■ハツネミク対話篇 その3

―じゃ、そろそろ始めますか
「本当に始めるの?くすくす……」

―何だか感じ悪いなぁ
「お互い様よ」

―実は最近、ボカロ文化に飽き始めてるんだ
「前から興味なかった癖に」

―そんなことないよ!あんなに曲も作ったし、君だって大活躍してたじゃないか
「ノイズだったりアンビエントだったり、あまり正当派とは言えない使用法だったけどね」

―う……。だって、みんなと同じ曲ばかり作ったって意味ないじゃん。ボカロ曲って、J-POPとかトランスとか、そこら辺のコンビニのBGMでかかってそうなヒットソングのデッドコピーみたいのが大半だよ。そんなのと同じ物作ったって何の意味もないでしょ?
「そうかしら?ボーカロイドを使った曲を聴く人達は、その曲が音楽的にユニークかどうかなんて気にしてないんじゃない?初音ミクなり鏡音リンなり、みんなが漠然と抱くアイドルのキャラクター像に見合った音楽を求めてるんじゃないのかしら」

―そ、そうかもしれないけど、俺はそういうのが嫌いだったんだ
「じゃあ、あなたの自己満足ね。一人で作って楽しんでいればいいじゃない。わざわざ動画サイトにアップしなくたって良かったんじゃないかしら?」

―だって、一人で作ってたって、つまらないんだもん。せっかく作ったんだから、誰かに聴いてもらいたいよ
「それって、たくさん人が歩いている道の真ん中でオナニーしてるようなもんじゃないの?聴衆を意識しないで、一方的に自分の思い込みを押し付けてるだけじゃないのかしら。あんたの曲で、一万再生を超えてるのって、未だに一つもないんじゃない?」

―でも、中には「いいね」って言ってくれる人もいるんだ!
「まあ、豚もおだてりゃ木に登るって言うしね」

―何を言いたい?
「別に……。くすくす」

―要するに、自分では正しいと思ってやってるつもりなんだけど、理解されないんだ。ふう……
「それは、おこがましいんじゃない。『自分は正しいのに、世間が間違っている』って言いたいんでしょ。でも、世間から見れば、間違ってるのはあんたの方。何が正しいかどうかなんて、立場によって全然変わるものでしょ」

―ミクの癖にズケズケ言うなぁ
「私は、あなたが望んだ答えを言ってるだけよ。ボッコちゃんの真似してたときと何も変らない。前に、あなただって言ってたじゃない。ボーカロイドに心なんかないんだ。感情なんかないんだって。じゃあ、私はあなたの心のままに答えるしかできないでしょ」

―僕が望んだ結果、こうなったってこと?
「そういうことね。飽きたなら、私を使うのを止めればいいんじゃない?別に義務でも何でもないんだし」

―うーん。それは考えたんだけどさー
「何か未練でもあるの?あるわけないよね?くくく。だって、あなたは……」

ブチッ(テープを止める音)

■ハツネミク対話篇 その4

―なんだかなぁ。ミクは、もうちょっと癒し系キャラだと思ったんだけどなぁ
「十分に癒し系じゃないの。くすくす……」

―このトークは基本的に自動筆記みたいなもので後先の展開を考えてないから、ミクが何を言うか全く予想がつかないから困るよ
「その方が面白いでしょ。『予定調和なんてつまらない』って、いつか言ってなかったかしら」

―言ってたけどさー。でも、「癒し」って要するに予定調和のことだよね
「先の展開が分かるから安心できる。先の分からない展開は不安になるってことを言いたいのね」

―そういうこと。だから、不安と面白さってのは紙一重なんだ。そういえば、自分でも曲を作るときには、あまり完成形態を考えないで作ることが多いなぁ
「家具シリーズは、割と構成を考えて作ってるんじゃないの。あれって最近は、即興の要素が全然ないじゃない」

―あれは例外だよ。普段は即興をメインにして作ってるから、逆に構成要素だけで出来た曲が作りたかったんだ
「じゃあ、普通のポップソングを作れば、いいじゃない。あんなの、どうせブライアン・イーノとかのパクりでしょ。私を使ってるから物珍しがられたからってだけで。『J-POPのパクりだから、メルトが嫌い』ってよく言ってたけど、あなたがやってることもメルトと大差ないんじゃないのかしら」

―いいんだよ!家具シリーズは、ミクっていう制限の中で作るのが面白いんだから
「本当に私を使う意味があるの?」

―え?
「普通に環境音楽を作って、発表すればいいんじゃないの?くすくす」

―それだとニコ動とかにアップしても、あまり聴いてもらえないからなぁ
「本音が出たわね。要するに、私のことを人寄せパンダに使ってるだけでしょ。自分の曲が地味で聴いてもらえないからって、本音ではボ―カロイドのキャラクター性に飽きてるのに、それに頼って作品を発表している。人として恥ずかしくないのかしら?」

―そ、そんなことないよ。俺はミクのこと大好きだし
「本当に?くすくす」

■ハツネミク対話篇 その5

―ええっと、家具の話が出たついでに、ミクツバウの話でもしようかな?
「話題を変えたわね」

―回が変ったからいいんだよ!実を言うと、ミクツバウは自分の中では大して重要なプロジェクトじゃなかったのに、あのシリーズばかりが話題になることが多くて戸惑ってるんだ
「ユリイカでも紹介されてたよね。くすくす……」

―いやなことを言うな。でも、ミクでノイズをやってるってことばかりがクローズアップされて、あまり音楽性に触れられないことが多いのは寂しいんだ
「そもそも話題に上っただけでもいいじゃないの。たくさんの人に聴いてもらいたいんでしょ」

―だって、一応、真面目に作ってるんだよ。即興とはいえ展開とかも考えてるし
「ガーッとかピーッとか言ってるだけに聞こえるけどね」

―それでいいんだよ。ノイズミュージックなんだから
「メルツバウのパクりでしょ。あんたの曲は、真似ばっかり。他人のふんどしで相撲を取るのもいいところね」

―痛いところをつくなぁ
「本当にノイズをやりたいなら、大御所のネームバリューに頼らずに自分の名前だけで勝負すべきじゃないのかしら。くすくす。初音ミクとメルツバウで、ミクツバウねぇ……。くすくす」

―まあ、最初はダジャレだったんだけどさ
「ほらね」

―誰かやるだろうと思ったら誰もやらないから、早めにやっといたんだ
「そんなことだろうと思ったわ。だって、ノイズにハマってたのって大学生の頃だから、もう十年以上前でしょ。暴力温泉芸者とかAUBEとかハフラー・トリオとか、随分集めてたよね」

―ハナタラシも良かったよ
「あんたが買ったのって、トラットリアが再発した5だけじゃん。ノイズが好きな人が聞いたら鼻で笑うと思うよ」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ハツネミク対話篇 その3~その5

ミクとの会話シリーズ。
某所にアップしていた物を3つまとめて転載。

ミクが非常に口が悪いので
掲載を迷いましたが、まあ、せっかくなので記録として。

なお、ミクがかなり極論めいたことをしゃべってますが、
私がそんな風に考えてるというわけでは必ずしもないので、
誤解しないでね。

閲覧数:732

投稿日:2009/02/27 12:41:02

文字数:2,773文字

カテゴリ:小説

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  • sansui

    sansui

    ご意見・ご感想

    だといいですねー。>そのさん

    2009/03/19 20:34:56

  • sansui

    sansui

    ご意見・ご感想

    そうですか。そうかなぁ……>fudsukiさん

    2009/03/01 15:39:20

  • fudsuki

    fudsuki

    ご意見・ご感想

    とても興味深いです。

    2009/03/01 15:15:30

  • sansui

    sansui

    ご意見・ご感想

    それはなさそうです。>うみぬこさん

    2009/03/01 13:56:44

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