験的一大勝負って何してるんですか!?いいんですか私なんかの小説で時間を使っ(((長くなるのでカットします

      原罪ギャグと対比に気づいていただけて嬉しいです!
      なんかもうどうにでもなれって思った結果がこれです。罪を並べるところはスルー確定と思っていたのですがw
      最後の「ザマアミロ」はその場のノリです(ぇ

      スーパーバーニングwwww
      し、ししししし神秘!!!!????((((落ちつけ
      面白いですか、ありがとうございます!
      正解でしたか。よかったです。
      怪我の巧妙が生んだ神秘……!!??((混乱中

      ブクマありがとうございまアアアアアアア(((黙らせるためチョークアタック

      2012/07/31 03:22:55

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