はじめまして。君に掬われてここにやってこれました。
掬われる前は少しだけ息苦しい青い水槽(ケース)の中で
活きの良い『演技』を強いられてました。
だってみなさん、死んだように泳いでいるのなんて掬いたくないでしょ？
でも君は違いました。言葉を発せない僕に優しく微笑みかけて、
「演技なんてもういらないよ」
そう言ってくれました。
ああ、ありがとう。とても救われました。心が、気持ちが。
でもそれを君に伝えることは出来ない。
声は出ないし、涙は水に溶けちゃうんです。


こんにちは。君に掬われてここで生活できてます。
掬われた後は、綺麗な鉢でのんびりと、演技もせずに歪んだ世界を眺めてます。
きっとみなさん、今日も活き良く泳いでいるのでしょう。辛くないでしょうか？
いつ掬われるかも判らず心を減らして。……僕がそうでしたから。
「おはよう、今日もいい天気ね。」
ああ、ごめんね。きっと会話できたら、楽しいだろうね。
でもそれを君に伝えることは出来ない。
涙は出ないし、声は泡になっちゃうんです。


それからみなさん、活き活きとした僕が想像できますか？
多分できるでしょう、僕も普通の金魚ですから。
けれどもみなさん、恋しちゃった金魚が想像できますか？
恋した瞬間、叶うことはないと知った絶望感が。
それでもみなさん、僕は今でも泳ぎ続けています。
どうにかして思いを届けたい一心で


ああ、切ないね。笑顔の君の姿が、部屋からいなくなる。
こうしてまた一日を過ごします。あなたの「ただいま」を待ちわびて。
ああ、苦しいよ。声も気持ちも想いも歌も捧げることは出来ない。
それから最後になっちゃったけど、ごめんなさい。
君の笑顔を涙で濡らして、君をひとりで残してしまって。
僕の願いが叶うなら、少しだけでいいから君に伝えたい。
「さようなら」、「とても幸せでした」、……「すくってくれてありがとう」



こんにちは、僕は今、青い水槽(ケース)の中で泳いでます。
『演技』を知らない僕だけど、何だか不思議な気持ちです。
綺麗な鉢でのんびりと歪んだ世界を見る、そんな僕が見えるんです。