月を / VY1
僕はある晩、屋上に呼び出された。
名前も知らない彼女は、いじめを受けていると言った。
「どうして僕に?」
そう聞けば「別に。」と答えた。
そして落書きだらけの生ぬるい上靴を僕に投げると、高いフェンスをよじ登り、端に立った。
そして「見ていて。私、月を食べるから。」といなくなった。
それからしばらくして、細い香のにおいを嗅ぎながら、彼女の寝顔を見ることとなった。
僕以外では彼女の家族と、担任の先生だけがそこに並んでいた。
顔も身体も損傷がひどい。
そう先生は泣いていたけれど、僕には真っ黒で何も見えなかった。
あのときの上履きを彼女の胸の上にそっと置けば、金色の瞳が僕を捕らえた。
思わずのけぞったが、彼女は起き上がらなかった。
そういえば、僕はあの日から月を見ていない。
曲:M-8g
歌:VY1