「ランちゃんも、ドーナッツ1個食べる?」
言いながら、カイトさんが2個あるドーナッツの内の片方を私に差し出す。少しだけ右に傾けられた首がどこか愛らしくて、私は一瞬だけ首を縦に振りかける。
だが、そこで気付いた。
「あ、いえ。私の分は下のリビングに置いてあるので、大丈夫です」
「あー、そうなの?残念」
一体何が残念なのか少しだけ気になったけど、カイトさんはそう言うなりすぐにドーナッツを口に含んでしまったから、それを邪魔するのも何だか気が引けて。私は、渋々言いたいことを溜息と共に飲み込んだ。
さて、ドーナッツさえ渡してしまえば、私がカイトさんの部屋にいる意味は一切なくなってしまう。
きっと、ただの妹分になりきれれば、ここで雑談をするなり何なりできたのかもしれないが、残念ながらもう私は妹という身分で満足できなくなっている。私はこのままここに居たいくせに、変なプライドのせいでそれが出来ない自分に呆れながら「それじゃあ」とカイトさんの部屋を去ろうとした。
「待って、ランちゃん」
カイトさんの穏やかな声。背を向けているのに、その表情が優しく微笑んでいるのが手に取るように分かる、そんな声。
その声には強制力なんか微塵もないくせに、私の足は呆れたことに、言葉が耳に触れた瞬間にその動きをピタリと止めた。そして、部屋を去るために動いた時とは比べものにならないくらいスムーズな動きで後ろを振り返る。
そこには、笑顔のカイトさん。
「最近寒くなってきて、日が暮れるのが早くなってるよね。だから、バイトが夜6時過ぎる時は、メールで良いから前もって終わる時間連絡して。そしたらバイト先に迎えに行くからさ」
「あ、いや、でも。カイトさんも忙しい時とかあるだろうし」
「平気、平気。それより、夜道でランちゃんに何かあったら俺が嫌だから」
カイトさんは「俺が」の部分に少しだけ力を込めて笑った。きっと、私が申し訳ないと思わないように、そうしてくれているんだと思う。やっぱり大人だ、カイトさんは。たかが4歳差なのに。それが少し悔しい。
私はにこにこと微笑んだまま私を見続けるカイトさんに根負けして、最終的には「はい」と頷いた。「宜しくお願いします」と付け加えて。
「約束だよ?もし連絡しないで1人で帰ってきたら、怒るからね」
私は内心で、きっとこんなこと言っても実際は起こったりしないだろうなカイトさんは、何て思いながら「分かってますよ」と返事を返す。そして今度こそ引き止められることなく、部屋を去った。
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