幸せな人……失う事を、恐れているのね…

……し、あ…わせ……?

そうよ……だって、最初から何も持っていなければ、失う事もないもの…………


********

瞼が、開かない。
意識ははっきりしてる、多分。
恐る恐る息を吸い込み吐き出す。
……そうだ、さっき俺は……
「トモ、マキの様子はどうだ?」
ガラッという引き戸を開ける音に次いで、ハルキの声が聞こえる。
「さっき覗いた時はまだ……」
トモの声と、小さく息を吐くシッという音。
大方、ハルキの声がでかいとトモが注意したのだろう。
「そうか……そろそろ部活動紹介の時間も終わるけど、お前はどうする?」
「どうするも、どこにも入ってない俺には関係ないしなぁ。帰宅部はみんな帰った後だろ?」
ひそひそと聞こえる二人の会話。
何故だか、盗み聞きをしている気分になってきた……。
もう一度、大きく息を吸い瞼を押し上げる。
身体が、重い。
酷く深い眠りから無理矢理起こされたような感覚。
薄青い天井が、今にも落ちてきそうだ。
「今…音が……マキ?起きたのか?」
シャッと言う音がして、クリーム色の布の間から友人の顔が覗く。ここは、保健室なんだとぼんやりと思った。
「マキ…大丈夫?」
ハルキの後ろから、トモも顔を出す。
俺はそちらを向いて、笑って見せた。
「倒れたんだよな?情けねぇw」
正直、上手く笑えていたのかわからない。
身体は重いし、頭の中を掻き回されているように視界も揺れている。
ちょっと安心したような、心配そうな友人の顔。
「とりあえず、俺は先生を呼んでくるね」
そういってトモはスカートを翻して視界から消えた。
「……マキ、戻ったのかい?」
トモの足音が遠ざかったのを確認すると、ハルキは出し抜けにそう尋ねた。
「……あぁ、慣れねぇな…」
ハルキに敵わないと思うのは、こういう時だ。
俺が幼稚園の頃に越してきて、たまたま隣の家だったこいつと知り合って以来の付き合い。その長さもあるのかもしれない。
だけど、それだけでなくても……普段馬鹿ばかり言うハルキだが、たまにとても鋭い部分がある。
俺の眼から色が消えた時も、誰にも言わないでいたのに、周りの大人たちが気付かないでいたのに、こいつだけが訊いてきた。
『まぁ君?これ、何色かわかる…?』
あの時の、ハルキの真っ直ぐに俺の眼を覗きこむ瞳。
まるで全てを見透かされている気分になって……俺はやっと、泣けたんだっけか。

「うん、やっぱり熱はないみたいね…もう気分は悪くない?」
そう言って、先生はにこりと笑う。
綺麗に反った薄桃色の唇にちょっとドキドキしてしまう。
色が視えない時は、先生を”そういう風に”見たことはなかったのだけど……人気がある理由が、少しわかってしまった。
「大丈夫です、多分。寝不足だと思うので」
「そう…あまり、夜更かししちゃだめよ?芦田君、一人暮らしなんだし」
「……はい」
夜更かしが原因ではないけれど、あの夢を見て以来、どんなに寝ていても寝てる気がしない。
けれど、やはり周りからはそう見えるのか。
気を付けます、と呟くように言って立ち上がった俺の横から鞄が出てくる。
「はい、マキの」
短く言って、トモが渡してくれた。
「てんきゅ」
トモから鞄を受け取って、脇に挟む。そんな様子を、何故か先生はニコニコと見ている。
「……何か?」
俺が訊くと先生はそれはそれは嬉しそうに返してきた。
「いや、若いっていいなぁと思ってね」
「はぁ…?」
訳のわからない俺と、何故か溜息をつくハルキ。
そして赤くなっていくトモ。
「先生っ!」
心なしか、声が裏返ってもいる。
「はいはい、春川さん。それ以上は墓穴よ~~」
本当に、先生は楽しそうだ。金魚の様に口をぱくぱくさせるトモの様子に、俺は思わず吹いてしまった。
「トモ、真っ赤で本当に夜店の金魚みてぇwww」
「ぅ~~っ」
腹を抱えて笑う俺に、唸るトモ。
こいつ、こんなに可愛かったっけか?
色が付くと、本当に世界が変わった様に見える。
色が消えたときは、その前に環境が変わっていたから、実感はなかったが。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

無秩序3

誰だ、視点変えるとか言ったの。
冒頭の会話?を書きたくて話を進めたなんてここだけの話←

何となく話の流れを考える気になったか???
でも、この先も伏線らしき色んな物も深くかんがえt((

閲覧数:63

投稿日:2014/09/13 16:59:05

文字数:1,694文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました