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日増しに衰弱を実感する。あらゆる数値が私に「死に支度を急げ」と告げる。
思えば、娘の亡骸に抱かれて眠る君を見つけて6年が経つ。大きくなった君を見届けたいのに、瓦礫の下で魔物が騒ぐ、世知辛くなった世界に君を遺して逝くことを心苦しく思う。病を得てからというもの、残された時間を君と過ごすか、システムの研究に捧げて永劫に君を守るか、随分迷ったものだ。後者を選んだ私は、きっと戦略家として正しく、かたや唯一の家族として失格なのだろう。今更になり、彼も是もと伝えそびれた言葉が引きも切らず浮かぶ所為でやり切れなく思う。

この日記を書き終えたら、素体への記憶移行を敢行する。最後の工程は完全な片道切符だ。結局、人間の脳は想定を遥かに上回って複雑で、このあと私の脳を物理的にスライスしてコピーされるのは、21世紀初頭のAIにも劣る機能でしかない。…それでも、細切れになっても、現代技術の粋を差し置いても君を守りたい。愚にもつかぬ私の、人間としての矜持と感傷だ。今はただ、人知れず草葉の陰で限りない幸せを祈ろう。そして、私より皺が増え、思い遺しも無くしたら、この場所でまた逢おう。


P.S.
そうだ。君には宿題を出しておく(まあ、階段すら登れない今の私の体力ではソーラーパネルを手に入れられないというのが実際なんだが…)。
3匹と一緒に頑張っておくれ!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

祖父のノート

こんなところまで見ていただきありがとうございますm(_ _)m
本編0:10くらいにチラッと映るノートの内容です。

本編歌詞の一部はこのノートから抜粋している…という設定です。

閲覧数:64

投稿日:2023/08/02 20:27:57

文字数:578文字

カテゴリ:その他

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