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少々ホラー童話テイストです。
苦手な方にはオススメしません。
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昔々のことです。
ある村の漁師達の間で、満月の夜にだけ現れる「人魚」を見たという噂が流れていました。
何でも、その人魚を殺してその肉を食べると、永遠に生きられるのだとか…。
その人魚を見たことのない漁師が、一人だけいました。
その漁師の男はとても狡賢く浅ましい性格で、好奇心のあまり人魚を捕らえようとしました。
しかし、一人ではいい方法が思い浮かばなかったので、貝の中でも特別大きい貝にどうしたものかと相談を持ちかけました。
もちろん、捕らえた後に人魚を食べてしまうことは話しませんでした。
代わりに「見たことがないので、一度会って遊んでみたいのだ」と嘘をつきました。
すると、その大きな貝は固い殻を開けて話し始めました。
「なら、私がこの大きな殻で人魚を挟んでやろう」
大きな貝も、その人魚を見たくてしかたがなかったので、男の言うことを信じてしまいました。
何日か経ったある日。
その夜は満月でした。
やがて満月が昇りきると、水面に美しい人魚が姿を現しました。
青く美しい髪に、魚の腹のように白い肌、そして下半身が大きな鱗で覆われていました。
岩の陰から見ていた漁師は、人魚からは見えないように大きな貝に合図をしました。
海の中にいた大きな貝はそれを見計らったように、人魚に話しかけました。
「お嬢さん、こんばんは」
「こんばんは」
人魚のとても澄んだ声に、大きな貝はたちまち夢中になりました。
けれど、すぐに漁師に言われたことを思い出しました。
(人魚は月が傾き始めると逃げてしまうから、早めに捕まえておくんだ)
「とてもいい月だね。こっちで一緒に見ないかい?」
「いいえ、私はここから見ているのが好きなの」
「それはもったいない!私はそこよりももっと月がきれいに見える場所を知っているのに」
「本当に?」
「ああ、本当だとも」
人魚は座っていた岩からおりて、海の中へとやってきました。
大きな貝は「さあ、さあ、こっちだよ」と急かしました。
何も知らない人魚は、大きな貝の言うとおりにその後をついて行きました。
「さあ、ついたよ」
「あまり変わらないわ」
「いやいや、ちょっと眼をつむってごらん」
「分かったわ」
うまく言って人魚に眼を瞑らせると、大きな貝はその殻で人魚の下半身を挟んでしまいました。
絶対に体が抜けてしまわないように、ありったけの力で。
「痛いわ!どうしてこんなことするの?」
「お嬢さんは朝になると帰ってしまうと聞いたんだよ。私はもっとお嬢さんと話していたいんだ」
「やめて!私もう帰らないといけないわ!」
「そう言わないで、私と話していておくれ」
人魚は必死で暴れましたが、力ではどうすることもできませんでした。
すると、疲れて諦めかけた人魚の眼には、一人の人間の男の姿が映りました。
「大きな貝よ、言った通りに人魚を捕まえてくれたんだな」
「ああ、あんたが教えてくれたとおりにしたら上手くいったんだよ」
「そうか。それはよかった」
にこりと微笑んだ後、その男は隠し持っていた銛で大きな貝の殻と殻の間を一突きしました。
大きな貝は身を引き裂く痛みに叫びました。
「何をするんだ!痛い、痛い、痛い!」
「お前が人魚にしたことだろう?」
「やめてくれ!やめてくれ!」
「お前はもう邪魔なんだ、さようなら」
男は顔の色一つ変えませんでした。
そしてもう一度、大きな貝に銛を放ちました。
一瞬大きく叫んだ大きな貝は、さらに殻を固く閉ざし、やがて何も話さなくなりました。
大きな貝は死んでしまいました。
「漁師さん、漁師さん、どうして殺してしまったの」
「仕方がないさ。君は痛いと言っていただろう?」
「今も痛くて仕方がないわ!この貝もかわいそうよ!」
人魚は大粒の涙を流しました。
しかし、男はまたも顔の色一つ変えずに言いました。
「痛くて仕方がないなら、君も同じようにしてあげよう」
その言葉を聞いた人魚は、恐怖のあまり何も言うことができませんでした。
自分の胸に向かって放たれる銀色の銛の切っ先と、漁師の冷たい瞳に貫かれるまで瞬きもしませんでした。
ゆらゆらと、海の水に紅い紅い血が混ざりました。
人魚は、漁師に殺されてしまったのです。
漁師は死んだ貝と人魚を砂浜へ引き上げました。
そして、大きな貝の殻を金槌で粉々に壊して人魚の身体を引き抜きました。
死んでしまっても美しい人魚に見とれながら、漁師は持ってきた包丁でその身体を切り始めました。
魚の身をさばくように。
骨と肉とを切り分けて。
内臓も、眼も、全て取り出して。
そうして、漁師は人魚の肉を残らず喰らいました。
掌についた血を舐め取り、最後の一滴まで残しませんでした。
人魚の肉は、漁師が今まで食べたどの食べ物よりも美味しいものでした。
夢中になって人魚を食べきると、漁師は一つだけ残しておいた青い瞳に穴を開けて小さな鎖を通し、首飾りにしました。
満月の光を浴びてきらきらと輝くその瞳は、宝石のようでした。
朝になると、漁師はゆっくりと立ち上がってどこかへ向かって歩き出しました。
行き先は分かりません。
漁師は遠い遠い国を目指して旅に出ました。
永遠に死ぬことはない不老不死の命を得た漁師は、見目麗しい青年の姿のまま、今もどこかを歩き続けているそうです。
次の人魚を求めているのか、それとも…。
昔々、ある村に伝えられる伝説がありました。
「満月の夜にだけ現れる美しい人魚の肉を食べると、永遠に生き続けることができるのだ」と。
すると、村の人々は口を揃えてこう言うのです。
「その人魚を食べた漁師の青年は今も行方不明だが、遠い国から青年の噂が流れてくる」と。
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秋徒
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初めましてm(_ _)m
素敵です!血生臭くて、洋風な童話の雰囲気を鷲掴みしてて、ゾクゾクきました!
携帯なので、本家様は聴いていませんorzまたパソコンが直ったら聴いてみたいです!
2009/01/01 21:26:41