何度も読み返した小説に書いてあった
「愛とはこの世で最も美しい存在」
だから僕はその小説に火を点けた
でもやっぱり灰しか残らなかった

愛が砂漠で獲物を待ち続ける蟻地獄ならば
諦めるしかないね
僕もいつか死ぬ ただ早いか遅いかの違いだけさ

ただ後悔があるとすれば
もう一度で良いから君と一緒に冬の星空を見上げたかった。
そして「あれはあれで良かったんだよ」と君の耳元で呟きたかった。

白鷺が西の空を目指して飛び立つ
無表情の景色はあの頃の君を思い出させる。

いつも僕の左隣に居た事が自然過ぎたから、いつの間にか忘れてしまう。
「そうか、もう君は居ないのか」
そんな口癖が君から貰った最後のプレゼントになったみたい。

何度も聴いたCDが歌っていた
「愛だけが世界平和に導く唯一の材料」
だから僕はそのCDに火を点けた
すると黒く輝く液体になった そして直ぐに固まった

それが愛の形なのかな とてもグロテスクな愛
僕にぴったりだ

愛で世界が平和になれば困る人がたくさん居るらしい
奴隷制度が無い現代では、この哲学は完成しないだろう
だから僕は僕の心に火を点けた
でもやっぱり君しか残らなかった

人間の死に直面したとき、僕はいつもこう思うように決めている。
僕の4世代前の祖母の事を考えてみよう。
どんな恋をして、どんな花が好きで、どんな最後を迎えたのか…
僕はその人の名前すら知らない。
そして続けてこう思う。
僕の4世代後の子孫たちもきっと僕の名前なんて教わらないだろう。
そして僕の事を一瞬でも思わないうちに一生を終えるのだろうと。

それで良い。死の定義とは孤独なのだから。

何度も開いたアルバムに写っていた
「本当に大切なものは形として存在しない」
だから僕はそのアルバムに火を点けた
でもやっぱり灰しか残らなかった

灰しか残らなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

snow by snow ~ショート・ストーリー~

2010MEIKO生誕祭で発表する0-9のショートストーリーです。

閲覧数:988

投稿日:2010/11/03 18:52:27

文字数:780文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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