yukifuri_irohaさん

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イチオシ作品

屋上の唄

 三月の日がうららかに照っていた。  いまだ肌寒い、しかし柔らかな風に目を覚ます。  昼休みに、ちょっと休憩と屋上のベンチで寝転がっていたら、どうやら授業が始まってしまったらしい。  あたりはしんと静まり返っている。  身を起こして、軽く伸びをする。背骨が少し鳴って、左上に括った髪が揺れた。  別に、授業などサボってしまっても構わない。    思えば一年が経とうとしている。歌いたくて、田舎から出てきた。   去年の今頃、私は前途に夢を描く少女だった。  歌が好きで、合唱部の有名なこの学園に受かって、両親を説得して、そうしてこの学園に来た。  それが、今はこの様だ。  授業も真面目に受けず、放課となればすぐさまバイトへ向い、疲れて帰って、寝る。それだけの日々。  我ながら、情けないとは思う。  でも、仕方ない。仕方ないんだ。  私は結局歌が好きなだけの―天才でもなんでもない―ただ一人の人間だったんだ。    去年の四月、私は『才能』を目撃し、堕落した。  『才能』は、名を初音ミク、といった。    「屋上の唄」    季節はめぐって四月。  新歓にわく校内の喧騒をよそに、私はやっぱり屋上にいた。  アルバイトは、今日はお休み。  イヤホンに繋いだ携帯プレイヤーからお気に入りの音楽を流して、柵へ頼りかかりながら空を見上げる。  授業は半日終わりだったので、まだ日は高い。遠くではゆったりと雲が流れている。  ぼうっと眺める。  例えばあの雲のように、物を思うことさえ出来なければ、どんなに楽だろう。  例えばあの高みから落ちてしまったら、どんなに絶望することだろう。    中学の頃の私は合唱部に所属していて、その中では一番上手く歌えると信じていた。  実際、みんなも、そして先生も褒めてくれたし、それなりの成績だって上げていた。  それだけじゃない。あの頃は全てが満たされていた。  真面目に勉強して、友達に囲まれて、慕ってくれる後輩もいて。  今では真逆。  授業もろくに出ないからクラスでは浮いてるし、成績も中の下、部活には、入るのを止めた。    トラックが変わって、気付いた。  いつの間にか、耳に流れてくる歌を、口ずさんでしまっていた。  まだ、未練を断ち切れていない。  嫌になってイヤホンを外すと、階下からは合唱部の声音が響いてくる。  幾重にも層をなす歌声の中でも、やはり飛びぬけて上手いのは、件の彼女。  ここで聞いていても判別がつくほどだ。    何故だか涙が出てきた。   いや、本当は理由なんて分かっている。  彼女が、まさに中学の頃の私だからだ。  成績もよく、合唱部の歌姫で、きっとみんなにも慕われているのだろう。   羨ましくも、妬ましい。  いっそ彼女を悪し様に罵れたらどんなに気が楽になるだろうと思ったこともあった。  でも私には、どうしてもそんなことは出来なかったのだ。  彼女の歌声を、好きになってしまったから。 「もう、歌わないんですか?」  突然の声に、思わず振り返った。  そこにいたのは小柄な少年。校章の色から見るに、おそらく新入生ではないか。  癖のある金髪と、翡翠の瞳をした釣り上がった目が印象的だ。 「……聞いてたの?」  涙を見せないように堪えて尋ねた。 「ええ、上手かったっすよ」  ぶっきらぼうに、少年は続ける。 「もしかして合唱部の方ですか?」  その淡々とした口調が癪に障って、きつく言い返す。 「そんな訳ないでしょ。アイツら今勧誘真っ最中なのに」  すると彼は、そういえばそうか、なんて頭を掻く。 「勿体無いな」  ぼそりと、彼が独りごちる。 「なにがよ?」 「いや、そんなに歌が上手いのに合唱部に入らないなんて、勿体無いかと思って」  ……私は、多分こいつのことが嫌いだ。  人の気も知らないで、ずけずけと無遠慮にこちらの領域へ踏み込んでくる。 「私の勝手でしょ」  突き放すように言い捨てると、でも、なんて彼は口ごもった。 「でも、こんなにいい歌声が聞けないなんて、やっぱり勿体無いと思います」  こいつは、一体何様のつもりなのだろう。  そりゃ確かに、私の声を褒めてくれるのは嬉しく感じないこともない。  その言葉に、悪意やおべっかが含まれているわけでもないだろう。  でも、やはり私の歌は初音ミクの歌声には敵わない。そのことは自分が一番知っている。  この少年が彼女を知っているかどうかは分からないが、ちゃんと彼女の歌を聞けば、それは彼にもわかるはずだ。  なのに、こんなことを言われると、私にはまだ出来るのだ、まだ歌えるのだと、勘違いしてしまう。  こいつと話してると、私が乱される。  私の中の諦めの沼から、むくりと希望の芽が葦のように鎌首をもたげてくる。  そんなものを抱いても、叩き落された時に絶望するだけだと分かっているのに。 「もういいから、放っといて」  もう二度とあの惨めさは味わいたくなかった。    なおも、彼は食い下がる。 「じゃあ、俺に歌を教えてください」  何が「じゃあ」なのか理解できない。初対面の人間に、歌の弟子入りをしたいだなんて、とんだ新入生だ。  ……でも、なぜだか。  その瞳が、あの頃の、希望に満ちていた私を連想させて。  そうだ。こんな私でも慕ってくれているのなら、無碍に断るのも気が引ける。  ちょっとだけ、そんな気がした。   「仕方ない。もう、分かったから」 「本当ですか!」  飼い主にじゃれる子犬のように弾む声で、彼はいった。 「もう、アンタには負けたよ。放課後の、空いてる時間だけならね」  うっとうしそうに溜め息を吐きながら、それでも、内心は少し浮き立っている。  どうせ、これで最後だ。歌への未練を断つために、私の持つものをすべて彼に伝えるというのも、悪くはない。 「とりあえず、名前教えてよ」  彼に向って、問いかける。 「俺ですか。俺は鏡音レンです。先輩は?」 「私の名前は、亞北ネル」    こうして、奇妙な逢瀬が始まった。

亞北ネル主人公の学園ドラマ風短編小説です。
続きは時間と気力次第で(^^;
 
コラボ企画「ボーカロイド学園ノベルゲーム(仮)制作委員会」さんに投稿させていただきました。
投稿日時 : 2009/03/02 02:24

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