5.
「さあ、その両手をどけてごらん」
「あ、あの……巡音先輩、あたし、まだ心の準備が……」
「大丈夫。私に全てを任せてくれればそれでいいの」
「で、でもでも、あたしなんかでいいんですか? 寮内には、あたしよりももっと素敵な人は沢山いるのに……」
「あなたは、私では不満?」
「い、いえ! そ、そんなこと……ない、です。身に余るくらいの、光栄……です。け、けど」
「けど?」
「胸だって、小さいっていうか、みんなからはつるぺたとか言われるくらいですし、今着てる服も、ほとんどグミ先輩に借りたものですし……。め、巡音先輩にしてもらえるんだったら、一番お気に入りの格好してるときがよかった、かもって……思っちゃって。それに、グミ先輩の部屋でなんて、グミ先輩にばれちゃったら……」
「そんなこと心配しなくても大丈夫よ。それに、今のあなたは十分に魅力的」
「め、巡音先輩! や、やだ急にそんなこと……恥ずかしいです」
「ふふ。恥ずかしがるあなたも可愛いわよ」
「うぅ~。イジワルですよぉ」
「ごめんなさい。でも、本当のことなのよ?」
「本当の本当に、ですか?」
「本当の本当に、よ」
「本当の本当の本当にですか?」
「本当の本当の本当によ」
「本当の本当の本当のほんっっっとうにですか?」
「本当の本当の本当の本当に決まってるでしょう? 私って、そんなに信用ないかしら」
「そそそ、そんなこと! ただ、なんていうか、今の状況が全然信じられなくて。巡音先輩も、いつもと雰囲気が違う感じがしちゃって……ごめんなさい。なんだか疑ってるみたいで……そんなつもりは少しもないんですけど」
「……ぎくっ」
「? 巡音先輩、どうかしたんですか?」
「い……いや、なんでもないでござ――なんでもないわよ」
「……? それならいいんですけど」
「大丈夫だから、あなたは気にしないで――」
「は、はい。あ、ンッ……」
「ふふっ、いい声よ」
「巡音先輩……あたし、あたし巡音先輩のこと……」
「わかってるわ。私もあなたのことが好きよ」
「嬉しいです……」
「それじゃあ、いいわね?」
「は、はい……」
 バッシイィィィーン!
「いいわけ、がッ……! ないッ、でッしょおぉーがぁ!」
 私はグミの部屋に入るなり、部屋の中にいる二人に向かって、全力でそう叫んだ。なお、さっきの効果音は私がグミの部屋の扉を開けた音だ。もう、蝶番が壊れちゃうんじゃないかってくらいに思いっきり開けてしまった。
「えっ……? え、えぇぇ? あれ? め、巡音、せんぱいが……二人?」
 と、目の前の光景がまったく理解できないという風に目を白黒させているのは、部屋にいた二人のうちの一人、当初のゴ○ブリ騒ぎの際の被害者だったはずの初音さんだ。そういえば、グミが「部屋にかくまっている」と言っていたし。
 彼女はグミのベッドに横たわり、というか優しく押し倒され、もう一人に服を脱がされる直前の状態だった。なにせもう一人は彼女の着ているシャツのボタンを全て外して、薄手のぴったりしたキャミソールをまくり上げようとしていたのだ。もし、あと一分でも来るのが遅かったなら、彼女のシミ一つない白磁の肌は、あますところなくもう一人の人物にさらされてしまい、すみずみまで蹂躙されてしまっていたことだろう。危なかった。本当に間一髪、危機一髪というところだった。ギリギリで、かろうじて初音さんの貞操は守られたのだ。
 その初音さん――長いツインテールの、グミよりも鮮やかな緑色の髪の毛を持ち、腕も脚も腰も細く、うらやましいくらいに胸が小さ……スレンダーな少女――を押し倒し、覆い被さるようにしているもう一人は、もはや説明するまでもない。私の姿をした変態、極悪人だった。
 さっとグミの部屋を見回して、手近にあった拳銃と手錠を手に取る。S&W、M29。スミスアンドウェッソン社の誇る、その昔、デザートイーグルが現れるまでは最強の拳銃とまで呼ばれた銃で、通称44マグナムと呼ばれる回転弾倉式拳銃、つまりはリボルバータイプのハンドガンだ。映画『ダーティー・ハリー』でクリント・イーストウッドが使っている。銃身が八インチのブラックモデル。銃身は映画の六.五インチよりも長いタイプだが、グミのチョイスはあいかわらず渋すぎる。いえ、私も好きだけれど。
 触るのは初めてだが、使い方は知っている。セイフティを外して撃鉄を起こす。銃身の先と撃鉄にある凹凸を自らの視線に重ねることで、変態の胸の中心に狙いを定める。いくら近くても、拳銃なんてものは反動とかがあるから簡単には命中しない。小さな頭を狙うよりも、胴体を狙った方が確実だ。それに、反動が大きいとはいえ、ちゃんと構えていれば女子供でも撃てるはずだし。
「偽物さん。撃たれたくなかったら、すぐに両手を挙げなさい!」
「め、巡音先輩……? えっ? に、偽物なの?」
 私と変態をきょろきょろと見比べる初音さんの言葉に返答する余裕なんてなかった。初音さんに馬乗りになっている変態がゆっくりとこっちに視線を向けるのを見ながら、私は一言追加する。
「手を挙げても撃つわ!」
 考えてみると、撃たないという選択肢を選ぶ理由がまったく存在しなかった。背後でグミが「それは理不尽では……」などとつぶやくが、完全無視。
 ――?
 そういえば、グミはなんでこんなもの持ってるのかしら。モデルガンよね?
 しかもリボルバーだなんて。まさか、サンタさんがくれた……ってわけじゃないわよね。
 追及するのはやめておこう。回答を聞くのがなんとなく怖いし。
「お嬢様……おやめ下さい。それは……」
 グミに返事をしている余裕はない。初音さんはまだ変態の手の届く範囲にいる。ためらっている暇などない。覚悟を決めろ、私。たかが私のフリをした変質者一人。殺したところで、誰も困らない。寮内での私の評価を気にすることもない。むしろ皆からの人望はより厚くなるはず。あとは警察と司法だけれど……学園長がもみ消してくれるはずっ!
 あくどいと言わば言え。私の行為は――変質者を殺すということは――絶対に正義なのだからっ!
「覚悟ッ!」
「――ッ!」
 人さし指に力を込め、引き金をしぼる。その引き金は、思ったよりもずいぶんと軽かった。
 ダメだとわかっていたのに、思わず目を閉じてしまう。
 そして――あまりにも呆気ない、軽い破裂音が室内に響く。
 銃の反動も、思っていたよりも少なかった。というか、ほとんど感じなかった。ずいぶん古い型式の銃だというのに、反動のほとんどを相殺できる構造なのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。そもそもの銃弾の口径からして反動がないなんてありえない。
 だが、ともかく……私はやったのだ。
 あの変質者を、殺した。
 ――この手で。あまりに簡単に。
 全身の力が抜け、構えていた両手を降ろす。
 私は顔を上げて目を開き、天井を見つめる。
「ああ、グミ……。あなたの仇、確かにとったわ……」


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Japanese Ninja No.1 第5話 ※2次創作

第5話

 Japanese Ninjaなので、当然忍者を出すとして、Japanese Geishaとして、忍者と別にルカを出そうとして、今のような感じになりました。
 ですが、ルカ嬢に芸者的な要素が未だ欠片も出てこないっていう……。
 芸者を出さなきゃ2次創作にならないと思いつつ、芸者を出す余裕が全くないことに悩みつつ続きを書いてます……。


「AROUND THUNDER」
http://www.justmystage.com/home/shuraibungo/

閲覧数:121

投稿日:2011/08/03 22:04:54

文字数:2,876文字

カテゴリ:小説

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