インカムから聞こえる声にクスクスと笑いが起きていた。顔を真っ赤にして俯く聖螺ちゃんにクロアさんが笑いながら話し掛けた。

「お前ちっちゃい頃から変わってないんだな…。」
「そ…それは…その…!こ、子供だったんです!大好きな番組の王子様で…だ、誰だってそう言うの
 あるじゃないですか?!サンタさん信じてたりとか!」
「無ぇよ。」
「あ、サンタクロースはヤクルちゃん早い段階でネタバレされちゃった。」
「夢のある家庭だったんですね。」

笑い合う皆を見てると少しだけ緊張が解れて来る、でもやっぱり不安は消えなくて、胸の中で燻るみたいに悪い事ばかり考える私も居て、中に入れなくて少し遠くからそれを見ていた。

「ちゃんと飯食ってるのか?」
「え?あの…純さん?」
「前見た時より痩せた気がする、顔色も悪いしね。」

何も返せなかった。だって本当に何も食べられなかったから。味が無くて、香りが無くて、砂を口に入れてるみたいで飲み込めなくて、殆ど点滴で身体を持たせてた。言ったら叱られる…心配掛けたくない…そんな事を考えてはまた食べられなくて、悪循環が続いてた。

「別に…。」
「ちょっと!聞き捨てならないわよ芽結ちゃん!」
「へっ?!」
「そんなに細いのにまだ痩せるなんて不健康だよ!ちょっと待ってて!」

威勢良く言い放つと鈴々さんが何処かに電話を掛けていた。ぽかんと見ていると不意に携帯にメールが来た。送信者…幾徒さん?顔を上げるとこっちを見ていた幾徒さんがモニターに視線を戻しキーを叩き始めた。どうしてメールなんだろう?直接言えば良いのに。

『医療班から報告受けてるよ、睡眠薬は駄目って言って置いた』
『解ってます』
『いーや、解ってない。どうせ「心配掛けちゃう」とか「怒られる」とか余計な事考えてると見た』
『そんな事ありません』
『どうだか』
『大体幾徒さんに関係無いじゃないですか、仕事にも支障をきたしてなんか居ませんよ』
『流船中毒禁断症状、お疲れ様。何なら替わりに抱き枕してあげようか?』

「――っ!!幾徒さんセクハラです!!」
「ぶはははははは!!…やっと怒った。」
「え…?」
「子供が黙るな、泣いとけ馬鹿。」

立ち上がって大きな手で頭をくしゃくしゃ撫でられた。また溢れそうな涙を飲み込むみたいに少し顔を上げる。隠す様に瞼に置かれた手が何だか嬉しい。大丈夫…そう思えた。作り笑いじゃなくて、ちゃんと笑顔になれる。

「幾徒さん。」
「ん?」
「お腹空きました。」
「芽結ちゃん、さっきウチの店の特製飲茶セット頼んだから、それ食べて元気出しなさい!良い?」
「餃子は?餃子、焼き餃子。」
「もぉ、クロアってば空気読む!」
「おいおい、液状のもんは機材に近付けるなよ…?」


『―――徒…幾徒!…付けた…間違いない…流船だ…!』


ノイズ交じりの声に一瞬にして緊張が走った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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コトダマシ-86.瞼に置かれた手-

閲覧数:91

投稿日:2011/02/07 23:27:52

文字数:1,198文字

カテゴリ:小説

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