聖夜の話【中編・ボーカロイド視点】

バイトを始めて数日後、だがまだクリスマスではない日の午後、カイトはあるマンションの一室で調理をしていた。
 それなりの家賃が掛かっていそうな台所には、ボウルにミキサー、砂糖にバニラエッセンスなどの器具や食材が机に並べられている。カイトはその中で、オーブンをぼんやりと見ている。
「ねぇねぇカイ兄、ホイップってコレでいい?」
「カイ兄、フルーツ切ったよ。次は何する?」
 隣から、一際大きなボウルを抱えた少女と、小さく切ったフルーツを持った少年が、ほぼ同時に話しかけた。カイトは顔を上げ、眼前の少年少女を見る。
 流れる蜜に似た髪に、空色の瞳。なにより、お互いがお互いを鏡に映したようにそっくりな容貌の2人だ。少女は大きな白色のリボンを結び、少年は金髪を後ろで一つに縛っている。ボーカロイドの、鏡音リンと鏡音レンである。
「レン、お疲れさまー。とりあえず机に置いといて。・・・ホイップの方は、まだ掻き混ぜたほうがいいかな」
「えー!もう腕疲れたよぉ・・・」
 リンはぷう、と頬を膨らませ、レンにボウルと泡立て器を突き出す。
「レン、交代して!」
「えぇっ!嫌だよ、やりたいって言ったのはリンじゃんかー」
「いいから替わるの!」
「えっと、リン。俺が替わろうか?」
 リンとレンが押し付けあっていたボウルを、カイトは掬うように持ち上げた。だがすぐに、4つの子供の腕に奪い返される。
「駄目よ、カイ兄が作っても意味無いでしょ!」
「そうだよ、当日は僕達で作るんだから!」
「・・・じゃあ、どっちが掻き混ぜるの?」カイトは困ったように笑って、頬を掻く。2人は黙って、お互いにボウルを持ったまま。
「・・・レン。リンも疲れてるみたいだし、替わってあげたら?交代でするのも悪くないと思うよ?」
「仕方ないなぁー・・・」
 結局ボウルはレンに渡り、レンは泡立て器で力一杯に掻き混ぜた。さっきのように手持ち無沙汰になったカイトは、「疲れたー」と言いながら手をぷらぷらと振るリンに話しかける。
「でもきっと喜ぶよ、六道さん。まだ内緒にしてるんでしょ?」
「うん!あ、絶対に喋らないでよね。サプライズプレゼントなんだから」
「あはは、分かってるよ」
 2人で和やかに微笑む。しかしカイトはその後で短く溜め息をついた。リンは首を傾ける。
「あれ、悩み事?何かあったの?」
 カイトは「何でもないよ」と言って首を横に振る。レンは手を休めて、リンの言葉を引き継いだ。
「何かあったなら僕たちに言ってよ。慰めしか言えないけどさ」
「そうよ!カイ兄にはたくさん助けてもらったし、何でも相談に乗ってあげる!」
「レン、リン・・・ありがとう・・・」
 カイトは眼を潤ませて、袖で涙を拭きとってから、重い口を開いた。
「・・・マスターが、ものすごく機嫌が悪いんだ・・・」
「「・・・・・・え?」」
 双子のユニゾンが綺麗に決まった。
「何だかね、基本口きいてくれないし、眼も合わしてくれないし、歌ってもいいですかって訊いても勝手にすればって言われるし、触ってくれないし、・・・。今までに見たこと無いほどに怒ってるんだ。・・・俺、そこまで悪い事、したのかなぁ・・・ただ、マスターの喜ぶ顔が見たかっただけなのに・・・」
溢れる涙を無視して、停止ボタンが狂ったように喋り続ける。
「久々に眼を見たらまた瞳孔開いてたし、気づいたら手首の傷増えてるし、お前に関係ないって言われるし、日に日に悪化していくし、それに」
「ごめんカイ兄、もういい、もういいからっ!」
「カイ兄ぃごめんね!無理に訊き出しちゃってごめんね!」
 罪悪感に満ちた表情で、リンとレンはカイトに抱きついた。なおも呟くカイトの口を塞ぐ。
「ごめんねカイ兄、こうなったのは半分アタシ達のせいなのにねっ!」
「いいんだ・・・あと数日だし、それまでの我慢だから・・・」
「カイ兄、もう全部話しちゃってもいいよ!僕らのことも話しちゃっていいから!隠し事さえしなきゃ、いつもの優希さんに戻るんじゃないか?!」
「駄目だ。それじゃ2人のサプライズが台無しになるじゃないか・・・大丈夫、兄さん耐えられる人だから・・・・」
 そう言うと乱暴に眼を拭い、満面の笑みを浮かべた。
「気持ちだけでも嬉しいよ。さあ、そろそろスポンジが焼きあがるよ!頑張って美味しいケーキを作ろう!」
 その様子を見たリンとレンは、
「うん・・・リン、ここで引いちゃ駄目だ。カイ兄の為にも、完璧なケーキを作ろう!」
「そうよね。草葉の陰のカイ兄が浮かばれないわ!頑張るわよ!」
 2人で「「えいえいおー!」」と掛け声を合わせた。
「いい子達だな・・・あとリン、それじゃあ俺が死んだみたい・・・」
 オーブンでは、美味しそうなスポンジの焼ける匂いがした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

聖夜の話【中編・ボーカロイド視点】

初めてではない方は今晩は。この度は読んでいただき、ありがとうございます!初めての方は初めまして、今更ですが、この話は『聖夜の話【前編】』の続きです。まだ読まれて無い方は、http://piapro.jp/content/dgkexfdloko49pzpを読んで下さると話がわかるかもしれません。読んでいただきありがとうございます!(何度言うのかと
今回はボカロ視点です。そしてボカロオンリーです。・・・ボカロ視点があるということは、【中編・マスター視点】もあるということです。しかもボカロが一切出てきません。果たしてこんなものを出していのか・・・カテゴリはどうするべきでしょうか?自分には分かりません。
前回も暖かい励ましのメッセージを、ありがとうございます。全てのメッセージに感謝しております。お金で買えない宝物シリーズベスト5に入っています。これからも感想、励まし、駄目だし、何でもいいので書いてください。作者の幸せです。

ここから下↓は説明です。
@舞鶴優希…今回名前しか出てない、カイトのマスター。外では猫被って暮らすヤンデレ女子高生。最近のストレス度はMAX限界。リスカでのストレス発散は危険なので、よいこの皆は真似してはいけません。
@カイト…歌ってケーキ作りもこなすボーカロイド。最近泣かしすぎだよね。でも作者、君の泣く顔大好きなんだ。ごめんね。
@六道…リンレンのマスター。次回出てきます。
@鏡音リン…双子の姉。強気でしっかり者な女の子。レンを尻にしき気味。
@鏡音レン…双子の弟。落ち着いてるけど、ちょっとへたレン気味。リンに尻にしかれ気味。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

閲覧数:227

投稿日:2008/12/14 01:21:39

文字数:1,985文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    少し遅刻しましたが、読みましたよ。
    双子が初登場ですね。会話に特徴がよく出てると思います。
    あとヤンデレマスターが何やらスゴいことになってるようで……詳しくは次回、というわけでしょうか。楽しみですね。
    クリスマスまで、あと1週間。僕の方も、おかげさまでボチボチ投稿出来そうです。
    お互い頑張りましょう。

    2008/12/17 16:04:41

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