夜も深まって、深夜にさしかろうとしている頃だった。
小さな子供であるその女の子はベッドにもぐったのはいいが、全然眠くなくて目を開いていた。
そばには確実に美人の方に入るようなきれいな女性がいた。
青緑のショートヘアーに真っ白のシンプルなドレス。スリットが大きく入っていて、そこから肌色の足がちらりと見えていた。
女の子に向かって話しかけてきた彼女は、人形と呼ばれるものだ。いつから存在するのかは分らない。だけど、この世界でこの人形の存在はどこにでもいる。こんなに人に似た形をしているのに、心はなぜか持っていない。そんな不思議な存在だった。
「今日は何の話を聞かしてくれる?」
人形はたくさんの詩(うた)を知っていた。それゆえに、そういった人形たちは『詩謡い人形(うたうたいにんぎょう)』と呼ばれていて、彼らにとって、その詩は『記録』だった。それが真実の記録かは知らない。ただ、その曲達にまつわる知識は豊富だった。
眠りにつく前にその中から1曲の詩を謡(うた)ってもらうのが、女の子の寝る前の日課だ。いつも、話の途中で寝てしまうのだが、今日こそは最後まで聞いてやるぞと毎回意気込んでいるのは内緒である。
人形はしばらく考えて、数あるレパートリーの中から1曲を選んだ。
「そうね、遠い昔の女の子の話にしましょう。」
遠い昔。そう聞いてピンときた。すごい発見をしてしまったぞというようなどうだ、と自慢したがっている感情がよく表情に現れていた。
「いつもの言葉で始まるんだよね?」
その様子を見て彼女はくすりと笑う。
「覚えましたか?」
こくこくと勢いよくうなずく女の子にまた彼女は笑って。ベッドの横にあるランプを置くための棚の引き出しからオルゴールを取り出した。
剣と菫の見事な装飾が施されたそのオルゴールは、『雪菫の少女』と書かれていた。女の子は、その字がなんと読むのか分らなかったが、彼女はそのタイトルを確認して、彼女はオルゴールのねじを3回巻いた。
ずん、たん、たん、と3拍子のメロディが流れだす。すこしすると、別の旋律も加わり、1つの世界を作り上げる。
「ならいっしょに始めましょうか。」
コトリとランプのそばに置いて視線をオルゴールから女の子に戻す。その言葉に女の子は嬉しそうに答える。
「わかった!」
元気よく帰って来た声に、眠気は感じられない。これからされる話が気になって、余計に目が覚めてしまったらしい。
彼女は、手のしぐさで言うタイミングを指示する。
そして、1拍の間。
『昔々、或る所に…』
next→雪菫の少女
或る詩謡い人形の記録 1
※この小説は青磁(即興電P)様の或る詩謡い人形の記録(http://tokusa.lix.jp/vocalo/menu.htm)を題材にした小説です。
ヤリタイホーダイ(http://blog.livedoor.jp/the_atogaki/)というブログでも同じものが公開されています。
こちらの方が多少公開が早いです。
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