波音を背に橋を渡る。
あんなに追いかけて来るようだった波音は、今は穏やかに包み込むようだ。
大通りに出たところで、ミクは人気の無い通りにひとり佇む人影に気付いた。
供も連れない姿の、金髪の青年に目を見張る。

「どうして、ここに?」

驚く少女に、男は呆れたように肩を落とした。

「この間、恐ろしい目にあったばかりだというのに、懲りないな、君は」

そう言われ、やっとミクは思い出したように頷いた。

「本当ね。忘れていたわ」
「大した度胸だ」
「今夜は大丈夫よ、心強い味方が一緒だったから」

胸に手を当てて笑む。
友人のくれた優しい温もりがまだそこに残っているようだ。
その表情を見たレオンが、複雑な顔をした。

「・・・それは君の兄上か?」

思わぬ言葉に、ミクは虚を突かれて瞬いた。

「いいえ・・・でも。そうね、きっと兄にも負けないくらい」
「まったく、ライバルが多いな」
「え?」
「夜の散歩はもう良いのか?それともまだどこか行くのか」

レオンが促す。
どうやら心配して付いて来てくれたらしいと、それで気付く。
ずっと、ここで待っていたのだろうか。
彼女の邪魔をすることもなく距離を保って、ただ危険が及ばないようにと。
愛想に乏しい金髪の青年の顔をミクは見上げた。
待たされた文句も、夜歩きの説教も無く、彼はただ少女の返事を待っている。

「・・・もう十分よ。帰りましょうか」


城への道を辿る、ふたりの歩調はのんびりとしたものだった。
時折すれ違う人影がいても、見咎める人はいない。
誰が思うだろうか、この国の頂点に立つふたりが、こうして供も連れずに夜の大通りを歩いているなど。

並んで歩き始めてしばらく、レオンは唐突に口を開いた。

「何故、君は戻ってきた」

隣を歩く少女を見下ろして尋ねる。

「父親や兄の思惑に反してまで。まだ優れない体調で馬を駆って、随分な負担だっただろうに」

心底、不思議そうな問いに、ミクは青年の顔を見返した。

「花を」

ぽつりと呟く。

「お見舞いに花を贈ってくれたでしょう。私がこの国に入ってからずっと、毎日」
「それだけで?」
「おかしいかしら。私、お兄様以外の男の方に花を貰ったのは初めてだったのよ」
「まさか」
「本当よ?どうして驚くの?」

首を傾げる少女に、レオンは天を仰いだ。

「無理にでも時間を作って顔を出せば良かったな」
「そうしないで正解だったわ。あの時は、とにかく仮病にうんざりしてたんだから」

ミクが可笑しそうに笑い声を上げた。

「私も聞きたいわ」

興味深そうに、青年へ問う視線を向ける。

「どうして、せっかく花を贈るのに、一度も贈り主の名前を出さなかったの?普通、夫から妻への花はもっと大仰に贈られるものよ。私にも周りにも、良いアピールになったでしょうに」
「政略結婚の相手から贈られたのでは、せっかくの花も気が紛れないかと思った。却って気が塞いでしまったら見舞いにならないだろう」

真面目な顔で答えた青年に、ミクは思わず吹き出した。

「噂には聞いていたけれど」
「何を」

笑われて眉を寄せたレオンが聞き返す。

「シンセシスの若き王は真面目な方だけれど朴念仁、と」
「知っている。私はどうも人の機微に疎いところがあるらしい」
「あなたのは、気が利かないんじゃなくて不器用というのよ。損な人ね。あなたは良い人だし良い王ではあるけれど、賢王と呼ばれるには狡猾さが足りないわ」
「・・・立ち回りが巧くないと自覚はしている」

遠慮の無いミクの言葉に溜息をつく。

「君は噂とだいぶ違うな」
「それが私達の最大の武器ですもの。あなたは少し勉強すると良いわ。幸い、良いお手本が目の前にいるわよ」

おどけたように言うミクに、レオンは歩く足を止めた。

「どうしたの?」
「・・・君は今の内に故郷に帰ったほうが良い。いずれにせよ、この国は戦火を避けられないだろう」

真顔で告げる男の顔を見上げ、ミクは小さく笑った。

ほら、お兄様。やっぱり私が気付けることくらい、この人だって気付いたわ。

いぶかしげな顔をするレオンに、ミクは首を横に振った。

「いいえ」
「帰らないつもりか?」

「帰りません」

静かに言い、ミクは微笑んだ。哀しげな笑みだった。「もうお人形はいらないの」



ライセンス

  • 非営利目的に限ります

「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第8話】後編

別カップリング、お嫌な方すみません。
そして、レオンさんキャラクター絶賛捏造中、土下座ですいません。
こっから先、レオン×ミク、ほんのりだけどしっかり話の中に入ってきます。
多分、楽しいのは私だけです。わき道カップルは書いてて楽しい・・・(ぼそり)。

第9話に続きます。
http://piapro.jp/content/xqnoqhjlop4jovnk

閲覧数:1,415

投稿日:2008/09/03 16:22:29

文字数:1,792文字

カテゴリ:小説

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  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    はじめまして。wanitaと申します。
    可愛いだけではない、ミクのキャラがいとしくてたまりません!
    レオン王とのやりとりがすごく素敵です。
    これから楽しみに読んでいこうと思います!

    2010/05/23 17:37:39

    • azur@低空飛行中

      azur@低空飛行中

      wanita様

      ご感想ありがとうございます!
      話中のミクやレオンのキャラクターを気に入って頂けて嬉しいです^^
      そしてレオンが何気に評判良くて嬉しいような、カイトの立つ瀬がないようなww

      長いお話ですが、どうか最後まで楽しんで頂けますよう…。
      宜しければ続きもお付き合いくださいませ。ありがとうございましたv

      2010/05/24 23:26:59

  • azur@低空飛行中

    azur@低空飛行中

    ご意見・ご感想

    わわ、くくる様!!
    お目を通してくださってありがとうございます。だらだら長いですが、お疲れでないでしょうか。
    そして、せっかくカイミクを探しに来て頂いたのに、別カップリングが暴走中ですみません。イバラ道も良いところな、マイナーな組み合わせです。
    うっかり立場がないですねえ、お兄様。そろそろ腰を上げてもらわないと本気で危ういです(笑)。

    遅筆ですが、続きもがんばります。ありがとうございました~v

    2008/09/26 22:39:21

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