-AWAKING-
仕方がない。
気づかれてしまったからには、どうにか始末するか仲間に引き入れるしか方法はないのだ。しかし、彼が仲間を作ることを黙認するとは思えないし、彼女自身も仲間を作ることにまだ意義を見出せないで居るのだから、どうしたものだろう。
今のうちは大人しく眠ってくれているだろう、いや、眠っていなければおかしいのだ。スタンガンで気絶させたのだから。
イライラを吐き出すように大またで奥の部屋へと向かうと、赤いカーペットが長い廊下をきれいに飾っていた。
一番奥にある木の扉を開くと、ソファの肘掛に頬杖をついて目を瞑ったままのキレイな顔をした青年がいた。
「お兄ちゃん」
そうメグが呼びかけると青年は切れ長のシャープな目を開き、目の前に居るメグへゆっくりと視線を動かした。紫色の長い髪をポニーテールのようにしている彼は、白い肌を隠すように厚着をしているようにも見えたが、よく見るとそれは侍の服装を少し真似ているようにも見え、細い目はまつげが長く、深い青に近い紫色をしていた。
「…どうした、メグ」
「あの相手の男の子は確かに捕獲(?)出来たんだけど…」
「…逃げられたのか」
「ううん、ちゃんと居る。けど、一緒に来させた二人が気づいちゃったみたいで…」
「…口封じは」
「まだ。スタンガンで気絶させてる」
無関心でもあるかのように動かない兄をみて、メグはなんとなく不満を覚えた。
「お兄ちゃん、どうするの?」
青年はため息をついてしばらく考えたような表情になると、ひじをついた左手の人差し指が、木の肘掛をカツカツと叩いた。
「…仕方ない。それも捕まえておけ」
「いいの?」
「…ああ」
その答えだけを聞き、メグは部屋を出た。
目を開くとそこは自分が通された部屋とは程遠く、虫だらけだったのがこんどはツタだらけに変わっているのだ。おまけに両手足がツタに絡まれて身動きがとれず、ワイシャツも破けている部分が見える。
「なんだよ、これ」
そう、誰も居ないことを知りつつも呟いてしまうのは、“お約束”というやつだろうか。
魔法を使ってどうにかしようにもこう足場が不安定では、魔方陣を作る場所がないので、魔法を使うことが出来ない。この状態で使える魔法は回復魔法と極小レベルの魔法のみで、そんな小さな魔法ではこのツタ一本を切るのにどれだけの時間がかかることか。
「…今、いつだ?」
顔を上げて時計を目で探す。
自分の顔よりも少し低い位置にアナログ時計がかけられていて、それは11時8分をさし、時計の中心より少し下の辺りにデジタルのような部分があって、そこには『午後』と表示されていた。これではアナログなのかデジタルなのか、分からないがそれを深く追求している場合ではない。
どうにかツタを切るなり裂くなりして、ここから一刻も早く出なければ。二人のことが心配である。どうしようもない、どうにかやるしかない。――が、この場合、どの魔法を使えばいいのだろうか。魔法にはそれぞれ属性というものがあり、その属性ごとに対象に与える効果が違うのだ。炎属性はツタを燃やすことは容易であるがレンも燃えてしまいかねない。水属性は攻撃には向かず、守備・防御系統に向いた属性。草属性ではツタを増やすだけ、岩属性は多くの魔力とともに体力を消費するのでこの場から脱出できるかも怪しくなる。雷属性など使えば植物より人体のほうが電気を通すので、即感電だ。足場がもっと安定すれば、『無属性魔法』という強い魔法でどうにかできるのだろうが、足場がこうも安定しなくては無理がある。どうするべきか…。と、レンの頭に一つのアイデアが浮かんだ。
小さな魔法でもいい、レンはぶつぶつと呪文を唱え始めた。その呪文は草属性の魔法だった。地面のような床から細い草が生え始め、どうにかレンのつま先が当たる程度まで伸びてきたのを確認すると、もう一度同じ呪文を唱えた。それを何度も繰り返した。
そうしているうちにか細かったツタがある程度の太さにまで成長し、しっかりと足場が出来上がっていた。時計に目をやれば、すでに2時3分になっていた。
ここまで出来れば、すぐだ。
今度は違う呪文を唱える。見る間にツタでできた足場に魔方陣が現れ、風を巻き起こした。家具がガタガタと音を鳴らしていた。
真夜中、何かの音で目が覚めたメグは音のする部屋へと走った。その部屋は、あの少年を閉じ込めた部屋だったので、一応扉には内側から開かないように仕掛けが施されているが、心配になり、インカムのボタンを一つ押した。
するとまるで牢獄のような鉄格子が現れ、廊下をふさいだ。
ドキドキを抑えながら、扉を開いた。途端、何かが飛び出してきてメグの顔を踏み台にしてとび、床に着地すると鉄格子をすり抜けようとしたのか鉄格子へと突進していった。しかし鉄格子を通り抜けることは出来なかった。なぜなら、鉄格子には高圧電流が流れており、触れた瞬間に感電してしまう仕組みになっていたのだ。
しばらくがんばっていた『それ』もぱたりと倒れ、メグが近づいてよくよく見るとそれは金色の毛を持つ小さな狐だった。
「…ほう、金色の毛を持つ狐…」
「そう。あの部屋に閉じ込めておいた少年だと思う。悪魔は変化できるから。ずっと廊下が通れなくなるのも困るから連れてきたんだけど」
そういって居るのはメグだった。その腕の中には苦しそうな顔をした子狐が抱かれていた。メグはその子狐を兄の方まで連れて行くと、兄にその子狐を抱かせ、自分は何かを出し始めた。
「…で、それをどうにかするために臨時で檻を作ったんだよね。ほら。もとの体に戻られて魔法使われるより、こっちのほうが扱いも断然楽!」
「…で?」
「だから、お兄ちゃん、それはこれに入れるとして閉じ込めたままの子達は?」
「…」
青年はまた考えるように目を閉じた。
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