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小次郎の枇杷の木剱

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ないとう

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 待ち伏せしていたのは武蔵が集めた浪人たちだった。武蔵は最初からこれを狙って小次郎の弟子たちに論争を仕掛け、小次郎が試合せざるをえない立場に追い込んだ。試合は木剣、味方は連れてこない約束だった。

 しかるに武蔵は真剣を携えた浪人たちを連れてきていた。

 小次郎は小刀を持っていたが、これを捨てた。秘境未練を残さぬためである。

 武蔵は先に出るどころか数十名の浪人たちの背後に隠れていた。

 浪人たちは小次郎に襲い掛かる。木陰で様子をうかがっていたのは小次郎を運んだ船頭であった。小次郎は一瞬にして切り殺されたように見えた。ところが次の瞬間、浪人たちが次々と倒され、あるいは飛ばされ、小次郎が浪人たちの間を閃光のようにくぐりゆくのが見えた。

 背後の武蔵は剣を交えることなく退いた。小次郎の剣は真剣の多人数を相手にしてもひるむことなく威力を発揮し、敵にことごとく一撃をかわした。

 武蔵はそれを見て足がすくみ動けなくなった。

 やがて小次郎は剣を掲げ、祝詞を唱え始めた。

 木陰の船頭には何か叫んでいるように見えた。

 浪人たちは気を失っていたわけではなかった。誰も致命傷を負うこともなかったため、小次郎が祝詞を唱えているところを隙とみて襲い掛かった。

 小次郎の剣は太古から三種の神器の奥義を伝えてきたものであった。しかしそれが今回のように争いの種となるならば小次郎はこの剣をいったん神が封印しようとしていると感じた。

 ゆえに小次郎は浪人が襲うに任せ、身を切り刻み、神技を失わしめた。

 これを見て居た武蔵は初めて後悔した。

 この世にかくも優れた剣技があるならば、頭を垂れて学ぶべきであった。自分は相手を陥れ剣も交えず謀略で惨殺した。なんと卑怯であったことか。

 この後武蔵は小次郎の弟子たちに追われたがなんとか切りぬけたが、この衝撃は武蔵の生き方を変えた。

 

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