《わが身こそ　あらぬさまなれ》
《儚くも　散りかひくもる》
《君が身の　懐かし》


くちなしの花の如く　衣を清めて白く
繕い欺いて　鬼の顔隠す
朽ちぬ身の嘆く如く　骸を求めて渇く
朱塗れば染まるも　満たされぬ刀が

贄の臓腑に浸り　鉢を断ち割りて
首　紅を差し飾る
嗚呼愛おしや

ぬばたまの夜に　硬く研ぎ澄まされし此の刃
翳せど見通せぬ黒に戯れて　幾千夜
重ねれど癒されぬ渇きに喘いで
永らえば


首無しの躰を抱く　衣を纏わせて抱く
冷たや寒かろうか　胸の中に抱く
醜く崩れし腕　無惨に腐れし脚に
口付けて睦言　明日の日も共に

髪を集めて被せ　抜けた目を拾う
君などか笑わざる
嗚呼心憂しや

ぬばたまの夜を　幾つ切り捨て過ぐか此の刃
捧げど応えぬかの人は終にぞ　幾千夜
贖うは万死を以て　その身にぞ代えん
君が為


《君が故（いととおし）》
《惜しからざりし（永らう此の身）》
《命さえ（ほつれども）》
《尊きものと（幾夜を隔て）》
《思うは（のちに）》
《逢わんが為》


幾千の月を　一人刃を供に歌い過ぐ
愛せど届かぬ涙の杯を呑み干せば

永劫の時に　罪を重ねて渡る愛おしかな
やがてぞ明けぬる虚しき企てを肯んずれば

石詰みの賽果てとて
朱染めの
黄泉路とて
うたかた



・読み

《わがみこそ　あらぬさまなれ》
《はかなくも　ちりかひくもる》
《きみがみの　なつかし》


くちなしのはなのごとく　ころもおきよめてしろく
つくろいあざむいて　おにのかおかくす
くちぬみのなげくごとく　むくろをもとめてかわく
あけぬればそまるも　みたされぬかたなが

にえのぞうふにひたり　はちおたちわりて
くび　べにおさしかざる
ああいとおしや

ぬばたまのよるに　かたくとぎすまされしこのやいば
かざせどみとおせぬくろにたわぶれて　いくせんや
かさねれどいやされぬかわきにあえいで
ながらえば


くびなしのからだおだく　ころもおまとわせてだく
つめたやさむかろか　むねのなかにだく
みにくくくずれしかいな　むざんにくされしあしに
くちづけてむつごと　あすのひもともに

かみおあつめてかぶせ　ぬけためおひろう
きみなどかわらわざる
ああこころうしや

ぬばたまのよるお　いくつきりすてすぐかこのやいば
ささげどこたえぬかのひとわついにぞ　いくせんや
あがなうわばんしおもって　そのみにぞかえん
きみがため


《きみがゆえ（いととおし）》
《おしからざりし（ながらうこのみ）》
《いのちさえ（ほつれども）》
《とうときものと（いくよをへだて）》
《おもうは（のちに）》
《あわんがため》


いくせんのつきお　ひとりやいばおともにうたいすぐ
あいせどとどかぬなみだのさかずきおのみほせば

えいごうのときに　つみおかさねてわたるいとおしかな
やがてぞあけぬるむなしきくわだておがえんずれば

いしつみのさいはてとて
あけそめの
よみじとて
うたかた