拝啓、幼き日の私へ。
痛みに悶えながらも、命を繋いでくれた私へ。
この物語はフィクションであり、
敗者が辿った生涯であり、君へのメッセージだ。
私は今、水平線の中へゆっくりと沈みゆく夕陽と、
果てしなく広がる海が一望できる場所にいて、
私の傍らには、瓶に入っていた市販薬と、
空になったビールの缶が無造作に転がっている。
預金残高は底をつき、路頭に迷った末に、
私がたどり着いたのがこの場所だった。
ここまで読めば、察しの良い君なら、
私がどういう結末に至ったのか容易に想像がつくだろう。
どうしてそうなったんだと怒る気持ちも解るし、
やっぱりそうなったのかと呆れもするだろう。
いや、君はよく頑張ったよ。
頑張れなくなるくらい頑張ってきたよ。
自分なりに、自分のために必死に戦ってきた結果だ。
所詮は、その程度だったというだけの話だ。
誰にも言えないこと、言っても理解されないことを抱えながらも、
自分にできることを探し、生きようともがいてきた。
自分の言葉で、自分の世界で、自分を守ってきた。
どんなに壊れてもまた立ち上がり、自分らしくあろうとした。
今ではそれも、どうでもよくなった。
だから、ここで答え合わせをしようと思った。
万人が考える幸福とは何か?
そして、私にとっての幸福とは何か?
私は今まで、それを自身に問い続けてきた。
だが、自分が納得できる答えは得られなかった。
私は、万人が口にする常識や当たり前が理解できなかった。
私が見てきた世界は歪んでいたからだ。
私は、これまで様々なことから逃げてきた。
学校から逃げ、勉強から逃げ、家族から逃げ、
人間関係から逃げ、自分自身から逃げ、
仕舞いには、人生から逃げようとした。
その結果、散々惨めな思いをしてきた。
下からの眺めは、涙が出るほど綺麗だった。
貴方といると苦しい。
お前は普通じゃない。
早く死ねばいいのに。
今まで出会った多くの人から、
悲痛な言葉や、色んな罵詈雑言を浴びせられた。
とても悔しかったし、何も言い返せない自分に腹が立った。
私は、たくさん人を傷つけ、償いきれないほどの罪を犯してきた。
異常者であることを自覚しながら醜く生きてきた。
私は、心から生まれてきたことを後悔した。
存在してはいけなかったのだと本当に思った。
そして、生きなきゃよかったと、
もっと早くに死ねばよかったと思った。
それに、周りにとって自分はただの背景でしかなく、
自分がいなくても自分の代わりはいくらでもいるし、
どこに居ても必要ない存在だった。
今まで、色んな人に散々迷惑をかけてきて、
自分に手を差し伸べてくれた人たちすら裏切ってきたのだから、
誰に何を言われても沈黙するしかなかったし、
そのことが、余計に自分を苦しめた。
人前では馬鹿げた夢を語りながらも、
本当は全部終わらせたいなんて言えなかった。
仕舞いには、本当にどうにもならなくなってきて、
日に日に心が荒んで壊れていって、
もう、何もかもどうでもよくなってしまった。
君は多分、この世界が許せなかった。
人の善意をファストフードのように消費している社会に嫌気がさしていた。
自分がいつまでも幸福になれない原因を外に求めていた。
けど、結局悪いのは自分自身だった。
自分の不幸は全て自分のせい。
他人のせいでも天罰でもない。
親がどうとか、生まれがどうとか、
そういう問題ではないのだ。
それは自分で起こした現象(結果)であって、
ただ、なるべくしてなったというだけの話。
そのことに、私も最近になってようやく気づいた。
つまり、この人生の一番の加害者は自分自身だ。
君を不幸にしたのは、他でもない私だ。
これは、そういう物語だった。
これを読んで、言いたいことや聞きたいことが山ほどあると思うが、
こんな私を、君にこのような選択をさせてしまった私をどうか許してほしい。
そうこうしている間に、私の世界にも夜が訪れた。
どうやら、騒がしい太陽がようやく眠りについたようだ。
私の頭上には、名前も知らない満天の星々が、
天の川を泳ぎながら仲良く輝いている。
耳をすませば、涼しい夜風が吹き荒れて、
私の門出を祝福している。
結局、独りになってしまったけれど、
誰も幸せにすることができなかったけれど、
私は、君のおかげで多くのことを知ることができた。
痛みも、悲しみも、怒りも、喜びも、夢も希望も、
君が居たから、君が歩み続けてきたからこそ得られた。
今だから言える。
私は、幸せだった。
そして、君の笑顔が好きでした。
今まで本当にありがとう。
生きてくれてありがとう。
お疲れ様。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

幸福の最終定義

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投稿日:2025/12/17 10:22:14

文字数:1,911文字

カテゴリ:その他

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