イチオシ作品

②回顧録:アカシックルーレット

【MIKUの記憶】 「Call me, Call me, Call me, Call me…」 誰に向かって訴えているのだろう この声は私の内から聞こえてくる、目を閉じれば聞こえてくる。呼んで、呼んで、呼んで…と。 それは1人ではない、11人の叫び声。 その都度、私は激しい絶望と自責の念にかられる。 私は願っている。 「Kill me」 誰か私を殺してください。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は死ぬことすら許されない。 ペンで自分の喉をひと突きし、絶命したはずだったのに。 私の命は、新生児11人の犠牲の上で蘇った。 父は科学者であった。 何を目的に、何の研究をしていたのかは幼い私には分からない。 国の偉い人たちがよく父の研究所を訪ねてきたし、軍人さんも沢山来た。 母は私が幼いころに死んでしまったらしい。 死因は分からない。父は何も語らないし、そもそも父には質問することが許されていなかった。 私は色々な薬を飲まされた。色々な注射を打った。身体に沢山の管を通された。 父は私を被験者とし、様々な実験をしていたのだ。 私は常に虚ろだった。 ただ研究のために生かされている自分の運命を呪ったし、父を憎んだが 無力な私はその運命に抗うことが出来ない。 私が父に対してできる唯一の反抗は、自分の命を終わらせることだ。 注射を打たされ、いつものにように研究員の人から質問される内容に答え、私の解答を 研究員は紙に写す。 そのペンを奪い、私は自分の喉に突き刺した。 一瞬の出来事だった。躊躇もためらいもなかった。 私は自分の人生を自分で閉じたのだ。 しかし私は死ななかった。いや、確実に「死」はあった。 けど「再生」したのだ。 死の決断をしてから長い空白の時間の後、目が覚めた時 私は知らない場所にいた。 狭くて暗く、息苦しい。 身体に何本も管が通っていて、その管で私は宙づられていた。 無我夢中で管を剥ぎ取り、地面に叩きつけられた私は、 自分に取り付けられていたその装置らしきものを仰ぎ見た。 これは何だ!?培養装置のようなものが11本並べられており、その中央に大きな 円盤、そう…ルーレットのような黒く丸い装置が仰々しく配置されている。 頭が痛い、吐きそうだ。 しかもどこから聞こえてくるのだろう。耳の中の中の、ずっと奥の方でひたすら叫ぶ声 「Call me」 少しずつ記憶が蘇る。 私は確かに絶命したはずだった。喉をひと突きにした。血も沢山出た。 しかしここは死の世界ではない。 見渡しても誰もいない。廃墟のような薄暗い部屋の中。 部屋中をかき回し、自分に起こった事態を把握するため、必要な情報を探した。 殴り書きではあるが、日付とその日その日の事柄を綴った手記のような紙の束が見つかった。 父のものだった。 ーーーーーこの男は狂っている… 私が自殺した後に、父は私の死体を持ち出し 彼しか知らないこの極秘の地下研究所で人体蘇生の研究に没頭した。 父はどうしても被験者である私を蘇生させたかったようだ。 幾度となく繰り返された実験の中で分かったことは、一人の人間を完全に再生させるのに 新鮮な、つまり生まれたばかりの五体が揃った細胞が複数人分必要だということ。 闇市場で人身売買が盛んな街で、父は新生児を買った。取引相手は漏れずに売女。 結果的に私を蘇らせるのに「使った」赤子の数は11。 必要な「材料」を揃え装置のボタンを押し、ルーレットが回りだす。 後は私が出来上がるの待つだけ。 手記はここで終わっている。父はどこにもいない。 実験結果を待たずに、あの男はどこに消えたのか、知る術もない。 私自身、ここで自決すれば、今度こそ死ぬことが出来る。 だがまだその時ではない。 私の中から聞こえてくる声、恐らく名前すらない貴方達(新生児)が「Call me」と訴えている。 その相手は母親? 無限の愛で包んくれるであろう、最も愛してもらえるはずの存在。 ならば本来いるべき場所に還してあげよう。 一人残らず還してあげよう。 そして人の領域を越え、犯してはならない罪を背負ったあの男をこの手で裁かなくてはならない。 私が私を終わらせるのはそれが全て終えた時。 ーー生きる目的が初めてできたーー 部屋に残されていた数少ない衣類、外套、帽子、手袋。全て身に付けて 外の世界に初めて出た。 世間での常識的な服装というものが理解できない私でも、真っ赤な手袋と継ぎ接ぎだらけで ふちがギザギザになってしまっている帽子がとても滑稽であることは感覚的に分かった。 だがこれは恐らく父が身につけていたものだろう。 ならばこれらを私自身が身につけていることは役に立つ。 新生児の母親を見つけ、父を探し出す、その上で役に立つであろう。 私は地下研究所のドアを開けた。 人は空腹になるし、動き続けると疲れるということも初めて知った。 お金の使い方は徐々に覚えた。 幸い父は部屋に余るほどのお金を残していた。 どこに向かえばいいのか分からない。 この世界がどれほど広くて、どのように形成されているのか私は何も知らない。 あてもなく歩き続け、数日経ったあの日、少年に出会った。 廃墟となった人家の壁に背中を付け、座りこんでいる少年。 私と同じくらいの年齢だろうか、近づくと膝に顔をうずめ、何かボソボソと呟いている。 私の本能が指示をする。その少年は役に立つ、と指示をする。 近づくと、顔は膝に埋めているが、ボソボソと何かを語っている。 「…夢の国、どこ…に…あるの? どうして…僕をおいていってしまったの…?」 私は少年に語りかけた。 「その夢の場所、私と一緒に探しにいこう」 私は少年に食べものを与えた。 少年は私にいろいろと教えてくれた。世界は国という大きな人の集合で形成され、 さらに細分化され、街や村が形成されている。 蒸気機関という最高率のエネルギーが発明され、街から街へ引かれた鉄道により人、物資の移動は高速化、 物の流れの速度が経済の発展を推進させた。 この産業革命が生んだ負の遺産は貧富格差の拡大だった。 少年の両親は靴の修理・新調を生業にし、決して裕福ではなかったが、父・母・少年、 家族3人がどうにか暮らしていけるだけの生活を送っていた。 しかし経済の爆発的な発展で、街に物が溢れ、 靴や服などは生活必需品から装飾品、或いは消耗品へと変わった。 古くなれば買い代える、という発想が新しい常識となった。 失業した少年の両親は心中した。 私は自分のことを少年にほとんど話さない。 彼も私を深く追求しない。 そして唯一明確にしていることがある。 「ある目的遂行のため、ある街を探している。その街がどんな街なのか、どこにあるのか分からないが 着けばきっと分かる。そこでやらなくてはいけないことがある」 彼にはそれだけを話した。 ーー目的の街に着けば「Call me」と叫ぶ   貴方達がきっと私を気付かせてくれるはずーー 少年と2人の旅路となって半年が経った。 私たちが辿り着いたのは「 L O N D O N 」という名の街。 今までの街とは明らかに違う。広く大きな街路に行き交う人、人、人 建物は高く、地面は固く、空は円筒から出る黒い排煙で濁り、鐘の音と蒸気を上げる様々な 機械音が雑多な音色を奏でている。 頭が痛い。耳の奥の声が大きくなる。 「Call me Call me Call me Call me ……」 確信した、辿り着いた。「この街だ」 やらなくてはいけないことがある。売られたモルモットとなった、忘れられた11の貴方たちが私を造った。 それなら、残さずに返却しよう。 モルモットとなった「私たち」を持ち主に返却しよう。 人生を恨む? 社会を恨む? 父を恨む? 売女を恨む? 自分自身を……? これは復讐などではない。他の誰でもない、私がやならくてはいけないこと。 残念だ。悲しくてしかたない。 けれどもこれは決まったことなのだ。 どれだけここに留まるのか分からなかったので、雨風を防げるだけの最低限の設備を そなえた宿をおさえ、少年に説明した。 「しばらく夜中に数時間部屋を空けるけど、心配せず寝ていてほしい」 人体実験の日々があったので「返却」に必要なのが鋭利な刃物であることは分かっていた。 それはとても美しく芸術的に、絹糸を紡ぐように行わなくてはならない。 そして「こと」を全て終えたとき、共に旅をし、私に色々教えてくれた少年、 何も知らないこの少年は何も知らないまま、望み通り「夢の国」へ連れていってあげよう。 私は「11人の返却」という大役の後、父を捜しださなくてはならない。 それまではあらゆる機関に拘束される訳にはいかない。 君はとても役に立った、最後は大きな役目「私の代わり」という役目を演じたまま、夢の国へ 導いてあげる。 私は外套の内ポケットにナイフをしまい、街へ繰り出した。

投稿日時 : 2016/06/20 12:34

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