ティレニアの海に 浮かぶ島影は
ローマを呪い呪われた老帝の 孤独な背を見るようで
古傷のように 刻まれたシワの
ひとつひとつが露と消えた亡者の 記憶をとどめて歪む
虚飾と欺瞞に満ちた 大理石の都を 捨て去って
美しいだけの島を ただ愛しただけ
背徳に溺れるなら 煩わしい全てが
忘却の河に流れてゆくと 信じるほど青くもないのに
ひとりでに増えてゆく 悪辣な醜聞は
どれ一つとっても真実を 映す鏡ではないのだから
もつれた系譜の 末葉は翳り
ローマを肩に背負い生きてゆくには あまりにも脆い若葉
わずかな余生に 残された責は
肥大するこの国を制する術を 後嗣に焼き付けること
懐に入れた雛が 怨嗟の鎖を引く 獣でも
今さら惜しい命など ありはしないから
島風よ暗闇を 駆け抜けて吹きさらせ
憎しみで染めたトガを纏えば 蝕まれてゆくは己と
どんな言葉を並べ どれだけ諭したなら
微笑みに隠された狂気を 融かしきることができただろうか
星のない 夜半の夢魔 のばされた魔手が
誰の手で 何をしたか 見たわけではないけれど
旭日に照らされた 皇帝の亡骸は
帝国の礎と化すように 固くその瞼を閉ざして
鳥たちの囀りも 青海の波音も
どこか遠くに聞こえる朝は 鈍い憂いを残して過ぎた
クラウディウスに生まれ ユリウスの名を継いだ
皮肉ともとれるその宿命を 捨てることもできずに抱え
独り佇む島に 降りそそいだ光は
栄誉とは呼べぬ輝きでも 渇く心を癒しただろうと
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