クイズ:自殺
20XX年
世界は高度成長期によるあらゆるテクノロジーの発展で賑わっている。
自動車は宙を飛び、ロボットがさまざまな形で人間の生活を支えている。
ここにいる一人の少年。彼の名は佐藤徹。
徹は近年の技術発展を利用してある企てをしていた。
それは・・・、自殺すること。
しかし、技術の進歩と文明の発展はそれを容易にはさせてくれない。
巡回型ロボットがセンサーに捉えた人間の生命ステータスを取得し、命に危険を及ぼす状態である場合、救急信号を発し即座に救命ロボットが対象の治療に取り掛かるシステムができていた。
もとは超高齢化社会における“孤独死”を防ぐ目的で導入されたが、同時に自殺を抑圧する効果もあったため、このシステムは世界的に評価された。
この“ロボットによる救命システム”を開発した人物が佐藤一志であり、徹の父である。
父が科学技術の開発や利用で国内のみならず世界中からも評価され功績を残しているなかで、息子である徹は特に秀でた能力も無く、平凡な人間だった。
有名な科学者の息子であることを理由に、国内や世界のメディアからの注目を浴びていた。
徹はそんな生活に嫌気がさし、自殺することを決意したのであった。
しかし、先述の通り父の開発した救命システムにより自殺することは不可能に近い。
なにかあのシステムを掻い潜ることは出来ないかと、徹は父の研究所に忍び込んで手がかりを探すことにした。
救命システムに関する書類は丁重に管理されているらしく、見つけることは出来なかった。しかし、徹は研究所の隅に小さな扉があることに気づく。
扉を開け階段を下っていくと、そこには研究所よりも広い空間があった。
中央には怪しい装置がある。管理パネルのような画面にはこう表示されていた。
“target : 35.747975,139.416847
age : 1999”
その装置は指定した座標の指定した年代にワープすることが出来る、いわゆるタイムマシンだったのだ。
徹はさっそく昔住んでいた地域の座標と自分が生まれた年を入力した。
自ら装置の中に入り、ボタンを押す。
視覚が歪んだ。空間が歪んだ。そして徹は気を失った。
気が付くとそこは当時徹が住んでいた家だった。
掛けてあるカレンダーには確かに生まれた年が書かれていた。
徹は過去にワープしたのだ。
隣の部屋に気配がした。襖を少しだけ開けて様子を伺う。
そこには揺り篭に揺られる赤ん坊がいた。
近づいて揺り篭の中をのぞいてみる。
右目の下のほくろがある。
赤ん坊は生まれたばかりのの徹であった。
徹は少しの間赤ん坊の顔を眺め、はっと思い立ったかのように台所に向かった。
右手に包丁を持ち、ゆっくりと揺り篭に寄っていく。
寝息をすやすやとたてて安息の表情を見せる赤ん坊ののどもとに目掛け、
徹はスーッと息を吸って目を閉じ、勢いよく包丁を振り下ろした。
生き物の肉が引き裂かれる感覚とともに赤ん坊の泣き喚く声が聞こえた。
これで自殺は成功した。
過去が変われば未来も変わる。
過去の存在がなくなったならば、未来の存在もなくなるはずだ。
死後の世界とはあるのだろうか。
そもそも死んでしまったら自分という感覚はあるのだろうか。
そんなことを考えていると、赤ん坊の声が聞こえなくなった。
これで終わったのだと、再び目を開けると、そこには真っ赤な血に染まったひとつの死体があった。
過去の命がひとつ消えたが、未来の命は消えなかったのだ。
徹は自殺できなかった。
問題.
なぜ徹は自殺できなかったのでしょうか。
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