"ボーカロイド天使"
ボーカロイドの誕生から100年経った世界。
今や彼女らの存在は"歌で人々を癒すハードウェア"となっていた。
自分の元に届いた、明らかに通常個体と違う初音ミク。
発送元を確認したところ、"ボーカロイド天使協会"との記載があった。
同封されていたチラシのサポートセンターに問い合わせたが、
「返品交換はできません」との機械音声が流れるだけだった。
通常の初音ミクと比べて発話が非常に少なく、
購入から一週間経った今でも、僕はまだ彼女の声を聴いたことがない。
得体のしれない恐怖からSNSに写真をアップロードしてみたものの、
下手な合成写真だと嘲笑される始末だ。
ならば直接見せてやろうと外に連れ出そうとしたが、
ミクがあまりに悲しそうな顔を浮かべたので、諦めてしまった。
その表情は幼い子どもの様で申し訳なくなり、
思わず髪を撫でると穏やかな表情をしてくれた。
僕はこのミクを一人にはできない。
週5で出勤していた会社を辞めて、今は在宅でできる仕事を探している。
ボーカロイド天使、彼女の目的は一体何なのだろう?
そんなことよりも、僕は今、彼女を笑顔にする方法を考えたい。
二人きりの部屋で、時間がゆっくりと過ぎていく。
まるで、この世の終わりのようなことへの猶予期間のように。
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