「あなた、私を馬鹿にしてるの?」

豪奢な玉座から、うら若き美貌の王女は冷たく相手を見下ろした。

広く天井も高い室内に、高い声が余韻を残して鈴のように響く。
壮麗な大理石の柱と贅を凝らした黄金に飾られた謁見の間に見えるのは、玉座のリンと背後に控える家臣が2名、そして目の前に跪かせた蒼い髪の青年の姿だけだ。
わずらわしいことを嫌うリンは、家臣にも来客にも、めったなことで目通りを許すことはない。

「それとも、あなたが馬鹿なのかしら。こんな最低の、どうしようもない求婚は初めてだわ。三国間の平和のために?自分の身を差し出してまで隣国のために尽くされるなんて、ご立派なこと。政治がお好きな殿方らしいわね」

たった今、プロポーズされたとは思えないほど不機嫌な顔で、リンは背後に向けて片手を振った。
控えた家臣たちが姿を消し、すぐに一抱えはあろう箱を手に戻ってくる。
それを青年の目の前でひっくり返すと、中から零れた紙の束が床に積み上がった。

「これは?」
「毎日、馬鹿みたいに届く私への求婚の文よ。その辺の歯の浮くような美辞麗句でも勉強して、出直していらっしゃい。普通、求婚相手というのはこれくらい熱心に口説いたり愛を乞うたりするものよ。例え、あなたみたいに、別の本音があったとしてもね。それが礼儀というものでないの?」

痛烈に皮肉る少女に、青年が心外そうに眉を寄せた。

「大げさな言葉は苦手です。心にもないことを言って相手を騙すようなことは、出来るだけしたくないのですよ。それが私なりの礼儀なのですが」
「呆れた」

真顔で答えた相手に、リンは思わず半眼を向けた。
これではリンに対して、恋愛感情はないと言い切っているようなものだ。

「あなた、そんな調子で、どうしてあんなにご婦人方にもてるのかしら」
「ですから、あれは別に私自身がもてていたわけではなく・・・」
「大体、あなたは今、いわば人質なのよ。私の機嫌次第でどうとでも出来るの。自分の立場を判っているのかしら」

苛立ちを隠しもせず、高慢な態度で言い放つリンに、名立たる大国の公子が苦笑した。

「人質にしては破格の待遇を頂いてますよ。これで危機感を持てと言われても」

余裕を崩さない態度が癇に障り、リンは眉を跳ね上げた。

「牢屋にでも繋いで欲しいの?」
「とんでもない」

否定に首を振り、彼は顔を上げてリンと正面から視線を合わせた。
天窓から降る光を受け、透ける深い蒼の瞳が、少しも揺るがずリンを見つめる。

「私の求婚が、政治の都合だけで、気持ちを無視し過ぎていることはわかっています。それが、貴女に対して失礼だということも。ただ、今はこれ以上のことは言えません。個人的な感情で口説くには、私は貴女のことを何も知りませんから。貴女の外見の美しさや、とても素直な方だということは、会って間もない私でもわかります。それが好ましいとも思います。ですが、それが貴女の全てというわけでもないでしょう。まずは貴女のことを知るために、もう少し時間をくれませんか」

静かに凪いだ色を、リンは黙って見返した。

ここで、馬鹿げた求婚にも和平にも否と答えてやれば、この男でも少しは焦るだろうか。
取り乱した顔のひとつでも見れたなら、きっと少しは溜飲も下がるだろう。

視線を断ち切るように目を閉じ、玉座に深く背を預け、リンは素っ気無く応えを返した。

「――そう、面白いわ。やってごらんなさい」



ライセンス

  • 非営利目的に限ります

「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第10話】後編

ここから話の軸は、王女様とお兄様サイドへ。
やっと、このターニングポイントまで来ました。

・・・リンちゃん王女はツン全開で参りますv <楽しい


第11話に続きます。
http://piapro.jp/content/167zf47h9rx0j65l

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投稿日:2008/10/29 00:51:53

文字数:1,433文字

カテゴリ:小説

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