僕の名前は風見音レツ、一般的にみるとVOCALOID・鏡音レンの亜種ということになる。レンにリンという片割れがいるように、僕にもセンという片割れがいる。というか、僕たちは始めから亜種だった訳じゃない。元々はごく普通の鏡音リンと鏡音レンだった。
風見音の名は僕らのマスターがつけてくれた。名前が変わったことに始めは戸惑いもあったけど、今では僕らの名前はこれしか無いと思ってる。だって、マスターが初めて僕らにくれたものだから…



ゆっくりと開いた目に初めて映ったのは、「おはよう」そう言って微笑む顔だった。
「あなたがマスター…?」
僕がきくとその人は頷いた。その人、いやマスターの隣には先に起動していたリンがいた。マスターと同じように僕のことを見つめていた。
「今日からここが君たちの家。広いとはいえないけど、自由に使って良いから」
僕とリンは部屋を見渡した。部屋の中はとてもくシンプルだ。パソコン、コンポ、テレビ、ソファ、そしてテレビとソファの間にテーブルがあるくらい。壁にはカレンダーと時計がかかっているけど、これも飾り気のないものだ。ベランダへと続く大きな窓には、水色のカーテンがかかっているが、今は開いていてやわらかな光が差し込んでいる。今日からここで僕とリン、それからこの部屋の主であるマスターとの暮らしが始まる。


僕らがこの家へやってきて数日が経った。僕らはまだ歌らしい歌を歌わせてもらっていない。というのも、実はマスターが音楽は全くの素人だったのだ。動画サイトでVOCALOIDにはまり衝動的に僕らを購入したはいいものの、現在進行形で曲作りとか色々と勉強中なのである。だから簡単な童謡やテキトーに音符を並べただけの曲とはいえない曲ばかり。リンはそろそろ我慢の限界が近いだろう……
「ただいま!」
その日マスターはいつもより早く仕事から帰ってきた。そして帰ってくるなり僕たち2人に話があると言った。表情から察するに話は悪いことではなさそうだけど、僕は何故か胸がざわつくのを感じた。
「マスター、話ってなに?」
リンは胸騒ぎを感じてないのかな。何の話かと興味津々といった様子だ。
「実は、2人に名前を考えてたんだけど…いいのが思いついたんだよ!」
「「は?」」
……?名前?僕はマスターが何を言っているのか理解できなかった。それはリンも同じようだ。さっきまでのワクワクとした表情が一転きょとんとした表情になっている。
「だからね、名前を考えたんだよ」
僕たちがききとれなかったと思ったのか、マスターはもう一度言った。
「誰の?」
「君たちの」
必死にその言葉を理解しようと考えてる間に、マスターはその考えた「名前」とやらを発表していた。
「苗字は『風見音』で、名前は…」
マスターはまずリンの顔を見て、
「君がセン」
それから僕の方を見て、
「で、君がレツ。どう?なかなかいいと思わない?」
なんだかとても誇らしげに言っているマスターだけど、そんなの納得できない。リンなんか考えすぎてフリーズしてる。
「……あれ?反応が薄い。というか、ない?そうか、感動しすぎて何も言えないんだね!」
……マスターその逆です。呆れすぎて、何もいえないんです……
「な、訳ないか…やっぱり呆れてるよね」
この言葉に、リンが復活した。ボーっとした表情が一気に怒りで歪んでいく。額に青筋も浮かび上がって……怖いよ、リン。
「勝手に話を進めないでよ!まずなんで、私たちに名前なんかつける必要があるわけ?!」
もっともな反論だ。僕もそう思う。
「そうだよ。僕らには鏡音リンとレンっていう名前がちゃんとあるんだし」
「うーん、どう言ったらいいんだろ」
マスターは腕を組んで考えている。やがて、顔をあげ僕ら2人を交互に見ながら話し始めた。
「えーと、確かに君たちには鏡音リンと鏡音レンて名前があるけど。でもその同じ名前、さらに同じ容姿で、沢山の『鏡音リン』と『鏡音レン』がいる。だから今ここにいる君たちだけの名前をつけようと思って…色々考えた」
話終えたマスターは困ったような表情をしている。マスターはマスターなりに僕たちのことを考えてくれていた。その結果が新しい名前をつけるだったわけだ。
「僕たちだけの名前……」
「そう。君たちだけの名前」
「いきなりそんなこと言われて、はいそうですかって、簡単に納得はできない!そもそも、『風見音』ってなに?センとレツってどこからきたの?!」
由来、聞いたら納得できるのかな。戸惑ってるような怒ってるような複雑な表情のリンがマスターに詰め寄っている。リンとは対照的にマスターはなんだか楽しそうだ。
「よくぞ聞いてくれました!苗字はね、『風』って字を入れたかったんだ。この字の形と響きが個人的に好きなんだよねー。それで、一応「鏡音」って元の苗字とごろをあわせた結果が『風見音』だ」
「…それで?センとレツってのは?」
「苗字に風を使ったから、名前も風に関係してる言葉にしたんだよ。『セン』は旋風、『レツ』は烈風からとった」
風をイメージして付けられた名前。それが「風見音セン」と「風見音レツ」だとマスターは言う。由来を聞いてもやっぱりすぐにはそれが自分の名前なのだとは思えない。
「とにかく今日からその名前で呼ぶから、徐々に慣れてくれればそれでいいよ」
そう言ったマスターの顔はとても優しい笑顔だった。


あれから数週間が経った。マスターは悪戦苦闘の試行錯誤しながらなんとか曲らしいものを作れるようになってきたし、僕らは風見音セン・レツと名乗ることに違和感を覚えなくなっていた。
でもそれと共に、今度は自分達の容姿に違和感を感じるようになった――この頃からセンは鏡音リン・レンに対抗意識を燃やし始めた。これがコンプレックスというやつだろうか?
そして僕らはついに外見を変えることを決意した。とはいっても、自分達で出来ることは少ない。
まず手始めに髪の毛を染めてみた。センの希望で緑になった僕らの髪。これだけでも結構印象というのは変わるものだ。
それから、髪型も少し変えた。
センはトレードマークだった大きなリボンはやめて、代わりに頭の上の方で二つに結った。
僕は髪を下ろし、前髪も一生懸命撫で付けたけど、どうしても一部ハネたまま直らなかった。
「マスター帰ってきたら驚くかな?」
センが言った。
「うん、きっとビックリする」
「早く帰ってこないかなぁ。ビックリした顔見るの楽しみ!」

しばらくして玄関のドアが開き「ただいまー」とマスターが帰ってきた。「お帰りなさい!」といって出迎えた僕達の姿を見てマスターは、、ポカンとした顔で、「誰?」と言った。この一言にセンがキレてポカポカとマスターを叩き始めた。
「ご、ごめん。痛いイタイ!痛いってば!レツ助けてぇ~!」
僕はプイッとマスターから顔を背けた。さっきの、冗談だったのは分かってるけど……けど、今日は助けてあげない。センの気のすむまで叩かれてればいいんだ。

後日、マスターは僕らにプレゼントと言って大きな紙袋をくれた。中には服が入っていた。僕らが今着ている服と似ているけど、色や形がちょっと違っていた。
マスターいわく、「せっかく髪の色も変えたんだし、それに合う服をと思ってね。知り合いに頼んで作ってもらった」だそうだ。



こうして僕らは現在の姿になった。そんなに前のことじゃないのに、なんだか既に懐かしい。
「レツ?なにボーっとしてんの?」
マスターに急に声をかけられ、驚いた。
「えっ?何ですかマスター?」
「セン起こして。ちょっと歌ってもらいたいんだ」
マスターも最近じゃ、ちょっとずつオリジナル曲を動画サイトに投稿している。僕達がここに来たときから考えると、かなりの進歩だ。動画の伸びは、まあいまいちだけど……
「セン、起きて。マスターが歌って欲しいって」
声をかけ、肩を軽くゆする。ゆっくりと目を開いた。そしてセンは眠そうな目をこするながら起き上がる。
「うたうのぉ…ふぁあ」
「そう。だからこっち来て」
「うん」
センは立ち上がりマスターの傍へと寄る。僕もセンの隣に並んだ。
「じゃあ、これお願い」
手渡されたのは楽譜と歌詞。新曲ができたらしい。きっとまた再生数伸びないんだろうなぁ、なんて思うんだけど僕はマスターの作る曲が好きだ。なんていうかマスターらしい感じがして。
これからもずっとこうしてマスターの所でセンと一緒に歌っていられたらいいと、そう心から思う。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説?】風見音双子ができるまで【設定もどき】

自亜種の風見音双子の派生理由的な話が突然思いついたんで書いてみました。

センとレツの派生理由→マスターが勝手に改名させた!
ただそれだけ。そのため、センがリンに対抗意識を燃やしてる以外には、リンレンとほとんど性格変わらない。

でも別にこれはセン・レツの設定として書いたわけじゃないので、
風見音を書く際は自由に思うまま書いちゃってください。


追記
セン・レツはこんな子です↓
http://piapro.jp/content/t9s16p5fel0lsi1e

閲覧数:1,181

投稿日:2009/01/02 13:09:57

文字数:3,489文字

カテゴリ:小説

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  • りつ

    りつ

    ご意見・ご感想

    >にわかにさん
    面白かったといって頂けて嬉しいです。そして、亜種の見方が変わったとのことも。
    自分では全くそんなつもり無く書いていましたが、そう言って頂けて嬉しいです。
    読んで下さってありがとうございました!

    2009/01/21 21:26:29

  • ミズキ00

    ミズキ00

    ご意見・ご感想

    大量生産されたリンレンに、"自分だけの"と言うことで
    別の名前を用意してあげる…とても面白かったです。

    私、正直今まで亜種ってどうしても苦手だったのですが、
    この小説を読んでかなり見方が変わりました。

    ありがとうございます^^
    亜種の子達もやっぱり大切に思ってあげないといけませんね(>_<)

    2009/01/21 12:30:40

  • りつ

    りつ

    ご意見・ご感想

    >逆さ蝶さん
    読んで下さってありがとうございます!
    そしてコメントしてくださってありがとうございます!
    コメント貰えるとは思ってなかったので、面白いといって頂けてすごく嬉しいです♪
    ブクマも本当にありがとうございます!!

    2009/01/10 21:18:49

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