「任せて、マスター。」
……楽器隊も裏方も準備オーケー。
まだ降りたままの幕の向こうから、人の熱と圧を感じる。
僕は大きく息を吸い、目をつむった。
足から響く人のけたたましさに汗が流れる。
ずっと作り続けてきた作品が、こんな場所で演奏されようとしている。
沢山の人たちの耳、体、心を揺らす振動となって熱狂させられる。
「ねぇ、ミク。こんなステージ、夢にも見なかったよね」
隣にいる僕の相棒は、目を閉じたまま頷いて答えた。
「……緊張する?」
少しだけ心配になった僕はそう言った。
目をつむっている相棒が、震えているように見えたから。
しかし、相棒は青緑の長いツインテールを揺らしながら顔を左右に振った。
「……いや、緊張しているのは僕の方か」
そう言うと相棒は僕の方を向きながらゆっくり目を開け、力強くも頼れる眼差しで僕の目を見る。
「──あぁ、そうだよな」
ここまでやってきたんだ。もうあとは──。
「「───!!!!」」
二人でそう話していると突然の大歓声。
どうやら観客席の照明が消えたらしい。
──観客の視線はステージへ。
会場は大歓声でコールをして初音ミクを呼んでいる。
手拍子も入り始め、音楽も段々と大きくなり、地面を揺らし始めた。
風なんてないのに今にも強風に吹き飛ばされそうになる。
そんな中、相棒は一歩、一歩と前へ。
相棒はもう覚悟を決めている。
僕が弱気になってちゃ、だめだよな。
「……ミク!!」
僕の声に反応して、相棒は足を止めた。
頼り甲斐があってカッコよく、それでいてどこか寂しげで震える後ろ姿だった。
僕はそれを見て、全力で背中を押してあげたくなったのだった。
「……今日は最後まで楽しもうな!ミク!」
そう言って送り出すと、立ち止まっていた相棒は振り返ると同時に拳を僕の方へ突き出し、こう言った。
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