
「儚い映画ね」とソファに座る君が零す。
ひび割れた指先を握る。
千切られたカレンダーに二人だけの記念日を。
明日だけを祝って過ごそう、悪夢を見ないように。
飾られた青写真と、幼い頃に読んだ絵本。
「暖炉で燃やしましょう、そうすれば暖かいでしょ?」
綺麗な瞳で微笑んで、糸のほつれた人形を抱えて。
「いつまでも優しく生きて、嘘をついても構わないから」
きっと僕らは一つになれる、同じ罪と罰を背負って。
ヒールの足音、魔法がかかればきっとまだ歩いていられる。
人魚になった夢を見ていた、アスファルトの海に溺れた。
平気な顔で慰める君のことを信じられなくなった。
「神様はいないわ」と独り言ちて君は笑う。
傾いたグラス、溢れる雫をすくう。
窓際ではベッドに伏せて、書きかけの日記をつける。
花瓶に挿したラベンダーはもう枯れてきたから、捨ててしまおうか。
腐り落ちた床の下にうずもれた幸せと、
曇りない母の愛は新たな花を咲かすのだろう。
一粒のドロップの持ち合わせもない僕には、
こんな寓話の結末を書くことはできないと思ったんだ。
間違いではなかったのだろう、託されたことは思い違いだろう。
ありきたりな悲劇、呪文を唱えればそっと気が触れた。
虹を描いたその意味さえ、灯油に浸して火をつけてしまうの?
帰り道が分かるうちに、こんな旅はやめてしまおうか。
ゆりかごの中で目覚めた君と、
少しくすぐったそうに照れる人が。
雨の日はいつも家にいるのを、
嬉しがるから僕も笑っていたんだ。
このまま、眠ろう。
分からないのなら、変わらないでいよう。
枯れた花にまた水をあげよう。
終わりの見えないこの償いを信じて生きよう。
そして、何も聞こえないふりをしていよう。
しあわせな日々を謳い続けよう。
恐れを知らない箱庭に二人きりで朝食を食べよう。
嘘でも、構わないから。
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ワルツの憧憬
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