少しいびつなパレードを、彼は作りあげていく。
彼は随分と前からやっていたようだが、私が彼の没頭している姿を見るのはこれが初めてだった。
カツカツという音と、真剣な表情。
私には苦手だった「指揮」を彼は難なくこなしていく。
私はかつて一度も、あんな好戦的な目つきをしたことがなかった。


それでもきっと、彼には楽しいのだろう。
楽しいから、それをしているのだろう。
嬉しそうに口角を上げる彼を見ているとなんだか私も嬉しくなる。
だけど、彼の楽しみを私も共有できたなら。
きっと、もっと楽しいだろうなと私は心の片隅で思った。
『踏切の前で』
私はまだ踏み出すことができない。




難しい質問だね、と彼は爽やかに笑って、そうだね…と深く考え始めた。
あまり見る機会がない彼の真剣そうな面持ち。
いつも優しく微笑んでくれる彼とは少し違った表情だけど、彼のどんな表情も素敵だ。
私は彼に心底惚れているのだ。

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  • 非営利目的に限ります

踏切の前で

あまりにも孤独で、それでいて凛としていた。

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投稿日:2016/04/29 23:58:22

文字数:405文字

カテゴリ:その他

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