かっこよくて、真っ直ぐで、時々ちょっぴり意地悪で。
練乳バーみたくべたべたに甘やかしてはくれないけれど、
レモンシャーベットに隠れた一滴の蜂蜜みたいな。
気づかれにくくて、なくてはならなくて、知れば何倍も恋しくなる、ほのかな甘み、やさしさ。

――それが、俺のマスターです。



床に置いた携帯とにらめっこ。
メモリーのゼロ番を呼び出しては、発信ボタンを押せずにクリア。
「今頃、何をしているのかな?」
――そればっかりを考えて。
「今ならきっと大丈夫?」「もう少し待った方がいいのかも」
――そんな問答を繰り返した2日間。
どうしても我慢できなくなって、躊躇って、悩んで、悶えること3時間。
良い子が寝る時間をとうに過ぎた時刻に、受話器に耳を押し当てる。

1回、2回。心臓はドキドキ。
3回、4回。最初になんて言おう?
5回、6回。今晩は? うーん、マスターには言い慣れないなぁ。
7回、8回。マスターが無事かどうかはもちろん訊かないとね。
9回、10回。……あれ?
11回、12回。…で、…出ない?

(もしかしてマスター寝ちゃったのかな?)

ちらりと時計に目線を移す。
予定していた時間より遅くはなったけれど、いつもならまだ起きていて、
本読んだり仕事したりTV見たり、それから俺の相手をしてくれたりする時刻だ。

「もしや、マスターの身に何か!?」

瞬間脳内を駆け巡る最悪の光景。
俺の目の届かない場所でマスターがピンチに陥っている姿。
病気や怪我で苦しんでいるのか、事故や事件に巻き込まれたのか、それとも悪の組織に誘拐されて「今すぐ身代金を用意しろ、さもなくばお前の命はない」と銃口を突きつけられ絶体絶命の危機、ああ!! マスターっ!! 俺が今すぐ助けに行きま――!!


『……悪い。メシ食べてる最中だったから出られなかった』

14回目のコール直前、俺を現実に引き戻すには十分すぎるマスターの声だった。

マスターは行儀が悪いことを嫌う。口に物が入ったまま喋るなんてご法度だし、
携帯電話を使いながら食事なんてとんでもない。
ちょっと前まで「スプーンを噛むな」と口を酸っぱくして叱られたのも、
今となってはいい思い出だ。

ああ、だけど、今はそんな思い出に浸っているわけじゃなくて。
久しぶり――四日ぶりに耳にしたマスターの声に感激して、頭が真っ白になっていた。

『KAITO? どうした?』

無言の電話に不審なマスター。
我に返って、必死に第一声を考えるけれど、ありきたりなフレーズしか思い浮かばない。

「……マスター? 今晩はKAITOです!」

『いや、分かってるし』

呆れた声。マスターの「で?」と続きを促す幻聴まで聴こえてくる始末。

(ああっ! 俺のバカっ!)

捻り出した次の言葉にもマスターの反応は薄くて、途端に押し寄せる後悔の波。
失敗してしまった気まずさに、つい声も大きくなる。
平気を装ってマスターの質問に答えるけれど、口を突いて出るのは強がりばかり。
そんな俺の言葉に少ない相槌が返ってくる。
一言には足りない。短い、吐息のような単語。

けれど、それでも、数日振りに耳にできるマスターの声に俺の胸は震えた。


声を聞かせてください。
いつものあなたの声を、もっと、もっと、俺に聞かせてください。

マスター、元気ですか?
マスター、俺がいなくて寂しくありませんか?

――ああ、どうしよう。寂しいと思ってほしいなんて。
マスターがつらい想いをする方がいいなんて、思っちゃいけないのに。
マスターの幸せが俺の幸せ。
マスターの悲しみは俺の悲しみ。
だから、マスターにはいつも笑っていてほしいのに。
ずっとずっと笑顔でいてほしいのに。

マスター、マスター、マスター。
……あいたい。
あなたに、会いたいです。

マスター、俺は寂しいです。
元気なんかじゃありません。
とっても、とっても、寂しくて寂しくて。
マスターと一緒にいられるミクに嫉妬してしまうくらい、あなたに会いたいんです。

落ち込んだ俺に、ミクとミクのマスターが励まそうとおやつのアイスをくれました。
けれど、大好きなアイスがおいしくなかったんです。
バニラもキャラメルもチョコも、全部おいしいはずなのに、おいしくなかったんです。

今一番欲しいのはアイスでも新しい歌でもなくて、マスターの笑顔なんです。

俺のマスターは、かっこよくて、真っ直ぐで、時々ちょっぴり意地悪で。
あったかくてやさしくて、俺のことをいつだってちゃんと考えてくれる人だから。

サミシイ、なんて言っちゃダメだ。マスターに心配をかけるなんてダメだ。


だからせめて。

「早く帰ってきてくださいね?」

それが俺の精一杯。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ミエナイエガオ/ミセナイヨワネ

原作:Akitu 様作【愛コラボ KAITOが電話をしたようです 携帯電話】
http://piapro.jp/content/1re1gltqfyujb7l9

から生まれた妄想ぱらだい(ry
元ネタの続きも素敵すぎるので、読むべきだと心からオススメしますv

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どちらも Akitu様作です。
マスターが出張から帰ってくるようです。【愛コラボ自作品アフターサイド】
http://piapro.jp/content/g5uxizlzp3ipneum
マスターが出張から帰って来たようです。【愛コラボアフターサイド・2】
http://piapro.jp/content/78i0c1bjn7ytztwk

閲覧数:194

投稿日:2008/12/25 08:46:36

文字数:1,961文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • highG

    highG

    その他

    うわぁああああ!!!す、すみません!!片手間作業でやっていたら投稿時間がこんな時刻に!!(土下座)
    ヘボンじゃないですよ!へぼんじゃないから萌えたぎったんです!!(真剣)
    きゅんきゅんですか!?いゃっほぉーい!!
    諸事情ありまして、後編は気長におまちくださいませです^^;
    コメントありがとうございました♪

    2008/12/23 05:06:14

  • Akitu

    Akitu

    ご意見・ご感想

    く、草葉の影から今晩は!
    ずっと出待ちしておりました!!

    何ですかコレ!
    何ですかコレ!!(二回言った)

    な、何だか凄い胸がキュンキュンと鳴っておりますっ!!

    私のヘボンな作品をこんな素晴らしい小説にしてくださり本当に有り難う御座いますっ!!(最敬礼)
    そ、そして何だかリンクまで張って頂いてしまって!(初めての事におろおろ)有り難う御座いますっ!

    ブクマブクマー!!

    2008/12/23 02:14:02

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